夢と現実と、幸と不幸と――。
ねぇパパ。
今日はどこに出かけるの?
「お前勉強しなきゃだろー?」
勉強は帰ってきたらちゃんとやるよっ
「本当かー?」
うん、明日休みだし、明日ちゃんと勉強するよ!
それならいいでしょー?
「しょうがないな。お前はどこに行きたいんだ?」
私はね、家族みんなで遊園地に行きたいっ
「遊園地かー。久しぶりだし行くか!」
やったー!
「お前は本当に遊園地が好きだな」
大好き!
「そうかそうか。好きなだけ楽しみなさい」
――――そう言って、パパは私の頭をぽんぽんと撫でた。
仕事で頑張ってるからかな、ちょっと硬いけど。
でもとても大きな手だった。
“守られてるんだ”と、そう思えた――――。
ねぇパパ。
褒めて褒めて!
私頑張ったんだよ。
勉強したよ!
たくさん勉強したんだ。
ねぇパパ、頭、撫でて。
私、頑張ったよ。
ねぇ、撫でて。
頑張ったんだよ――――。
ねぇ、ママ。
今日は何を作るの?
卵焼き?
私卵焼き大好きなのっ
「えー、そんなになのー?」
うんっ
ママの卵焼き、すっごく美味しいもんっ
「しょうがないわね。でも卵焼きばっかはダメよ? ちゃんと野菜も食べなさいね」
えー、野菜きらいー。
「好き嫌いはダメでしょー?」
わかったよー……。
「よしっ、いい子ね」
――そう言って、ママは私を抱きしめた。
頭を撫でたママの手はやわらかくてほっとした。
優しくいい子いい子と言う声に私は安心するんだ。
ねぇママ。
私ちゃんと全部残さず食べたよ!
野菜も、ちゃんと食べたんだよ。
いい子ねって言って。
だっこしてよ。
“いい子いい子”、してよ――――。
ねぇ、お兄ちゃん。
今日は何して遊ぶ?
かくれんぼ? それともボールで遊ぶ?
あっ、かけっこ競争もいいね!
「今は忙しいからだーめ」
ねーえー!
ゲームしてないで私と遊んでっ
「あぁもう! うるさいなー。負けちゃったじゃんっ」
あ、う……ごめんなさい。
「はぁ……いいよ。で? 何して遊ぶんだよ」
わーいっ やった!
今日はかけっこしよっ
「かけっこな。はいはい」
……いくよぉー
よーい……どんっ――わっ
「あぁっ!」
うっ……痛いぃぃ……痛いよぉぉ……
「あぁぁあぁ、待った待った、泣くな。兄ちゃんがおぶってやるから泣くな。な?」
「うん……」
――――そう言って、お兄ちゃんは家まで私をおんぶしてくれた。
少し狭いけど、でもやっぱりどこかたくましくて。
一回目の“大丈夫か?”はおんぶが辛くないかについて聞いてて。
二回目の“大丈夫か?”はケガについて聞いてて。
その私に聞いてくる声が本当に心配してくれてんだなって感じた。
私のわがままで、私のせいなのに、お兄ちゃんはごめんなって言うんだ。
そんな優しいお兄ちゃんが私は大好きなんだ。
ねぇ、お兄ちゃん。
今日はね、おんぶしてほしいの。
そしたらケガしなくていいでしょ?
お兄ちゃん大きいから、おんぶ高くて私好きなんだよ。
それならお兄ちゃん謝らなくていいでしょ?
ねぇ、お兄ちゃん。
お願い、おんぶして。
今回は一回だけでいいんだよ。
大丈夫か?って、聞いて。
おんぶしてよ。
大丈夫か?って……聞いてよ――――。
ねぇ、パパ。
どうして頭撫でてくれないの?
ねぇ、ママ。
どうして抱きしめてくれないの?
ねぇ、お兄ちゃん。
どうしておんぶしてくれないの?
ねぇ、どうしてみんな、黙ってるの――――?
ねぇ、どうして、私を見てくれないの――――?
ねぇ、どうして、私を無視するの――――?
嫌だ、私を置いていかないで。
みんな私を一人にしないでよ。
嫌だ――
嫌だ、嫌だ――――
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌――――……
「よしよし、怖い夢見たの?」
ママ? ママだ……
「大丈夫よ、大丈夫」
「なんだ、怖い夢みたのか?」
パパもいる……
「まだ子供だなー」
お兄ちゃん、お兄ちゃんも……
「あんたも私たち親からしたら子供よ」
「親からしたらずっと子供だよ」
「んだよ、俺はもう子供じゃねぇよっ」
「ほら、あんたもずっと泣いてないの」
「みんな、ずっと一緒だぞ」
そっか、よかった、よかった――――。
――――私は一人じゃないんだね。
――――私は、一人、死ぬわけじゃないんだね。
みんな、一緒だね――――。
そうして一人の少女が死んでいった。
まだ幼い、小さな子どもだ。
まだ幼い子供が、また一人死んだ。
そう、“一人”、死んでいった――――。
END.
読んでいただきありがとうございました。
これに関連し、「心の涙」という作品の話の1つ「死の恐怖(http://ncode.syosetu.com/n2563cq/6/)」のほうを読んでいただけると、作者である私の言いたいこと伝えたいことがわかるかと思います。
もしよろしければ読んでみてください。