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三神 雪 過去の話と、現在の五月某日の話。

まだ五月…!!(…す、すみません。桐サイドの五月は過ぎたんです、ホントに←)

『キリエ。こちらの教会が、今日からあなたの家になります。正しくは…あなたの家でもあります』


古くて小さな教会を前に、元・貴族令嬢の彼女は、言葉も無く目をパチパチと瞬かせていた。


『古く、小さな建物で驚きましたか?』


問いかけてみれば、素直に頭を縦に振り…


『…ええ』


と、頷いた彼女に。私は…


『うーん、そうですよねぇ。まあ…そこは、慣れて下さいとしか言えませんねぇ』


そう答え、せめて少しでも華やいだ気持ちになれるように、今は何も植えていない小さな花壇を指して、そこに皆で花を植えましょうか、と彼女に提案をしてみた。


彼女…キリエは私の提案に戸惑いを見せながらも小さく『…はい』と頷いた。





時は少し流れて。ある晴れた日の午後。所用の為、私は教会の留守をシスター(彼女は教会本部より派遣され、十数年。長い間、教会の運営と子供達の世話を私と共にしてくれている)と、キリエに任せて、丘を降りていた。街に入った道中、急ぎ足のトーヤさん(ジルヴァルド王子殿下の従者の方だ)と、すれ違った。


『トーヤさん。こんにちは』

『あっ、神父様っ!こんにちは!』

『何だかお急ぎの様ですが…もしかして、殿下が教会(こちら)に?』

『そうなんです!神父様、見かけませんでしたか!?』

『ふむ。私はお見かけしていませんねぇ。直接、子供達の所へ向かったのかもしれません』

『そうですか、では、私は教会に向かいますのでっ!』


失礼しますー!と言いながらトーヤさんは教会のある方向に走り去って行った―――…






―――三神 雪。現在、高校一年。


僕は小学生の低学年時(三年生位…だったかな)に“前世の記憶”というものを思い出した。キッカケは恐らく、友達の妹(当時、幼稚園生だった)に抱き着かれた事、だと思う。


僕は…全部では無くとも。その人物は穏やかで優しい人だったけれども。…知らない人の記憶がいきなり、頭の中に流れてくるのが怖かった。

幼いながらに、これは人に気軽に話してはいけない事だ。そう思った。

けれど、小学校低学年だった僕に、前世の記憶(それ)を一人で抱えている事は難しく。

僕は記憶を思い出して少し立った頃。とても不安定になり、考えすぎて熱を出してしまったり、夜になると不安で怖くて泣き出してしまったり…そんな日々が続いた。


そんな僕を両親も心配し、学校で何かあったのか、友達とケンカしたのか、いじめられていないか等、聞いてくれていたのだけど…


(…こんな話、できないよ。信じて貰える訳ないよ。怖い…怖いよ!)


…話す事は出来なかった。


それから。時々学校を休む日も出てきた…そんなある日。


「ただいまー!せっちー、久しぶり〜!…ん?何なに、今にも泣きそうな顔して!どうしたー?お姉ちゃんに話してみな?」


少し年の離れた高校生の姉が、学校の創立記念日での休みから、土日に続く休み…三連休の為、木曜日の夜に全寮制の学校から帰省してきた。


姉はパッと明るい夏のヒマワリの花を思い出させるような笑顔で僕の頭をワシャワシャと豪快に撫で回した。


「おねえちゃん…ぼ、ぼくっ、ふ、ぅ…うわあああああああん!!」


久しぶりに会った明るい姉の笑顔に酷く安心した僕は、姉に抱き着き、それはもう…わんわん泣いた。


聞いている方からすれば。きっと、内容がちぐはぐで、解りにくかっただろう。


「…ひっ、く…ぐすっ」


僕は姉に前世の記憶を思い出した事を話した。


話し終えてから、まだ姉が一言も話さない事に、不安な気持ちが大きくなる。


(やっぱり…僕は、おかしな子だと思われちゃうのかな…?)


「……す」


す?


「すごいわ、せっちー!!何、その話!もっと思い出した事はあるの?お姉ちゃん、聞かせて欲しいわ!!…って、騒ぎすぎたかな?ごめん、せっちー」


この当時。…いや。今も…かな。姉はライトノベルと呼ばれる小説にハマっており、更に乙女ゲームと呼ばれるジャンルのゲームにもハマり出していた。


僕が話した“神父”、“キリエ”、“王子”達の事に俄然興味をそそられたらしく…


「おねえちゃん、信じてくれるの?」


そう問い掛けた僕に、頷いて。ギュッと抱きしめて…


「…信じるよ。信じるに決まっている。今まで…不安だったね、怖かったね?でも、もう大丈夫だよ!これからは、また前世を思い出して不安な時には、お姉ちゃんに話して?話せば少しは気が楽になると思うし、せっちーはせっちー。神父様は神父様って、分けて考えられると思うんだ」


そう、優しい言葉を掛けてくれた。


そして、それから僕は姉の提案で、前世の記憶を思い出した時にはノートに、その時の記憶の一部を記すようになった。(後にそのノートを胸に抱いた姉から、ある事を必死に頼み込まれる事になるんだけど…今は、この話はいいかな)


その後。僕は少しずつ落ち着きを取り戻し、両親も安心したようだった。


両親は無理に話を聞こうとはしなかったし、姉も両親に『(あのこ)は、もう大丈夫だよ!』と言ってくれたらしい。









五月某日の夜。僕は小学生の頃からの友人で今では親友と呼べるだろう、剣谷 悠のスマートフォンに電話を掛けていた。


「あ、もしもし。悠くん?こんばんは、きーちゃんにお土産の…そう。お礼を言いたいと思って。代わってくれる?……こんばんは。きーちゃん、雪です。遅くなってしまったけど、この間は遠足のお土産をありがとうございました。家族みんなで、美味しく頂きました」


電話の向こうからは、弾んだ声が聞こえてきた。嬉しそうに笑う彼女(きーちゃん)の姿が見えるようで、僕の口角も自然と上がっていた。


前世の記憶を思い出した時は辛くなる事が多かったけれど、“神父様”が悪い人では無かった事は、救いだった。

そして、思い出した事は、彼女(きーちゃん)が悪い訳ではない。あれは、キッカケに過ぎないのだから。…けれど。僕は、彼女にいつか打ち明けなければならない事がある。それは、もしかしたら…彼女にだけでは、ないのかもしれない。(実際に今。この事を知っている人も居るし…)


「はい、おやすみなさい。…ん?悠くんに代わるか、ですか?いえ、大丈夫です。きーちゃんにお礼を言いたかっただけですから。はい、それでは、またね、きーちゃん」


通話終了を確認してから。僕は、一つ小さく溜め息を吐いた。



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