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プロローグ──いつかの時代、いつかの世界

上手く書ければいいな、と言う気持ちを込めて

其処は阿鼻叫喚の巷だった。


石造りの室内には血肉が歪な絵画の如く縦横無尽に塗りたくられ、幾つもの屍骸と屍骸の成れの果てである踏み躙られて潰れた肉片と、同じく元は内臓であろう形の定かではない物体が足の踏み場も無い程に散乱している。血の海の中見え隠れするのは、装備の残骸であろう不定形の金属片。そして、それだけの惨劇を生み出して尚暴虐に飽き足りぬと、数十名の人影が睨み合っていた。大広間と言っても過言ではない大きさの室内で、分かり易いほどの格好の違うそれぞれの集団はそれぞれの理由で立ち位置を異にしている。


「総員、全周防御(ラウンドバリイ)!この糞野蛮人共め、いい加減死に腐れや……!」


「悪魔共が!皇子……必ずや儀式は成功させて見せますぞ……!」


異なる言語を繰る互いの口から漏れるのは、奇しくも双方共に互いの都合を全く考慮しない言葉であった。方や部屋の中心にある破壊された祭壇、その近辺に転がる脳を半分吹き飛ばされた状態の簡素ながらも上品な格好の男の屍骸。一方の勢力は、其処を中心として円状に展開する金属質な光沢に部分部分で覆われた、他方側からしてみれば完全に未知の輪郭をこそ悪魔と断じた、金属質なのに何処か有機的な相反する印象を持つ五つの人型の存在。


もう一方はある意味ではスタンダードな、西洋甲冑に似た上下の金属鎧装備に直剣を身に着けた誰でも解り易い騎士の格好をした二十名ほどの集団。冷静に観察すれば、転がった金属片の中に似た輪郭を見て取ることもできるだろう。そしてこの二者は、第三者からして見ればわかり易く守勢と攻勢で判別の付く、立ち位置が塗り分けられた戦場でもあった。


騎士達からして見れば、あの鉄の悪魔共は赦されざる敵であった。戦乱に喘ぐ末法の世を彼らの手で救うべく、多大な労力を使って国内から探し出された資格ある贄と第三皇子の御命と言う他に変えられぬ犠牲を払ってまで召還せしめた贄。それらを以て執り行う神聖儀式の執行最中に、どうやったか忽然と姿を現した鉄の悪魔達が祭祀長である第一皇子を弑したのが発端である。第一皇子が弑された事により、事前に仕込まれた警報魔術が発動。すぐさま儀式封印による扉の解除が行われ、近衛騎士が祭壇の間へ突入出来たのだ。


もしかすると儀式により魔の世界に繋がってしまうかもしれぬ、と事前に事が起きた際の取り決めを第一皇子と密に行っていたからこそ、冷静とは言いがたいが儀式の完了をこそ第一義として行動することが可能だったのは不幸中の幸いだろう。部屋の中、異形の姿を確認した彼等はあれこそが魔の世界から現れた悪魔だと認識し、誅滅せんと雪崩れ込んだ勢いで腕自慢の近衛騎士がそのまま十人襲い掛かったが全く理解できない瞬く間に殺害されてしまう。結局現状で百人近い近衛騎士師団が一つ磨り潰されたのだが、現状何らかの制約があるのか連中の手が一時的に止まった今こそが好機であった。瞬時に複数を相手にして殺害してのける奇妙な業を使う異形の悪魔共を討ち、その腕に抱えられた残りの贄を捧げて儀式を完遂せねば、二人の皇子は何の為に逝去し、仲間達は何の為に血肉へと還ったというのか。


「悪魔共め……退魔行の神官さえ現れれば、すぐに浄滅させてくれる……!」


腰の重い神殿が今回ばかりは素早い対応で悪魔共を神敵と認定し、退魔行に優れると言う僧神官団がもうすぐやってくる。直ぐにその穢れた魂すらも神への供物に捧げ、第一、第三皇子の御霊の鎮魂にしてくれる──汗と血に塗れた近衛騎士団長たる彼はそう誓っていた。


「おい、自分等の立場を理解してねえ空気だぞ、あの連中は。なあ、ジェイ、勝手に誘拐しくさっておいてよ」


「……文明レベルからしても迷信だらけでしょう、コウザ。リッキー、博士はどうだ」


「……駄目ですね、残念ですが遅過ぎました」


「もう片方の現地人は?」


「そちらは問題無いかと、薬物で眠らされているだけですね」


対して、祭壇を占拠している悪魔達は悪魔達で負けず劣らず怒り狂っていた。彼等とて火の粉が己が身に降りかからなければ牙を剥くことも無く、互いに関わらずに済んだのだ。先程までそれこそ悪鬼の如くプラズマライフルで敵を焼滅していた筋骨隆々とした呆れた口調のコウザと呼ばれた男の軽口に、対角線上で後背を護るジェイと呼ばれたスマートな体型の男が処置無しと言った態で言葉を発した。


祭壇の上で横たわっていた最重要保護者を診察していたもう一人の男であるリッキーは、薄汚れた白衣を着て横たわっていた老年の男性が蘇生不可との診断を下すより他なかった。心臓を一突にしていただけ苦しまなかっただろう、とだけ付け加えると、場の五人に重い沈黙が横たわる。この結果を以て、今やあの全身鎧に身を固めた連中は、彼等の知らぬ事だが悪魔と認識している。同様に彼等としても、西洋甲冑の野蛮人共を凡ゆる意味で排除せねばならぬ悪魔として認識する事となった。


「……対象が死亡している場合は、最大限の破壊工作の後、速やかに帰還だそうだ。(ゲート)は開きそうか?」


「不確定性ので、あれば。短時間で強制励起させるから、今後は新しい門でも見つけない限り、こことは繋がらない、です」


「そりゃ好都合だな。命令(オーダー)、其処に残った連中を速やかに無力化し、その後時限信管による爆薬を設置して門をくぐれ。無力化については生死を問わず(デッドオアアライブ)とする。リザのカウント開始と共にやるぞ。リザ、カウントを」


「隊長、この子供は?」


「……何とかする、何とかするからそんな顔するんじゃねえよアキ」


五人の内、最後の一人。祭壇の上に横たわっていたもう一人の状況的には生贄なのだろう、その現地人の子供を抱きかかえたアキの言葉に、コウザは苦笑する。バイザーで隠れてはいるが、子供には滅法弱い女である。確実に泣き出す寸前の顔だろう。コウザにしても、今から連中を鏖殺する自分達の言うことでは無いが、咎の無い少年を確実に死亡する場所に放置する事は人道的見地からしても宜しく無い。視線を祭壇脇に向ければ、元々小さいであろう身を更に小さくして開門作業に従事しているリザがコウザに頷きを返した。コウザは手の中のプラズマライフルの砲身冷却完了ランプを確認、手慣れた動きでカートリッジの装填を行う。他の隊員も己の武器を手に取り、それを確認したのか西洋甲冑の集団も警戒を強めている。


新世界の門(タンホイザゲート)開門まで、カウント300」


「よし、状況開始(オープンコンバット)!」


「来るぞ、者共!!遅れを取るな!」


リザのカウントを境に、コウザ達と西洋甲冑達の異言語同士の叫びが重なる。戦闘の口火は今切られたのだ。


それがどんな結果になるのか、誰も分からなかった。

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