表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第四章 涼月の奪還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/49

38:港へ連れ去られていく彼女

 目が覚めると、魔法の炎が消され、ザラザラとした埃ぽさと、停滞し、淀んだ空気を感じた。


 外の声に耳を傾けても僅かに、チュンチュンといった小鳥たちの鳴く声だけが聞こえる。


 しばらくその音を聞きつつ、うとうととまどろむ。


 扉の開く音がして、廊下から教育を施された足音が近づいてくる。


 そして扉が開き、リスレイの声が聞こえてきた。


「お姉様、出国の時間よ」

「出国?」

「お父様、いえ、あの男の故郷へ帰るんですって」

「え……、そこはどこなの?」


 彼女はルルカの顔を見ずに、辺りの散乱している荷物を集め入れていく。


「さぁーさっさと、起きて!」


 ルルカは壁を使い、何とか起きると足もとをみる。


 リスレイはそんな彼女の姿を見つけ、「もぉっ!」と言ってルルカの足の紐をほどいてくれた。


 ――フレットが居ない時のリスレイは、世話好きの妹みたいね……。


 そのまま縛られた状態で、ドスカレッドのもとへ行くと、彼は眉をひそめた。


「仕方ない、このまま行くと人目を引く。ルルカ様の紐はほどいて行こう」


「だって」


 リスレイはルルカの目を見ながら、中継ぎの役目をこなすように、ポツリと言った。

 そして彼の言うように、彼女の腕に巻かれた紐を解きにかかるが……。


「…………お父様、紐が固くほどけないわ」


 そして結局、ドスカレッドの手によって拘束は解かれるが、 移動中はしっかりリスレイか、ドスカレッドに腕を掴まれたまま、移動する事となった。


 その建物から離れる時、リスレイの目を盗み辺りを見回していた。


 だが、猫の姿をしてたゼロス先生の呼ぶはずの誰かの姿は見えない。もしこれからここへとやって来ても、ここはもぬけの殻だろう。


「猫のこと気になる? 先生はさっき解放したとこ。アイツは魔法使いではないけど、鼻が効くからだしぬくのは無理よ」


「リスレイどうして……」

「べつに、そんな気分だっただけ」


 ブラウンのフワフワ髪の向こう、可愛らしい顔に影が落ちる。

 ――リスレイ……。


 彼女を眺めていたルルカの視線に気づいているだろうが、リスレイは幌馬車の茶色の帆に触れながら「乗って」とだけ呟いた。


 言われるまま、荷馬車のステップを上がっていき、座席の一番奥に固い木の座席の上へとルルカは座った。


 ドスカレッドはルルカを見張る様に前に座り、横へはリスレイが。

 馬車が走りだす前も、走り出した後も二人は会話をする事なく無言でいる。


 ――ドスカレッドという人物と、リスレイが中が悪いなら、彼女を連れて逃げられるかもしれない。


 ガタガタと揺れる馬車に、体を揺さぶられながら、そんな事を思う。

 切り崩すなら、彼女の方。でも、いったいどうやって……。


「お姉様って、案外卑しいのね」

「ありがとう……」


 リスレイに、何か勘違いをされてしまったようで、コッペパンを差し出された。


 黙ってパンをちぎって食べながら、彼女を盗み見ると、彼女もコッペパンをもくもくと食べている。


 ――いやだわ、駄目だわ。リスレイには嫌な事も多く言われたけど、彼女の事が気になってしまう……。自分の事だけで精一杯のくせして。


 でも、もしチャンスがあれば動けるようにと、ルルカはなおも黙々と食べだした。


 ◇◇


 どれくらいの距離を、馬車は走っただろうか?


 磯の香りが流れて来る。


「……馬車の外がみたいわ」


「駄目だ」

「危ないわよ!」


 ドスカレッドにはすかさず否定され、リスレイには……なんとなく叱られたような……気がする。

 今は潮の香りで、海の近くと判断する事しか出来ない。


 そして道は半島へ出たのだろうか?

 曲がり道を行く時に、後ろの部分から海が見えた。


 そんな場所がこのルーフェンでも、レノイアス港しかない。


 リスレイの『出国の時間よ』の言葉に、陸路を越えて行くのかと思っていたが、船に乗るなら出国の手続きを一体どうするつもりか、考えが及ばないわけではないだろう。


「リスレイ……本当に行くつもりなの……?」


 ――寒くないのに、震えが止まらない……。

 そんな体を抱きしめながら、何とか声を発していた。


「そう言ったわ……」


 リスレイは、ルルカに顔を向けないまま、拒絶するようにそう答えた。


 ――それでも……。


 ルルカは隣りに座る、リスレイの顔を見る。

 彼女は無表情にただ前を見つめ、屋根にかかり壁となっている帆を見ている。


 ――悲しい顔していれば勇気がだせるのに、笑顔だったら割り切れるのに……。


 そして馬車は、掛け声と共に停まり、目的地についてしまったようだ。

 ドスカレッドと、リスレイに続いて出て行こうとすると――。


「どうぞ、ヘイゼル様」と言って、ドスカレッドから手を差し出される。

「いえ、一人で降りられます」

「そうじゃないんです。逃げられると、困るでしょう?」


 そう今までで見せた事の無い、濁った瞳でルルカに語りかける。


 彼女は握りしめていたこぶしを緩め、彼の手に、自分の血の気が失せ、白くなってしまった手をのせる。


「ほら、リスレイ、よく見ていたかね? 本当の貴族の令嬢はこういうものだよ。賢く考え、賢く生きる。水槽の中でしか生きられない自分をよく知っている」


 そう絡みつく様な声色で、リスレイに語り掛けた。


「ごめんなさい。お父様、(わたくし)は生まれが悪いのでそうなれそうにないわ」


「生まれは、かえらないね。どぶねずみが、御者の姿になれるのは 魔法のかかっている間だけ。しかしお前には、しばしその姿のままでいて貰わなければ……。そうしなければ……まぁ、お前自身もわかっているだろう」


 それだけ言うと、目の前の男はルルカを見た。

 それだけで、ルルカは震えが止まらなくなる。


 ――何故、この震えは何?


「可哀そうに、お姫様はこんなに震えている……。リスレイ慰めてあげなさい。彼女はこの国で残される、数少ない亡国の姫君となるのだから」


 そう言いうと、ルルカの腕を掴み、多く置かれた貨物の中へと進んで行く。


「どういう事ですの?」

「言った通りです」


「お父様のやった貿易のせいで、隠してはいるけど、この国の薬はすぐに底をつくはずよ。その隙を突いて攻めるんですって」


 リスレイが淡々と話していると、突然彼女が消える。そして代わりに、その場所に男が立っていた。


「リスレイ!? 大丈夫?」


 彼女のもとへ行こうとした、ルルカの腕を男は掴む。

 ドスカレッドの腕が、彼のそばへと彼女を引き戻した。


「あぶない。汚れますよ」

「離しなさい、何て事をするの!?」


「今、貴女は逃げられない。なら、おとなしくしておくべきだ。 今までも、そうしてきたでしよう?」


 男は薄ら笑いを浮かべ、彼女を連れて歩きだした。

 リスレイがこのまま逃げる、心配などしてないの?


「それにしても貴女が居なくなれば、ノアの公爵の御子息が悲しむでしょうね。貴女の領地と手を組めば、莫大な利益を生み出せていたのに、金の鶏は(わたくし)が連れていき、金の卵もまた(わたくし)たちのものです」


「何を言って……」


 その時、ローブをまとった二人の男性が!?



 ところかまわず置かれている、貨物の間に隠れていたようだ。

 ルルカの腕を持ったスカレッドの手が、黒いローブを着た何者かに握られる。


 その途端にドスカレッドはうめき声をあげると、腕を持つ力は弱り、それを彼女は振り払い、リスレイの元まで走って行く。

 起き上がろうとしていたリスレイを支えた時、恋人の声が聞こえて来た。


「ルルカ、リスレイこっちへ」

「エルウィン様!?」


 ローブの男の一人がフードを取ると、逢いたかったその顔があった。

 そんなルルカの肩に、彼は手を掛け――。


「ルルカ、アッシュも来ている。ひとまず君たちはそこまで引くんだ」


 しかし、その声が終わらぬ内に、リスレイが飛び出し、ドスカレッドへと駆け寄る。


「あっ、君!?」

「リスレイ戻って!?」


 そう呼びかけると、リスレイは不意に止まり……。


「フレット様に……ずっとお慕いしておりましたと、謝りきれないけれど、それでも謝っていたと伝えて……」


 そんな切ない彼女の言葉の後に、起き上がった、ドスカレッドの言葉が聞こえて来た。


「ふぅーやれやれ、さすが、勇者の血を引く男か」


 そう、言った彼の利き手には、鋭く光るナイフがあった。

 それを駆け寄って来た、リスレイの首元にあてがう。


 ……それでも……彼女は、声さえあげず、そこに立っていた。


「三人とも近づかないで、リスレイは君たちとは違うんだよ。孤児院暮らしで、それも荒れた孤児院だった……。だから、この子は夢は見ない。だから、追って来ないようにね」


「そういうわけにいくか!!」

 アンドリューが声をあげたが、それをエルウィンが、アンドリューの胸元に手をやり制す。


 そしてこちらは何もできないまま、彼らに後退することを許した。


 そして貨物の影に隠れ見えなくなった頃、エルウィンがこちらへとやってくる。


「エルウィン様! (わたくし)の事はいいですから、リスレイのことを追ってください。彼女を助けて!?」

「駄目だ」


 剣術部の制服を着た彼はきっぱりと、ルルカからの救助の要請を断った。


 その制服は、騎士の色違いの白で、騎士の卵の証。

 騎士の心得を、彼も知っているはずだった。


 その彼は救出を拒み、ルルカを抱きしめ、自ら危険に飛び込んだリスレイを追うのを拒んでいる。


「エルウィン様、大丈夫ですか? 顔色が……」

 彼の頬は白く、体温もなんだか冷たい。こちらが心配する程だった。


「ああ、もう心配ないよ。君のお兄さんも来ているからね」

「兄もここに……」


 彼と彼女を心配しながらも、兄の登場で事態を好転できるかもしれない。


 そう考えていたルルカの耳に、突然、アンドリューの声が上から聞こえてくる。


「アイツ魔物を解き放とうとしている!?」

 そういうと、ルルカたちの前へ飛び降りて来た。 


「兄さんはルルカを救助したら、この場所から退去しろと言っていたが、エルウィンどうする?」

 途端に、エルウィンは体を離す。


「ルルカ! ここば俺たちが防ぐ、この道を真っ直ぐ後方へ走るんだいいね?」

「絶対、無理はしてはだめよ」


「わかっている。俺は負けたりしないから、安心して待っておいで」

「待ってるわ。だからお願い」


 そういう彼女の頬に、キスを落とし、「行ってきます」そう言って、彼は走り出す。


 ……


 その時「ふざけんな!」と、声はしたが、嫉妬の遠吠えは、海風に流され消えて行った。


 続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ