剣谷 桐 11歳、5月の話。(7)
五年生になると毎週、金曜日の六時間目はクラブ活動の時間となっている。
六年生と合同なので、結構な大人数になるクラブもある。私達の小学校は部活動が無いので(陸上と合唱だけは、先生が選んだ生徒と希望者で臨時的にだけど、大会数ヶ月前から部活動として活動し、市内の大会とかに出ているみたい)このクラブ活動が部活動代わりみたいなものかな?ただし、運動部よりも文化部寄りなクラブが多い。
だから、本格的にスポーツをやりたい子達は、学校が終わった後や、休日。テニスクラブに通っていたり、地域の少年野球チームに入っていたりと…それぞれスポーツのクラブに入っていたり、空手や剣道などの習い事をしている子もいる。
四月中は仮という事で、すぐにクラブを決めてもいいし、見学して考えてから決めても良い事になっていた。そして、五月から本格的にクラブに所属となる。
私は最初、数少ない運動系の一つ。サッカーが良いなと思い、四月の最初のクラブ活動日に。同じくサッカーを希望していた山やんと見学に行ったんだけど……そこに女子は全く居なかった。何だよ皆、なでしこ目指そうよ!
…なでしこ目指している子は学校のクラブ活動じゃなくてサッカーチームに入っているのかもしれないね。
しかし、男子の希望者は多く、全員くじ引きで抽選となった結果…私は、ハズレだった。そして、サッカークラブの五年生の受付は希望者多数だった為、初回にして終了した。
まあ、男子の中に女子一人は勇気がいるよね。ハズレて良かったのかも。クラブじゃなくてもサッカーは出来るし!ちなみに山やんは当たりを引き当て、サッカークラブに入った。
クラブ見学、二週目。次に向かったのは第二希望だった、調理クラブ。(ここには調理クラブが第一希望だと言っていた七海ちゃんが居る。七海ちゃんは前の週に、クラブ名が書かれたプリントの調理クラブに丸を付けて出していた)調理室に行くと、七海ちゃんや、同じクラスの女子数人。他にも沢山の女子が居た…けど調理室は他の特別教室より広いので窮屈な感じは無かった。
六年生がデモンストレーションでホットケーキを焼いていて、それを見学に来ている五年生に振る舞ってくれた。フワッとして大きな狐色の丸いホットケーキからは甘くて良い匂いが漂っていて、メープルシロップが掛けられてから、六つに切り分けられたうちの一つを遠慮なく頂いた。
「お、おいしい…!」
うん、私も調理クラブに入ろう。運動も好きだけど、美味しい物を食べるのも大好きだ。料理は…作った事無いけど、作り方を教えて貰えば何とかなるものだよね?
「それでは、今日はここまでにします。入るのを決めた生徒は、プリントを提出して下さい。今日プリントを持ってきていない子は、来週のクラブの日に持ってきて下さいね。迷っている子は、まだ人数に若干余裕があるから、他のクラブを見学してからでも大丈夫なので、考えてみて下さいね」
幸い、こちらにはまだ余裕があったので、すぐにプリントを提出した。
それから…顧問になっている、女性の先生…木下先生の言葉で五年生は解散となったが、既にクラブに入っていた子や、今日入った子達は後片付けをしている六年生の手伝いをしていた。(もちろん、私も手伝ってきたよ!)
…とまあ、前置きが大分長くなったけど。そんな訳で今日は五月の活動日、第一回目だったりする。
教室でクラブの準備(と言っても、筆記用具とエプロンと三角巾を持つだけだけど)をして、七海ちゃんと調理室に向おうとしていたら、美術クラブに入った結が絵の具が入ったバッグとスケッチブックを抱えながら声を掛けてきた。
「桐。今日から、クラブで…料理、作るの?」
持っていたエプロン等を見て、問い掛けられ…
「うん、そうなんだ!今までは六年生が作るのを見学していただけだったから、楽しみだよ!」
大きく頷いた。
「そう、なんだ。何…作るの?」
今回、材料は学校で用意をしてくれるらしく、何を作るのか…実はまだ解らなかったりする。
「それがさー、解らないんだよね。計画表とか書かなかったから凄く簡単な物だとは思うんだけどねー、七海ちゃんは知ってる?」
七海ちゃんに聞いてみると七海ちゃんも首を傾げて『うーん…私も解らないな〜』と答え…
「そう言えば…六年生はこの前、蒸しパン作ってたけど、簡単にできるねって言ってたから、今週は私達も蒸しパンを作るのかも〜?材料も余ったみたいだし…それに、小さめにして沢山作った人達は、友達とか好きな人に上げたみたいだよ〜」
…と、続けた。
「そう、なんだ…。……いいな」
結が返事と一緒に小さく呟いた言葉まで聞こえてしまった。
「結。もし、良かったら…えっと、私が作ったやつでも良かったら食べる?感想とか書くから、全部は上げられないけど」
六時間目まである日は、お腹が空くよね。
「…いいの?」
「うん。ただ、味の保証は出来ないけどね」
「…嬉しい。楽しみに、してるね」
うっ、純粋な笑顔が眩しい!眩しすぎる…!これは下手なモンは食べさせられないよね!
「あ、居た。葛西、今日はいつもの六年生の教室は書道クラブが使うんだって、だから今日は隣のクラスに集合だって」
「そうなんだ、ね。川嶋くん、教えてくれて…ありがとう」
川っちも結と同じく美術クラブに入っており、教室の変更を他の美術クラブの子に伝えた後。結に伝えに来て、一緒に移動しようと誘っていた。
「あっ、桐ちゃん。私達もそろそろ調理室に行かなきゃ〜」
「ホントだ!そろそろ、チャイムがなるね!じゃ、結と川っち!またね!」
教室を出ようとして…
「あっ、そうだ!結、帰り教室で待っててくれる?」
「うん?」
「美味しくないかもだけど…早速、今日作ったやつ持ってくるからさ!」
振り向いて、そう伝えたら。
「…うん」
結は嬉しそうに頷いていた。
よーし、頑張るぞ!と気合いを入れて臨んだ調理クラブの活動。
記念すべき一品目は……
「はい、皆さん静かに!五年生は、今日は…ほうれん草のおひたしを作ります。ほうれん草は今から配るから各自、取りに来てね。六年生は、この間の蒸しパンの材料で別のお菓子を作ります。今からプリントを配るので………」
ほ う れ ん 草 の お ひ た し …とな。
…失敗する可能性が低そうで助かるなー!助かる、けど…!!
「どうしようかなー…。お皿や、お箸は調理室のだから勝手に持ち出せないし…ラッピングの袋を六年生に分けてもらう?」
可愛らしい袋に、ほうれん草のおひたしを入れて最後に可愛らしいリボンで結ぶのはアリか…?アリなのか…??
私は、ウンウン唸りながら。鍋に水を汲み、ガスの元栓を開いて、鍋をコンロに乗せて、火を点けるのだった―――…。
クラブの後どうなったかって言うと…
上げると言ってしまったので一応おひたしは、ラップに包む事にし、ラップに包まれたほんの二、三口もあれば食べ終わってしまうだろう量の、鰹節と麺つゆで味をつけたおひたしを結に渡してみると…
「……。ほうれん草?」
目を見開いて、ポカンとしていた。
驚き顔の結、新鮮である。……まあ、大抵はこういう反応するよね。
「ごめん、お菓子とかおしゃれな物じゃなくて」
決して、ほうれん草をディスっている訳ではない。
けど、これは『調理実習で作ったのテヘ!』と言うよりは…『奥さん、これ沢山作ったからお裾分け!食べて!おホホホ!』な感じではないだろうか…。
「あー…いらなかったら私が食べるから返して」
そう言って、手を差し出す私に、結はハッと我に返り、フルフルと頭を左右に振った。
「ううん、食べる。食べるよ。…桐、どうも…ありがとう」
ギュッと。嬉しそうに握り締めていた。
…何をって?ほうれん草のおひたしが包まれたラップを。
うん、喜んでくれたなら嬉しい。けど、そんなに握り締めたら…
「…わっ!」
汁が漏れてくるよねー…。
シリアス気味だったからギャグっぽいのをと思ったのですが…難しいですね;そして、読み難くてすみません;そして、家庭科の授業ではないので、作る物に関しては木下先生の独断という事で読み流して頂けたらと思います…;