虚言癖
唄うように嘯いた。それはもう癖になっていて、自分ではどうにもできない。ただ唇から零れる嘘を、口角を上げて送り出すだけだ。それだけだった。
【虚言癖】
今回の私は、締切3日前に原稿を上げることができた。遅筆の私にしては珍しく早い。病の調子も、頗る良く、絵空事を並べる時間は殆どなくなった。あの少女たちと会えないのは少しばかり寂しいが、指の先まで満ちる何かが、私を現実世界に掻き立てている。 跳ねる髪を手櫛で撫でつけ、作務衣に下駄という軽装で、縁側から庭へ出た。初夏の朝は気持ちがいい。ぐぐっと背伸びをして、井戸へ向かう。友人に自慢する旧式の井戸から汲み上げた水は冷たい。きんと冷えたそれを、庭にまいた。透明な雫は、新緑の植物に弾かれ、乾いた土を濡らす。
昨日は咲いていなかった朝顔が、2つ花をつけていた。その隣に植えたトマトは収穫時のようで、井戸水を浴び、きらきらと煌めいている。朝餉にあのトマトを添えるのも良いかもしれない。しゃり、と皮を裂いて、その果肉を頬張れば、きっと甘酸っぱい夏の薫りを届けてくれるに違いない。くちゃりと咀嚼するその様を想像するだけで喉が鳴った。
大体水まきも終わったので、少し濡れた裾を気にしながら、自室に戻る。今日の午後、編集者が訪れる予定だったので、完成した原稿を渡してしまおうと封筒を準備した。拘りの文香を添え、封をする。鼻から息を吐くとともに、口元に笑みを浮かべた。ああ、何もかもが充実している。
控え目なノック音とともに、盆にお茶を乗せた少女が入ってきた。彼女は私の愛しいおんなで、従順で純潔だ。鈴のような声を転がして、涙袋にある印象的な黒子を揺らす。私は微笑みながら右手を伸ばし、有り難うと呟いた。鼻孔を擽る甘い香りに誘われて、闇色の美しい髪に指を絡める。もっと近くで味わおうと、髪を握りしめ、力強く引っ張った。ぶちぶちぶちっと、髪の毛が何本か抜ける音がする。それに構わず、私は頭皮に歯を立てた。頭蓋骨が当たって深く進入できないが、皮膚を裂き、喰いちぎる。滴る血液をくちゃりと舐めながら咀嚼した。生臭いのに、先程の甘い香りが鼻を抜ける。少女は唖然とこちらを見上げ、、 、
『ぅああああぁぁあぁぁぁあぁああぁあぁあぁああぁあああぁぁああっ、あぁあああぁぁっっ…!!!』
悲鳴のような雄叫びをあげて、髪を掻き毟る。目の前にある古びた卓袱台の上には、採点途中だった中間試験の解答用紙がまだ半分以上残されていた。
窓外の闇をしんしんと雪が降りている。ストーブにかけたヤカンが、不満げに音を立てた。室内外の温度差で生まれた結露の滴は、窓枠の下に大きな湖をつくっている。
そういえば最近薬を飲み忘れることが多い、