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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第三章 七夜月の暗躍

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33/43

33:閉じられた魔法練習場で

「わぁー……」


 五角形が集まり出来た、正12面体。

 (攻)魔法部の練習場は、蜂の巣の形状だったが、空間がねじ曲がっているのか、入室すると正12面体の中に立っていた。


「ここでは大抵の攻撃は防いでくれる。流石にアンドリューが入る申請は却下されたが」


 ◇◇◇


「何で、俺だけは入れない!? 何でおれだけー!?」


 アンドリューの非難の叫びが、(攻)魔法部前の道で響く。


「それよりも、アンドリュー様の講義を聞きたい女性徒も多くいるのです。ご教授いただけますか?」

「いいだろう。可愛い弟子たちに会いに行ってやろう」


 部長の口車に乗った彼は、手ひらをやんわり合わせると、歌をうたうように腰の辺りで手を広げた。

 そうして(攻)魔術部と(研)魔術部の部長、副部長と、顧問の先生、計6人にきっちりと囲まれてアンドリューとは、その場で別れる事になり。


 そしてそんな彼らに「行って来ます」と手を振り、ここに立っている。


 ◇◇


 そこはねじ曲がった空間だからなのか、少しの頭痛と違和感がする。


 剣術部の制服を身に付けたエルウィンは、濃紺のスラックスと白のドレスシャツ姿の彼女の肩に手をかけ座らせた。


「この空間は魔法での攻撃は、ほぼ吸収される事になっている」


 そう言うと、彼はまるでウェイターがトレーを持つような仕草で、急速にゴウーゥー、ゴォーと空気を切り裂くような、風の塊を彼の手の内に作り出した。


 その風に合わせて、ルルカの髪に煽られ、揺れ動く。頬にビリビリと風を感じ、違和感を感じている今だからか、息をするのも、やっと、という感覚になっている。


 そして彼はボールでも投げるように、上空の五角形へとそれをぶつけた。

 その衝撃で、空気が波のように騒めく様子が、視覚で見てとれ、次の瞬間、彼女の体にわずかな衝撃として帰ってきた。


 魔法の軌道を目で追っていたエルウィンは、ゆっくりとルルカのもとへやって来る。


「すぐに実演までしてしまったが、大丈夫だった?」


 彼の瞳が、ルルカの瞳を覗き込み、思わず彼の瞳の色と同じ宝石を掴んだ。

 魔法を使っていない今は、ペンダントは冷たい。けれど、不思議と触れば安心できる。


「大丈夫です。錬金術の勉強として、魔法の訓練をする事になるとは思いもよりませんでしたが、着実に進んでいる実感あって、それはやはり皆さんのおかげですわ」


「上等だ。では、まず水の属性の訓練をしてみよう。基本は錬金術の属性づけと変わらないよ」


「はい……」


 彼女はゆっくりと立ち上がった。

 ――良かった……。先程の違和感はもう消えつつある。


 彼女はしっかりとした足取りで、先程、エルウィンが魔法を放った、この部屋の中央と思われる場所にたった。


 そして見様見真似で、手のひらを上に出し、目の前の安定出来る場所へと手を固定する。


 そしていつもの錬金術の時の様に心を落ち着け、水の属性の魔力を滲ませる。


「えっ……」

「さすがと言うか、こんなの初めて見る……」 


 二人の前には、国旗ほどの大きさの霧雨集合体があった。

 球体のかたちである。それのせいで、辺りとルルカたちはじんわりと、湿っぽくなっていく。


「ルルカ、魔法を止めて」

「あっ、はい!」


 彼女が魔法を止めれば、徐々に霧雨は辺りの空気の中に、拡散されながら消えていった。


「この、私の魔法って、壁を攻撃できるでしょうか?」


「君の一族の魔力の使い方は独特……、いや、ヒーラー系なのかも知れない。だから下手に強制してしまうよりも、特定の魔力量を減らす事だけを、訓練した方がいいかもしれない……」


「承知いたしました」


 エルウィン様自身が確信が出来ないようにそう告げ、魔力訓練が始まった。


 最初は体内の魔力の源、オドから徐々に水属性の魔力を、体現させていく訓練から。


 ◇◇


「ルルカ、……ルルカ」 

「はい?」

「はい、魔力回復のための飲料水を飲んで」

「あっ……ありがとうございます」


 エルウィンはてきぱきと、敷物を敷き、私を座らせると飲料水を手渡してくれる。


「大丈夫?」

「私? あぁ……私ですね。とても楽しいですもの、大丈夫です」


 ――そうです。私、今、とても楽しいのですわ……。


 彼女は楽しさが、体から湧き出るようで、思わず笑顔がこぼれた。

 そんな彼女を、彼は不思議そうに眺めた。



 柔らかいけど、少しかさついた感触が、彼女の唇を覆った。


 気付くと、彼女の利き手は、飲料水と共に大きく温かな手に優しく覆われ、もう一方の手は危うさを遠ざける様に、彼の制服を強く握りしめている。


 目の前には、美しくカーブを描く睫毛の下で、アクマリンの瞳が星の様に瞬いてる。


 ――もしかして? エルウィンと?


 彼女の思考が追い付く前に、心臓は血潮を(みなぎ)らせ、ドキドキと音をたてる。

 その変化が、エルウィンに気づかれる前に彼女は瞳を閉じた。




 ――ガチャッ



 使用中であり、安全のために閉ざされるべき扉が突然開く。


 二人は反発し合う磁石の様に体を離し、お互いが背を向けて座り直した。


「聞いてくれ! エルウィンと一番弟子ルルカー!」


 どうやら、鍵は天才魔術師の前では無力だったようだ。


「はい!」

「アンドリュー……」


 ルルカは飛び跳ねるように返事をし、エルウィンは前髪をかきあげるように彼を見た。


「俺にまたもや弟子が出来たぞ! 数えられる程度しか、女性徒は居なかったが、見込みのありそうな奴だけ弟子にしてきたから、よろしくなルルカ」


「アンドリュー……、お前はルルカの家庭教師役であって、実際、お前の門下生ってわけではないからな。それに自分で引き受けた弟子は、自分でみる事、魔法塔でもそうだろう?」


 エルウィンにそう言われ、アンドリューは腕を組み、斜め上の五角形を見た。


 その間は、ルルカは鳴りやまない体の内なる音を聞きながら、静かに二人の話を聞いている。


「俺様は……、弱い連中が群れてるって思ってたからな……。歳と共に違うとわかったが……、そうか……、こんな気持ちなのか、体験してみて理解できた。今度、謝っておこう」


 そう心から反省した様に彼は、呟く。


「いや、待て!? 多分、お前と他の魔術師とは、魔力量の差から相いれない物がある事に、お前が気付いてない可能性すらある。偏屈な魔術師のプライドを、無暗に刺激するのはやめなさい」


「心から話合えば、互いに理解し合える。俺はそれをマーサから教わったんだ」


「こら、他の国に嫁がれたといえ、自国の姫だったお方を呼び捨てで呼ぶな」


「何故だ? 気さくな奴で、庭先でよく話をしたんだぞ?」


「だから、招待されてないのに……。寛容な方だった……」


そう言葉を途切れさせたエルウィンは、瓶をアンドリューの方へ向ける。


「アンドリューは喉が渇かないか? お前の分も飲料水もあるぞ」


「飲む。くれ」


 そしてエルウィンの道理は、天才の前では通用しなかったようだ。

 そんな天才系お師匠様を囲み、三人で休憩をしたのだった。


 続く


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