1
「あーあ、人の心が読めたらなぁ」
少年…山田俊昭は学校からの帰り道、そう言ってため息をついた。
「人の心が読めたら、アイツと喧嘩しなかったのかな。」
アイツ、というのは俊昭のカノジョの伊藤加奈のことである。
お互い好きあっているはずなのに、どうしてこうもすれ違って、喧嘩してしまうのだろう。
喧嘩してしまう理由を思い浮かべて、喧嘩してしまったことを考えて、悲しくなるのだった。
意気消沈しながら、俊昭が歩いていると。
「そこのキミ、人の心が読めたらなぁ、といったか?」
とぼとぼと歩いている俊昭に声をかけてきたのは30代位の男性だった。
どこか、疲れた印象を受ける。
くたびれた、中年のサラリーマンのようだと思った。
「はあ、言いましたけど…」
男性は、ふむ、と考えて。
「人の心が読みたいんだよな?理由は、大好きな恋人と仲直りしたいから…」
「オジサン、なんでそれを」
自分はそこまで声に出していないはずである。なのに、何故?
そう考えていると、男性が答えた。
「私は、人の心が読めるのだよ。今もキミの心を読んでいるんだ。だから、キミの考えていることが分かる。」
それは俊昭が、喉から手が出るほど欲しかったもので。
それを、目の前のこの男は、持っている。
「…私にはもうこの能力はいらないからね。どうかもらってほしい。この能力はね、相互の合意があれば、譲渡できるから。」
「っ…!いいのか!?」
男性は答える代わりに柔和に微笑んだ。
しかし、俊昭は、後に知るのである。
この判断は間違いであった、と。
脚本没ネタの供養
彼はブラックファンタジーが巧い。