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キリエと第一王子とユイマ


 キリエ・ソディス。彼女は国内でも指折りの大貴族の一人娘だった。


 キリエをとても可愛がってくれる両親、生まれた時から国の第一王子との婚約も決まっており、恵まれ過ぎていると言っても過言ではない環境と輝かしい未来が約束されたも同然の境遇。


 そんな彼女は周囲から、それはもうベタベタに甘やかされ、歳を重ねるにつれ高飛車で他人を見下すのは当たり前。

 『下級の貴族なんて名ばかりで庶民と変わらないでしょう? 知り合いにだってなりたくありませんわ』内心では本気でそう考える、傲慢な人物へと育っていった。


 キリエが八歳になる春の頃。ソディス夫人の友人で、上流貴族の夫人や令嬢に裁縫を教えている下級貴族の女性が娘のユイマを連れ、ソディス家にやってきた。


 「キリエ様、これは私の娘、ユイマにございます。さ、ユイマ。キリエ様にご挨拶なさい」

 「はい、お母様。キリエ様、お初にお目にかかります。お会いできて光栄にございます。ユイマ・キャロルと申します。宜しくお願い致します」


 白い肌にフワリとした金髪、明るい水色の目をしたお人形のように可愛らしい少女、ユイマがキリエに、にこりと微笑みながら挨拶をした。


 「ユイマさん、初めまして。ようこそお越し下さいました。キリエ・ソディスでございます。宜しくお願いします」


 キリエもまた、微笑を浮かべ優雅に挨拶を返しはしていたが――…


『誰が下級貴族と仲良くなどするものですか。宜しくなんてする訳ないじゃない』と、心の中で思っていた。


 これが、二人の出会いだった。


 …――それから。ユイマは『キリエと年も同じだし、キリエの遊び相手になって下さるかしら?』という、ソディス夫人の言葉から、ソディス家にやって来る事が増えた。


 キリエは表面上――…つまり、夫人らが居る前でだけは、ユイマと仲の良い友人を演じていたが、ユイマと二人きりとなった時などには、態度が変わり、冷たく見下した視線を向け、ユイマに対して嫌味を言ったり、馬鹿にしたりした。


 そして、時には屋敷に飾られていた調度品をわざと壊し、それをユイマのせいにしたり、その他にもネチネチといじめ続けてきたのである。






 

 そんな二人の関係は変わる事もなく月日は流れ、彼女達が十五歳になる頃。城では第一王子の十五歳の誕生パーティーが開かれる事になる。


 誕生パーティー自体は毎年盛大に行われてきたが、今年はキリエとの婚約も正式発表される事となり、キリエはユイマに自分の幸せな所を見せ付けてやろうと思い立った。

 本来ならば下級貴族のユイマには、参加資格のない王子の誕生パーティー。そこにキリエは侍女や侍従の他に付き添いの一人として、ユイマをパーティーに参加させる事にした。


 キリエには知る由もなかったが、ここから、キリエ国外追放の道筋がハッキリできてくる。


 華やかで豪華な装飾が施された城内にある広く大きなダンスホールで、開幕を知らせるファンファーレがホールに鳴り響くと、まずは国王が王子の誕生を祝う祝辞を述べ、次に王子が集まった人々に向けて挨拶をした。


 そして、パーティーが始まり、王子に誕生祝いの挨拶へ向かうキリエとユイマ。


 二人が王子の前に立った時。王子は表情を来客に向けていた穏やかな笑みから、それはもう嬉しそうな笑みへと表情を変えた。それから発した言葉は婚約者のキリエにではなく――…


 「ああ、ユイマ! 来てくれたんだね、とても嬉しいよ!」


 …――キリエなど、まるで眼中にない様子でユイマに声を掛けた。実際、王子にはユイマしか目に入って居なかったのだろうと思う。


 (どういう事なの!? なんで! 婚約者たる私が側に居るのよ!? どうして、王子は下級貴族ユイマなんかに話し掛け、笑い掛けているのよ!!)


 後にキリエが知る事。それは、王子とユイマはパーティーが初対面ではなく、王子がお忍びで城下町に降りていた時、ユイマが何やら手助けをした事をキッカケに会う事が増えて行き、二人は友情を築いていた事。

 そして、王子は身分を隠しながらも、誕生パーティーの招待状をユイマに送っていたという事の二点だ。


 ユイマに招待状が届くなんて事は全く考えに無かったからこそ、キリエは付き人のような真似をさせて、ユイマをパーティー会場に連れて来た。貴女と私は違うのよ? そう思い知らせたかったのに何なのよ――…。


 キリエは言葉が見つからず、そのまま二人のやり取りを見ていた。


 「えっ…!? あ、貴方が…王子様!? 私は、てっきり上級貴族の方だとばかり! ですが、その…髪の色が違います。それに、目もお悪いはずでは?」


 綺麗な水色の目を見開いたユイマは、震えた声で。目の前に立つ、サラサラとした銀色の髪に、自分よりも少し濃いめの空色の目を持つ背の高い、見目麗しい少年…王子に問い掛けた。


 「あれは、側近に用意してもらったものだよ。王子が堂々と城下町を歩く訳にもいかないだろう? 鬘と度のない眼鏡、という訳だ。驚いたかい?」

 「は、はい…」

 「今まで騙していて済まなかった、ユイマ。君と過ごす時間はとても楽しくて、私は君に身分も本当の姿も打ち明ける事が出来なかった。けれど、このまま黙っても居られないと思った。それで、君が私の誕生パーティーに来てくれたと知り、君に打ち明けにきたんだ。ユイマ、どうか、これからも変わらず私の友で居てはくれないか?」

 「い、いえ。身分を隠されるのは当然だと思いますので…ですが、私は下級貴族です。私などが王子様の友などと恐れ多い事でございます」

 「ユイマ。私は、身分になど拘らないよ。君が君だから友人になりたいと思ったのだからね」


 王子が真剣な態度でユイマと向き合っているが…ここに居るのはユイマと王子二人きりではない。


 「っ、まあっ! ユイマさん、貴女随分と王子殿下と仲がよろしかったのですね。私、全く存じておりませんでしたわ、仲良くさせて頂いていたのに…とっても悲しいですわ」

 「っ!? キ、キリエ様っ、あの…私は…っ!」


 顔色を真っ青にしたユイマが何とか言葉を紡ごうとするものの、それは言葉にはならなかった。漸く言葉を発し、怒りと憎しみを微塵も隠さず露わにしたキリエが、そこにいたのだ。


 「フフ、慌てなくてもいいのですよ、ユイマさん。このお話は後で、ゆっくりと聞かせて下さいませ?」

 「君は、キリエ・ソディス嬢だね? 久しぶりだね」


 キリエはその声に、対峙していたユイマをギロリとキツく睨んでから、とても可愛らしい笑みを浮かべ、振り向いた。


 「はい。お久しぶりでございます、王子殿下。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます。お誕生日おめでとうございます」

 「ああ、ありがとう。君もパーティーを楽しんでいってくれ」

 「ええ、ありがとうございます」


 …――と。まあ、私がある時をキッカケに最初に思い出したのはこの辺りと、友でいてくれ〜とか言いつつ、その後くっついた王子とユイマに糾弾され、キリエの国外追放が決定した辺りまでだ。


 なので、キリエと王子とユイマの話をこれ以上しようとした所で、面白い話は大して出てくるものでもないだろう。王子とユイマの話なら、多少甘酸っぱいエピソードもあるかもしれないけど、そんな事はキリエが知る由もない。


 さて。そろそろ…キリエではなく。今の私“剣谷 桐”の話をする事にしよう。

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