ホラーだけど笑える話4 占いに裏がないとは限らない
いつものように会社に向かい帰ってくる。
たまに残業。
こんな当たり前で単調な毎日を送っていた。
僕の毎日の日課は会社に行く前テレビの占いを見ることだった。
「えーと、てんびん座の僕は...
よし、2位だ。恋愛運が良好。ラッキーアイテムは箸。
箸を使った食事で恋愛運が更にアップ...」
今日はいいことがありそうだな。
「今日の1位は...おとめ座...ラッキーアイテムはフォーク...
あ、母さんが1位か。」
食器を洗っていた母も手を止めてテレビに目をやった。
「ホントかい。ラッキーアイテムはフォークだって。
じゃあ今日はパスタでも作ろうかしら。」
「えー、僕のラッキーアイテムは箸だよ。
パスタはちょっと...」
「作ってもらえるだけでもありがたいとおもいなさいよ。
そんなことより早く会社に向かわなくていいのかい。」
「おっと、もうこんな時間だ。行ってきまーす。」
カバンを手に取り、僕は家を出た。
**********
なんとか時間までに会社に到着した。
そして、いつものように仕事を進めていった。
「今日は珍しくサクサク進むな。残業しなくて済みそうだ。」
僕は手を止めることなくパソコンを打ち続けた。
「よし、後は印刷して提出するだけだな。」
僕は一段落ついたところで、グッと伸び上がった。
すると、2つ隣の席で仕事をしている女性社員が声をかけてきた。
「調子が良さそうですね。
残業がないのでしたら、夜にお食事でもしませんか?」
「ええ、僕で良かったら喜んで。」
彼女は中村さん。
きれいで影ながら男性に人気のある人だ。
僕にとっては予想もしていなかった嬉しいサプライズだった。
「じゃあ、今夜8時に待ってます。」
「はい。わかりました。」
僕も思わず笑みがこぼれた。
「やっぱり今日はついてるな。
じゃ、そろそろ昼食にしようかな...」
僕がカバンの中の弁当箱を取り出そうとした...
「やばい、急いで家を出た時に弁当箱置いてきちゃったみたいだ。
しょうがない、近くのコンビニに行くか。」
僕が立ち上がった時、後ろの席の女性社員の水谷が声をかけてきた。
「よかったら、私のお弁当差し上げますよ。」
「いやいや、そんな。コンビニに行きますので...」
「いえ、今日はたくさん作ってきたので...」
そう言って水谷は強引に弁当を勧めてきた。
一口食べた時、一瞬、水谷がとても美しく見えた。
眼鏡をかけていて、いつも仕事をテキパキこなす人だと思っていたが、彼女が作った弁当は少し甘味がかっていて愛情を感じた。
「...とても美味しいです。」
僕の本音だった。
意外な一面に心を動かされてしまったのだ。
「もしよければ、また作ってきます。」
「...はい。」
あまりの美味しさに僕は、何も考えずに返事をしてしまった。
午後の仕事もサクサク進んだ。
ほんのりと口の中に、卵焼きの甘さが残っていた。
そして、仕事を終えて時計を見ると7時10分前。
「8時からの食事にはまだ時間があるな。」
僕は社内を歩いて回った。
「そうだ、母さんに電話をしないと。
...母さん、今日は外食するから飯はいらないわ。
予定通りパスタでも作ってね。」
母にもそう伝え、食事をとても楽しみにしていた。
僕がロビーで一服していると、松本が話しかけてきた。
松本は気の合う男性社員で、よく一緒に飲みに行ったりする。
「お前、今日暇なら、俺たちのコンパに来ないか?」
「あ、悪いな松本。今夜は予定があるんだよ。」
「残念だな、今日のコンパは特別なんだぜ。
何てったって、井上さんが来るんだよ。」
「井上さんって、あの会社いちの美人の井上さんかよ。」
「そうだ。驚いたろ。来る気になったか?」
「...でも今日はお食事が。」
「食事?井上さんより可愛い人でもいるってのか?」
確かに、中村さんよりも井上さんの方が美人で可愛らしい。
実際のところコンパに行きたかったが、断ることにした。
「井上さんよりは...だけど男として女との約束を破る訳にはいかないから、悪いな。」
「そうか...じゃまたな。」
僕は軽く頭をかいた。
ため息をついて、ロビーに一人座っていると、中村さんがやって来た。
「あれ、もうそんな時間ですか?」
「いえ、私も早く終わったので。
今からでも大丈夫ですか?」
「はい。じゃあ行きましょう。」
僕は近くのレストランに入った。
**********
「急に呼び出したりしてすみません。
好きなもの、頼んでくださいね。」
「いや、お金は僕が出しますよ。」
「そうですか。それではお言葉に甘えて。」
僕はメニューを見つめた。
「私はハンバーグにしますね。」
「...じゃあ僕も。
ええと、和風ハンバーグで。」
出来上がるのを待つ間、沈黙が続いた。
今頃、松本はコンパをしているだろうと僕は考えていた。
不意に、二人の目が合う。
しかし、彼女の視線はどこか冷たかった。
しばらくして二人のハンバーグが揃った。
「いただきます。」
目の前には、箸立てとナイフ・フォークの入った籠があった。
...たしか、今日のラッキーアイテムは箸だったよな。
僕は箸を手に取り、食べ始めた。
「ハンバーグなのに、箸で食べるんですか...」
「ええ、まあ和風ですし。」
沈黙の中の食事が続いた。
...向こうから誘っておいて、何も喋らないつもりか?
もしかすると、告白のチャンスを伺っているかも...
僕は、沈黙の中の食事を少し楽しんでいた。
「...あの。」
急に中村さんが大きな声をだした。
「あっ!」
僕はその声に驚き、箸を落としてしまった。
「あ、申し訳ありません。」
僕が箸を拾うと、中村さんは新しい箸を差し出してくれた。
「ありがとうございます。」
僕はその箸でハンバーグを食べ続けた。
すると、急に胸の辺りが苦しくなって、目の前がぼやけていった。
中村さんは冷静に口を開いた。
「......ホントは告白する予定でした。
でも、お誘いした後のあなたの態度は許せませんでした。
水谷さんとも...さっきだってコンパのことを考えて...
今渡した箸に麻酔をぬりました。
それも強い麻酔です。
あなたのような男を『はしくれ』と言うんですね。」
僕は言葉も出せなかった。
「安心してください。痛みは感じないでしょう。」
そう言って中村さんは僕の胸にフォークを突き刺した。
血が止めどなく流れてきた。しかし痛みはなく、意識がなくなって行くのを感じた。
「最後に言っておきます。
私はおとめ座ですから。ラッキーアイテムはフォークです。」
僕は自分の胸に突き刺さるフォークをみて呟いた。
「フォークだけに、女にも『三股』をかけるのは、まずかったか...」