私が娼婦? なら貴女たちは全員八つ裂きでいいですよね
噂を広げる人間が一番な害悪ということに気づいたら。
「ねえ聞いた? あのエルミア公爵令嬢、結局三人の騎士団長や宰相の息子たちに囲まれて、毎晩毎晩ぐちゃぐちゃにされてるらしいよ」
「えー、マジで? でも本人が嫌がってたって話じゃなかったっけ?」
「嫌がってるフリしてんだよ。ああいう高飛車令嬢ってさ、結局男に飢えてるから。好き放題されて……それで『やめてください』とか言ってるの、完全に演技じゃん?」
「くすくす、ほんとあばずれだよね~。娼婦ってレベルじゃない?」
笑い声がカフェのテラス席に響く。
その瞬間、テーブルの上のティーカップが、誰かの手によって無造作に床に叩きつけられた。
カシャン!
破片が飛び散り、三人の令嬢の笑い声がぴたりと止まる。
見上げた先には、黒いマントを羽織った長身の女が立っていた。
顔の半分を覆うフードの下から、氷のような青い瞳が三人を見下ろしている。
「……今、誰のことを何て呼んだ?」
声は低く、抑揚がない。
一番口が軽かった赤毛の令嬢が、気圧されながらも強がって口を開く。
「な、何よあなた。関係ないでしょ。私たち、ただ事実を――」
「事実」
女は一歩踏み出す。
「エルミア・ルクセンベルクが、三人の男に無理やり麻酔を打たれ、四肢を縛られ、抵抗も許されず凌辱された。それが事実だ」
「……っ」
「それを『嫌がる演技』『あばずれ』『娼婦』と笑いものにした。それも事実」
女はゆっくりとフードを下ろす。
現れたのは、短く切り揃えられた黒髪と、頬に走る古い刃物の傷跡。
そして――左目の下に、涙のように細長く伸びた黒い刺青。
周囲の客が息を呑む。
「あ……あんた、まさか……『黒の執行者』……?」
「名前で呼ぶ必要はない。ただ一つだけ覚えておけ」
女は腰の短剣を抜く。刃渡り30cmにも満たない、しかし異様に黒く光る一振り。
「エルミア・ルクセンベルクを侮辱した女は、全員私が始末する」
「ひっ……!」
三人が同時に椅子を蹴って立ち上がるが、遅い。
次の瞬間、赤毛の令嬢の頬に平手が炸裂し、彼女はテーブルをひっくり返しながら床に倒れた。
「きゃあああっ!」
残る二人が逃げようとした瞬間、黒い影が動く。
一人が襟首を掴まれ、もう一人は髪を鷲掴みにされて引き倒される。
「や、やめてっ! 痛いっ!」
「痛い?」
女は無表情に呟く。
「エルミア様が受けた痛みに比べたら、これなど鼻で笑う程度だ」
拳が、容赦なく落ちる。
鈍い音。骨の軋む音。泣き叫ぶ声。
周囲は凍りついたように誰も動けない。
やがて三人は、血と涙と鼻血にまみれて床に転がっていた。
女は短剣を鞘に戻し、静かに言う。
「これで終わりではない。貴様らが今日ここで笑った言葉は、全て私が記録している。貴様らの母親、姉妹、親友、婚約者……誰か一人でも同じ言葉を吐けば、その場で舌を切り落とす」
「ひぐっ……うぅ……」
「次にエルミア様の噂を面白おかしく吹聴した女がいたら――」
女は倒れた三人を見下ろし、冷たく言い放つ。
「私が直接、貴様らの口を縫い合わせる」
踵を返し、黒いマントが翻る。
去り際に、ぽつりと呟いた。
「……エルミア様は、まだ泣きながら震えている。あの夜のことを思い出しては、毎晩吐いている。3人の令息は過去に因縁をつけてきた女に金を渡され、賭け事のツケのために、エルミア様を未婚の母にしようと画策していたんだ」
立ち止まり、振り返らずに続ける。
「……よくもまあ、よく笑えたものだ」
その日を境に、王都の貴族令嬢たちの間で「エルミア公爵令嬢」の悪口は急速に消えていった。
笑いものにした女は、次々と姿を消した。
ある者は顔面を砕かれ、ある者は両腕を折られ、ある者は髪の毛一本残らず引き抜かれた状態で貴族街の路地に放置された。
そして誰もが囁き合うようになった。
「あの黒い女……本当に『執行者』なのか?」
「違うよ。あれは……ただの、復讐者だよ」
誰もその女の正体を知らない。
ただ一つだけ確かなことがある。
彼女が動くたび、エルミアを貶める声は一つ、また一つと消えていった。
そして――
ある夜、エルミアの屋敷の窓辺に、黒い影が立っていた。
「……もう、誰も言わないよ」
小さな声。
「もう、誰も貴女を笑わない」
窓の向こうで、毛布にくるまったエルミアが、ぽろぽろと涙をこぼす。
「……ありがとう」
影は答えず、ただ静かに頷いた。
そしてまた、夜の闇に溶けていった。
性加害のことを笑っていいのは性加害被害に遭っていい人だけです。面白おかしく吹聴して回ってる女が一番同性で汚い人間です




