第1研修 彼らの心の音符は
異能、超能力、魔法、催眠術、未知…。これらの言葉はかつて存在しない、あり得ないとして恰好を浴びることなく物語の中でだけ活躍した。だが、漫画でもアニメでもなく静かに存在していた。1万人に一人…、0.01パーセントの人間が能力に目覚め、今もここに居る。その能力は目覚めるために何らかのトリガーが必要とされる。
これは後の天才と呼ばれるゴットアイの少年の物語である…。予定です?
それは冷える夜だった。雨が降っていたがそれは後に雪へと化し冬の始まりという時期にはふさわしく急に冷えた夜だった。超能力…レーヴァの研究の第一人者シーグルという髭が分厚く眼鏡の中年の男はその夜、妙な気配を感じたという。研究施設を抜け出した彼は凍える外を白衣に背広という肌寒い格好であたりを見回す。そこには右目は青、左目は金色という不思議な瞳を持つ銀髪の幼い少年がいた。少年は小さな体には大きいシャツをドレスのように来ているだけで、雪を踏んだ素足は赤く腫れていた。よく見ると服にはところどころに赤い液体が流れている。男にしては長いが女としては短い髪は純白で見とれるほど美しい。不思議な瞳はすべてを見透かすように彼をにらむ。小さいがよく整った鼻の上に長い前髪が垂れる。唇の端は下に下がり無表情。唇は柔らそうで、きれいに三日月の光で反射する。真っ白な肌は積もった雪と同じ色だ。ついシーグルは見とれ、数秒沈黙が続く。やっと彼はいった。
「who are you? You have got beautiful eyes. Why are you here?」
「I am….film number 1. I don’t have any memory. I don’t know reason why.」
―君は誰だい?きれいな瞳だね。君はどうしてここに居るんだい―
―僕は…ナンバー1。僕には記憶がない。どうしてか分らない―
「Are you got an amnesia?」
「Maybe. But I know my name. I am Siva.」
―君は記憶喪失なの?―
―たぶんね…。でも名前は覚えてる。僕はシヴァ―
「Okay, Siva. My name is Sygle. I am psi’s researcher. There have Research facility. Shall you come together?」
「…yeah.」
―じゃあシヴァ、私の名前はシーグル。超能力の研究者さ。すぐそこには研究施設が ある。一緒に来るかい?―
―…うん―
凍える夜に記憶をなくしてやってきた不思議な瞳の彼はシーグルに連れられ研究施設に居座ることになった。彼に超能力…レーヴァがあることにシーグルが気づくにはそう時間は掛からなかった。
―4年後―
「シヴァ!!何してるの?」
赤毛のおさげな少女は叫ぶ。そこは屋上。高い建物の最上階。この町で見渡す限り最も高い場所。赤毛の少女はおさげな長い髪にカチューシャを付けそばかすがチャームポイントの美しい顔立ちをしていた。鼻は高くて人形みたいに大きな緑の瞳。その声の届く先に銀髪の青と金の瞳の少年がいた。
「ゼルダ、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。もう訓練始まっちゃたじゃないの。あんたを探して私まで大遅刻よ。」
少年はしばらく考えこんだ後ハッとした顔でいった。
「そうだった!今日は戦闘訓練!!」
呆れた顔でおさげの少女は
「昨日ドクターたち何回言ったと思ってるの。もう!!早くして。本当残念な天才ね、あんた。」
「そういってる癖に一番僕のこと気に懸けてくれるんだよね。」
「お世話係になっちゃったんだもん。仕方ないわよ、てかうぬぼれんな。」
「はーい。」
この少年少女が出会ったのは半年前。アメリカから救急要請で日本のレーヴァ研究施設に少年シヴァが送られることになった。理由はアメリカ施設のテロリストによる爆破事件。日本の政府はアメリカの施設機関にいた数人の子供を受け取ることになったのだ。そして日本語の知らない子供たちに同じく英語の喋れる外国の子供に補佐を付けることになった。そしてシヴァの補佐、いわゆるお世話係にゼルダという少女がつくことになったわけだ。シヴァは自分の年齢を知らないが見た目的にゼルダより年下で背が低い。…のだが、頭がよく2か月で日本語を並みの日本人の大人より詳しくマスターした。今まで受けた筆記テストもAしか取ったことがない。だがたまに、というより普段から抜けていて忘れ物が多い。彼女が言うには残念な天才、らしい。
場面は訓練会場。大遅刻だが出番はまだなのでギリセーフといったとこか。ゼルダの出番はもうすぐだったので更衣室に向かう。訓練用スーツに着替えるために。ゼルダの様子を見てから行こうとシヴァは観覧席に座る。この訓練は観覧席からガラス一枚先に行われる。ガラスといっても政府が特別に開発した絶対に割れない強化されたガラスで訓練中に何があっても観覧席の人には危害を与えないように精密に作られている。しばらく待った後ゼルダの姿が出てきた。ゼルダの能力に完全にフィットした見た目ただのジャージ。これも実はゼルダのレーヴァに合わせて作った世界にたった一つのジャージだ。重さは0に等しいヒノグレモアという珍しい鳥の羽で作ったためジャージの重さは0.2グラム。ほぼ空気同然。ジャージのズボンにはふくらはぎの筋肉を刺激させスピードを3.4倍あげる機能付きだ。ジャージの袖には手のツボを押し空気抵抗を受けないようにしている。まさに速さ重視のジャージだ。彼女の能力は{チーターの牙}。最高時速150キロの彼女の足。そして速攻からの攻撃はまさに獲物を捕らえる赤毛のチーター。さらにジャージの効力で最高速度時速510キロを生み出す。今はそのチーターの花舞台。この訓練の真の目的は今度の遠征にだれをつれていくか、を決める訓練で遠征に行きたがっていたゼルダにはとても大事な事で今日を心待ちにしていた。
訓練の内容は八方に散らばったカカシ17体を制限時間内に確実に倒すこと。また動き、能力の限界、どれだけ生かせているか、を審査員が見る。制限時間は30秒。ゼルダにとって時間には申し分はないがカカシが八方に散らばっているため曲がるのが苦手なゼルダは曲がる際のフォームのみだれ、対応の遅さにマイナスポイントが入るだろう。
いよいよ始まるまでのカウントダウン。…3…2…1…0 目にも止まらぬ速さが飛び交う。速い。審査員たちはもうプロの方々なのでしっかりと目をついていかせる。ただ、それでも驚く審査員の顔。ゼルダのそばに半年いた、何度も怠慢をくんだシヴァにはスローモーションのように彼女を視界に入れる。それにしても、速いそして美しい。きれいに伸びる足。風を切り裂く腕。その速さを保つための軽く細い体。赤毛のおさげは速すぎたためゴムが外れ長い赤い見とれるように美しい髪が空に舞い上がる。0.1秒、たったの最初の一歩で一つ目のカカシに到着する。速かったためその風圧だけでカカシは倒れる。だが驚いたのはその先。シヴァはしっかりと確認した。確かに曲がるのが苦手のはずだ。何度も見た、はずだ。ゼルダの二歩目でしっかりブレーキになりそのまま踏み出す。そのブレーキになった一歩がそのまま次のカカシまで届ける。着くまでの時間は少しづつそして確実に少なくなっていった。計17体のカカシは加速するスピードともに計1秒ともかからず風圧により倒された。最後のブレーキも片足で楽々と。この日のためにどれだけの練習をしたか、シヴァにも検討なんてつかなかった。ただただ誇らしかった。美しいだけじゃなく力も有るんだ、と証明した彼女に。単なる訓練、単なる1秒。だが彼女の遠征へ行くのはもう確実だろう。
シヴァの心に宿ったのはちょっとの嫉妬とたくさんの誇らしさ、そして敵対心だ。シヴァが
「Come on, it’s my turn」
―さあ、次は僕の番だ―
と、小さくささやくのを誰も聞かなかった。
更衣室からゼルダが出てきたのは数分後。ゼルダは制服に着替え直して観覧席に座るそれと同時にシヴァが出てくる。シヴァの服はいつもの制服。彼の能力にフィットさせられる服などないから普段着で十分だからだ。ゼルダには自分に対する自信があった。自分でもよくやったと思う。うぬぼれでもないが遠征には確実に行けるだろう。もちろん、シヴァも…その理由はゼルダは一度としてシヴァに勝ったことはない。彼は学問だけでもなく能力者としても天才だからだ。彼の能力の名は{ゴットアイ}。その能力をしっていて彼の順番を最後にしたんだろう。カウントダウンが始まった。
…3…2…1…0
一瞬だった。瞬きしたかどうかの一瞬彼がしたことはただ気配を強くしただけ。それも小さく聞こえるかどうかわからないぐらい。彼は自分から半径7メートル以内の自分が見たもの全てを好きに出来るという能力。消すことも壊すことも動かすこともすべてが彼のテリトリー内で彼に認識、つまり見られれば彼の思い通り。彼はその能力を気配を強く、つまり力むと発動する。ゼルダと違って使用にはしないといけないことが有るが明らかに桁違い。もともと能力発見するには何らかのトリガーが必要だが、使用時には必要ない。だけどシヴァは変わった方法で能力を使用することできっと発動するんだ、とシヴァはよく言うがきっと違う。彼のトリガーが普通とは違うもので悲しく桁違いなものなんだとゼルダは思う。結局、力むだけでカカシは壊れた。勿論訓練室の壁も床も。あろうことか絶対に壊れないはずのガラスまで。ゼルダは呆れたがそれ以上に誇らしげがあった。そしてそれ以上に嫉妬という名の醜い感情。あと一つ、なんていうか分らない感情が溢れた。
―ああ、これがきっとライバル意識、いや違う。もっとピンク色で柔らかいもの。心地い感情。なんていうのかな。もしかしてこれが母が幼い私に教えてくれた愛という好き勝手な甘い感情なのかな?―
ゼルダは不思議な感情とともに訓練会場の有様に嘆く開発部隊を見ていた。一方シヴァは自信と優越感よりももっと多い気持ちに取りつかれていた。壊れた訓練室から出たシヴァは早口で
「I want to have more power. I think I had got more power when I was child. My wish is get power like that time.」
―僕は力が欲しい。たぶん僕が小さかった頃はもっと力があったと思う。僕の願いはあの時みたいな力がまた宿ることだ。―
とささやく。
ゼルダとシヴァは合流した後ハイタッチを交わした。きっとこれから遠征のために稽古が入る。これからの苦労と未来と輝きが二人を迎える。シヴァは自分の下唇を噛みしめた。