40:貨物船へ迫るものたち
太陽が大きな影に遮られ、エルウィンたちの居場所に大きな影を作る。
翼を得た大蛇は、貨物の間に隠れた作業員を狙う様に、上空を旋回し虎視眈々と狙いを定めている。
「アンドリュー、まずあの蛇を移動させよう! 本部のアッシュ先輩に連絡してくれ」
「わかった! 【モーシモ】!」
彼は耳の上の部分に輝く、エメラルドのピアスに手を当て、そう呪文を呟いた。
◇◇
港を取り囲む人工の高台、海軍の兵士たちは突然現れた魔物に皆、釘ずけだった。
「フゥーフゥー」と、呼吸の音が聞こえる。
ここにアレを撃ち落とすだけの武器は用意されず、水上乗務員であれに対抗できる程の魔力の使い手は少ない。
今、戦艦の最高水準の魔法の武器は照準は機関士、威力は魔法を蓄え使用する機能のある物ばかりだ。
だから、個人の魔力、技術は求められない。
だから、ここに持ってこれた海軍の武器は、旧時代的な大砲のみになってしまってる。
その時、そばに居た連絡技師が手を上げた。
どうやら、魔術師にアンドリューからの通信がつながったようだ。
技師のもとまで行くと、これまた古い通信装置が出て来る。
ベルベットの生地に描かれた魔法陣、その中央に置かれたワイングラスの中のエメラルド。
その深い緑の宝石が、生意気で、まぁ、可愛くもある魔術師の言葉で語りだした。
「機能は、まぁ、なんとかって具合ですが、正常に動いています」
「そのようだね。ここに、話しかければいいのか?」
「それは、貴殿が持ち込んだ物でしょう?」
海軍所属の技術師は、機嫌が悪そうにそう返した。
――カサブランカの職員室へ行き、『通信機器を、念の為貸し出して欲しい』そう言って出て来た魔道具と、その説明書を手渡し、通信技術師なのだからできるだろう。
そう煽った事を、まだ根に持っているのかもしれない?
……海の男には、それだけ言っても許されると思ったが……、そうでもないらしい。
彼を見たが、どうやら当たりのようで、少しだけ謝礼の品は何がいいかと、頭の中をかすめる。
「おぉーい、聞こえてるかー? あれはどこへ持っていけばいいんだ? ここで、やれば怒るよなー?」
アンドリューの声は、誘導させるべきかと問う。
「いい場所ある?」
アッシュは、隣に控えている男に聞いた。
彼は、わざわざ地図を出し、場所を示してくれたようだ。
彼の指さす地図、エルウィン達が居る港の中央に対し、「西が、我々のいる人工の高台、彼らのいる中央を挟み東側へ海沿いへ進めば、あの魔物を沈めるに適した砂浜はありますが……、ここの大砲は到底狙う事は叶いません」そう彼は言う。
もともと、この海軍は最悪の事態を考え、船を沈める為に用意したものだ。
もちろん、あの大蛇に大砲の玉など当たりはしないだろう。
「じゃ、おたくの本艦を砂浜付近へ回して、射的距離が届くならだけど」
「承知いたしました。至急、艦長に連絡を取って見ます」
……、手旗か……。どうやら、港から本艦へ連絡を飛ばすようだ。
「アンドリュー、今から三つの事を頼む。エルウィンにも伝えてくれ、まず、一つあの大蛇を誘導してくれ」
「どこへ?」
「あの貨物船だ。
二つ、あの貨物船を大蛇が攻撃しだしたら、人道援助形を取ってあの船に侵入し、リスレイ嬢と……ドスカレッドの捕獲を頼む。
その際、念のためエルウィンに注意しておいてくれ、うちの妹も絡んでいる事だし、少したが外れやすい……と思う。
三つ、俺たちもすぐ行くのでその際や、お前たちに攻撃を定めた場合は、あの魔物は海沿いを東へ行く砂浜へ導いてくれ。
上手くすると、戦艦からの攻撃が見込めるはずだ」
「なんだそりゃ、なんでそんな回りくどいんだ?」
「同感だが、あの船自体アンドルの船で、アンドルの技術で動いている。
そこへ我が国の、我々が勝手に乗り込むと、今のうちとアンドルの関係では絶対揉める。
そしてそれが格好の戦争の理由にされる、事態にもあり得る。
だから、アンドルにあの船の捕縛許可を、取る事についての会議をしている。
そしてこっちも今、現在揉めている」
「なんで!?」
「理由はいろいろ、平和主義で、これ以上アンドルと揉め事起こしたくないとか、ドスカレッドから上手い汁啜って来た奴が、奴を見逃がしたいとかな。だから、危険だがぶち開けるわ、道を。責任は俺が取るし」
「ハハ、尻拭いとは最悪だな! だが、仕方ないやってやるよ!」
「エルウィンには上手い事伝えてくれ」
「わかった!」
「エルウィン! 馬鹿ばかりだから、あの大蛇は貨物船にぶつけるぞ!」
そうエメラルドから声が聞こえたと思うと、緑の宝石の振動が止まった。
「通信途絶えました」
そう目の前の通信技師が、ご丁寧に答えた。
「これ見よがしで、ぶつけろっとは言ってないが……」
「お察しします」
なんか、話しを聞き、彼も俺の気持ちをくんでくれるのか、言葉尻が優しくなった気はする。
◇◇
エルウィンは剣を引き抜く。
剣の刃の上を、人差しと中指をでなぞるように滑らせれば、刀身は青白い光で燃え上がる。
その状態で
「ファイアーボール」
と言って振り抜けば、炎がメラメラと上がる炎の玉が、魔物を攻撃するのだった。
「俺様も撃たせてくれ……」
「駄目だ。ヘイトを剥ぐため、ここが戦場になる」
そう言うと、エルウィンは魔力量を調整し、同じ魔法を数回ほど繰り返した。。
大蛇が彼の方へとやっと顔を向け、キャシァァーーと、威嚇音を発生させると、まっすぐこちらへと向かってくる。
その姿は、羽根が一部分にしかない為、魚の様な動きだった。
そして急降下で、エルウィンのもとまで迫る!
大きな動きを避け、ギリギリで避けた。
彼の足場になっていた、積み重ねられていた木箱たちはエルウィンの代わりに攻撃を受け、弾けたポップコーンのように盛大に破壊された。
その間に彼らは、リスレイ達が通っただろう道を進む。
着実に大蛇を引き連れ、港にとまるリスレイ達が乗り込んだ船へと近づいて行く。
だが、彼らの予想しない事が起る。
ボェェーー!!
貨物船から耳の中の鼓膜を突き破るような、音声とも、空気の振動とも、不明瞭な声が聞こえて来た。
「何だ、ありゃ!?」
いつの間にか屋根の上から降りて来たのか、アンドリューがエルウィンと並走していた。
「嫌な音だ、魔物を引き寄せたいのか?」
「どうだろうな? 魔物使いでもいるんじゃないのか?」
二人が見ている前で、予想だにしていない光景がなおも続いた。
魔物が彼らを追い越し、貨物船を一直線に目指しだした!?
「なんだ!?」
「わからない。とりあえずしばらくの間は、あの船の乗り組員からの標的にならないように、距離を置くしかない」
そう言い、ヤクルスと、それが狙う貨物船を、彼らはしばらく近場から見守る事となった。
続く




