30:王国所属に組み込まれる錬金術師の卵たちと、剣術部が見守って来た恋の歴史
海外にいる筈のアッシュと、祖父の知人の錬金術師であるエルドラ クラインが、錬金術同好会の三名の前に座っていた。
「おかえりなさい、お兄様、アンドルからいつお戻りに?」
「実は結構前から、この地にいたんだ」
兄はいつもと変わらず、穏やかに笑っている。
「そんなわけあって、家族に知らせる事が出来なかったが、やっと今日会えて良かった。もっと早く帰りたかったがトニーもエルドラも止めるものだから……」
そう、口調もいつもと変わらない。
けれど、エルドラ様とこの同好会へ来たのだから、それはきっと錬金術、そして今回の事件に関わりのある事だろう。
「私も以前から仲の良いと聞いていた、貴方がた兄妹を会わせて差し上げたかったですが、それはできないそうだんでした」
そうエルドラ様が言うと、兄がその話を引き継ぐ。
「君たちは先ほど、ペイジ家の一大事の話をしていたね」
「そうなんです。やはり、薬草や、薬品などの生産についての話しなのですか?」
「いいわ。受けるわ。けれど……、この借りは大きいわ。王国錬金術師への推薦、それは見込めるのよね?」
フロートが質問し、セロッティーは快諾し、そして取引までしようとしている。
――さすがですわ。
ルルカは自分にはない、取り引き力みたいなものに、尊敬の念を抱く。
「君たち、忠告だけれど、商談は相手の提示する内容をまず確認した方がいいよ?
だが、助かる。君たちの噂していた内容には、多少の嘘が混じっている。
優しい嘘、国を思うための嘘だけどね。
海外でペイジ家で行なっていた事業所で起こったのはボイコットなんて生易しいものではない。
実は反乱行為なんだよ。
安い賃金で不当に労働者を働かせていたせいで、労働者は立ち上がり、義賊を名乗る海賊まで呼び寄せてしまっている。
ハイエナのように集まり、ペイジの船を襲っている。
まぁ、そろそろ見境がなくなりそうではあるが……」
私たち同好会の三人は、兄の言葉をただ受け止め、言葉もなくただ見つめるだけだったが……。
「その補填を、私たちが?」
「もしかして、金儲けの話しですか!?」
フロートは、やや前のめりになって、兄に顔を寄せる様にした。
兄は机に肘を付き、口もとを触り、あまり見る事の無い満足顔というより、ニヤニヤとした顔をしている。
「ご名答、話が早くて助かる。内乱の件は五日後に公表される事になっている。
今、無闇に発表すれば、それぞれ各社が買い漁り、薬草や、薬の生産もままならないからね。
だから五日後までに、我が国の薬草、薬剤において、窮地の事態にはなっていない事を、国内外ともに知らしめたい。
まず、今あるペイジ家の倉庫や工房から、薬草から薬に至るまで、国がかっさらう手筈にはなっている。
それまでは、指定した薬品素材や、簡単な薬品を、この同好会で育てている薬草で作って欲しい。
君たちには申し訳ないが、貴族としての建前が、持つものが、持たざる者に施す。
であるように、カサブランカの経営方針自体そういうものなのだから、まぁ、しかたないよね。
今話している事は、すでにがっちがっちに法律で縛られる事柄で、不用意に話せば、内乱罪を適応する事もありうる。
今回の出来事はデリケートなことなので、残念ながら妹は別として擁護はできない。そこを、しっかりとわかって欲しい。
そして錬金術部では顧問から推薦された人間のみであるが、我々の話しをすでに聞き、我々と契約したものはいる。
誰とは言えない。無暗に話されても困るからね」
「じゃ、私たちは推薦された人間って事?」
そうセロッティーが言うと、アッシュは口ごもり、なんて言えばいいか、考えているようだ。
「平たく言うとそうだ。詳しく言うと、君たちは得意なものに特化し過ぎて、力を合わせて貰わなければ使えないとも言う。最高に力がでる存在とも聞いた。まぁこれは僕がそう、解釈しただけだけどね」
セロッティー部長は私たちを見る。
「どういう事かしら、私は錬金術かけてはパーフェクトな人間よ?」
「でも、社会性に難がありますよね?」
「社会が合わせるべきだと思わない? ねぇールルカ?」
「錬金術師の社会性と言えば……、新薬や、新しい実験をする際、一人ではできません。スポンサーを探す事はできますか? まず、地位、名誉、財力をお持ちの方に望むものを提示しながら、自分の希望にすり寄らせるんです」
「ルルカ様、それは野心に燃えすぎですよ!? もっと当たり障りのない感じのから、お願いします」
「君も苦労するね。面白いよ」
そう兄は爽快に、フロート様へ伝えた。
当人のフロートは、なんとも言えない顔をしてらっしゃいますが……。
「そういうわけで、君たちは選ばれ、働き方によっては何ヵ月分かはさだかではないが、学費免除が受けられる。
王室への就職の件を保証できるのは、ルルカのみだ。
これは錬金術と共にあるように、定められているヘイゼル家の義務みたいなものだから仕方ないよね。
妹の工房、爆破については、カサブランカにしばらく彼、エルドアが常駐する事になっている。
彼と、大魔法使いの寂しがりやのアンドリューの力を、借りる手筈をとろうと思っている。
そこで彼が思わず、王国錬金術師に推薦したくなるほどの才能を見せつければいい。
そうすれば楽に入れる。簡単だろう?」
「うわぁ……」
「素晴らしいわ」
二人の感想は真逆のようだが、二人は行うだろう。
でも、兄は魔法科学の地アンドルからわざわざ戻され、国内の薬草や薬剤の流通の指揮をとっている。
そこが引っ掛かると言えばなんとなく、そうなのだけどもしかして……兄はエルウィン様と近い考えで、わざわざ帰国したのかも知れない。
◇◇
剣術部で、突然の大波乱が起こる。
同級生のリスレイがやって来て、フレットの前でめそめそと泣いている。
――えっ!? 浮気? 痴話喧嘩??
「何故、わざわざ来たんだ……」
フレットが、ハンカチを差し出し背中を擦っている。
夏休み間際まで、いつもギクシャクしていた二人に、それくらいの意志疎通はあったようだ。
「怖いんです。私にはお金でしか、フレット様をつなぎとめておけないのに……、お父様は何もおっしゃてくださりません……」
「リスレイ落ち着け、君はしばらく学園へ来るべきではない。ヴ……ン、できなさそうなら、俺が君の父上に事情を話し、匿って貰うよう言うが、自分で言えるか?」
副部長は、予想外に自分の婚約者の話しに、耳を傾けている。
「フレット様が!? ダメ! 自分で話します……」
――ガタン!
その時、大きな音がして、そこに居た誰もが、顔を見合わせた。それで副部長も、注目をされていた事に気付いたようだ。
「ホログラス」
「はい!」
「俺はもう帰るから、エルウィンが来たら連絡があれば、明日聞くと伝えてくれ」
「わかりましたー!」
そう聞くが早いか、リスレイを連れて部室から出ていった。
なんだろう? フレット先輩は無駄に顔がいいからか、他人に向ける好意が分かりにくい。
その点、エルウィン部長は……。
歴代の部長、副部長の今や奥様方は、ルルカ先輩が破局したって話しが広まった頃に、次々やって来てエルウィン先輩の動向を聞いてきた。
どうやら、お姉様と言われる令嬢たちに、だいぶ注目されていて、ほっとけないふたりだった様だ。
そんなエルウィン部長の前では、監督と肩を並べ、肩で風を切っていたルルカ先輩も、可憐な恋人になってるし、やはり部長には見習うとこあるっすなぁ……。
続く




