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ワンライ投稿作品

究極の関係(あるいはすれ違い)

作者: yokosa

【第44回フリーワンライ】

お題:

恋人以上、友達未満


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 例えば世の中に、恋人以上にお互いを理解し、信頼し合う関係があるだろうか。言葉を交わすこともなく、ただ気持ちを察し、必要な行動をする関係。

 それは夫婦ではない。勿論内縁の関係でもない。純粋さという点で、愛は二者関係の極地ではあるかも知れない。しかし、睦ごとを囁き合うことは生命として正しいあり方ではあるが、完璧なる互助関係の前では雑念でしかない。

 相手を思いやること、相手を尊重することは、相手を理解することとはほど遠い。真なる関係では、ともすれば相手を犠牲にしてでも望みを叶えることがあり得るからだ。

 理解と信頼、その極地にある関係とは、即ち戦友である。戦場において、お互いに命を預けることこそ究極の関係である。隣で戦う仲間とは無言で全てをわかり合える。意図を察することが出来る。そのために自らの命を投げ出すことも出来る。勿論その逆も。

 それは甘い言葉を囁いて寄り添う恋人よりも、愛を語り合う夫婦よりも、濃密で堅い結束だ。恋人ならば――あるいは生涯を誓った夫婦ですら――その関係を反故にし、裏切ることもあるだろう。

 しかし戦友は裏切らない。彼は自分で、自分とは彼だ。二つの命は同時に一つの命である。その価値は完全に同等。一つであり二つである命を生かすために、本当の意味で一つの命となることも惜しまない。

 戦場において戦友とはそれほど尊い存在である。

 とはいえ戦時、戦場を離れれば、それは単なる同僚と化す。元より戦場にあってすら言葉少なだったものが、一言も交わすことがなくなる。そこには友情の萌芽すらない。徹底してビジネスライク、だからこそ純粋なのだ――


 思考はそこで中断された。

 小さな鉛の塊が音速で遮蔽物にした壁に当たり、断続的に土煙を弾けさせる。ぱっと散ったコンクリート片の細かな欠片が土煙に混じって目に染みた。

 抵抗の意思は弱まる兆しを見せなかった。消耗戦になればこちらの不利だった。お互いに孤立してはいるが、恐らく援軍が早いのは向こうだろう。

 絶望を感じる前に、故郷の空を思い描いた。こんな乾いた味気ないものではない、生命力に溢れた馥郁たる大地を鼻先に感じた。そしてまた、力強い戦友を思った。彼がいればなんとかなると確信出来た。それは大いなる安心感であった。

 彼を振り返ると、不意に目の前が陰った。と思ったのも束の間、そこには彼の顔があった。

「生きて帰る。そのために勇気をもらった。後で、俺の分を加えて返す」

 自分のものではない熱の残った唇をわななかせるが、そこから言葉が出てくることはなかった。

 恋人ではなく、夫婦ではなく、友人でもなく、だからこそ純粋な関係――理解し、信頼出来る間柄だったはずだ。

 しかし、一つだけ理解していなかったようだ。ほんの些細な、だが決定的なずれ。

 こんなつもりではなかったのに。



『究極の関係(あるいはすれ違い)』了

 テーバイ! テーバイ!

 と勢いで言ってみたが、実は主人公の性を特定してないんで、そういうわけでもなかったりする。

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