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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第三章 七夜月の暗躍

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28:ルルカと彼ら、そして素敵なマダム、サラマンドラ

 真夏の午後、曇り空の下でルルカは本を読みふける。


 彼女がもたれ掛かっているのは、寮に植わっている大きなどんぐりの木。


 その枝、葉の影で、滴る汗を拭い、山の植物についての本を読みふける。


 学園カサブランカでは、長期休みに入っている。

 それでも寮で生活をしていれば、将来が決まったおという生徒を祝福したり、そんな生徒の噂をよく聞くことになる。


 焦る気持ちに蓋をしながらも、エルウィンと過ごす毎日はとても充実したものの様に思われた。


 そして今日のように寮の外で少しの間だだけ、時間を決めて読書を楽しんでいた。


 読み進める手を早めて、ルルカが次のページに手をかけた時、寮から出てだろう人物の足が止まった。


 そしてその人物の靴先が、彼女の方へ向いた。

 そして視線に抗えない様に、彼女はその人物の表情を見た。


「ごきげんようフレット」


 彼女は立ち上がり、小さな花柄があしらわれたサマードレスが、華奢な体の上を舞うように揺れてた。


 今年流行のデザイン、アイシアと買い物へ行った時、おもわず購入したものだった。


 ――あれだけ、フレットがどう思うかが気になったのに、不思議ね……。


 そしてやはり少し悲しい、初恋はもう終わったんだ。 あれだけ私の(わたくし)全てだったに。


「久しぶりだな、ルルカ」


 そう言った彼は彼女の胸に輝く、シルバーのペンダントのトップを睨みつける様に見た。


「フッ、それはエルウィンからの贈り物か?」


 フレットもエルウィンと一緒に学んでいるのなら、アンドリューとイヤリングと素材が違うだけのものだとわかるはず。そしてアンドリューから受け取るはずは無いのだから、エルウィンの名前が出たのだろう。


「ええ、そうですわ」


 彼女はペンダントを、右手の甲へとのせる。


 クラシックな由緒正しいドレスをよく着ていた、彼女。


 アクセサリーを身につけるのは、子どもの頃、母の首飾りを勝手につけた時以来。


 けれど、これは(ペンダント)ある日、エルウィンがくれたもので「輝きをだす為に、機能はそのままになってしまった……」と、彼は複雑そうな顔をしていた。


 彼女は「ありがとうございます」とだけ伝えたが、今でも、もっと気持ちを表す方法なかったのかしら? と思っている。




 その時、雲の合間から差し込む光に照らされ、シルバーの中央にはめ込まれたアクアマリンの宝石がキラキラと輝いた。


 アンドリューの物の様に、様々な色が輝く事はない。


 変わりシルバーの台座が輝き、彼女はそれをうっとりするように眺め、そして大事そうにそれに右手をかぶせた。


 このペンダントには、彼女が欲しかった気持ちが全て入っている様に思え、心にほんのりと温かな灯がともる。


 彼女が、温かな気持ちでフレットと向き合えるのも、このペンダントのおかげかもしれない。


「そんなに大事そうにしてるのなら、何故、婚約をしてしまわないんだ?」


 そう騎士見習いの、白い剣術部の制服を身に付けたフレットは言った。


「それは……」


 彼女のうつむき、目は前髪に隠れて、ベンダントの握る手は強くなっていく。

 鎖はまっすぐに、ピーンと張った状態になるほどに……。


「フレット!」


 改まった格好だけれど、気軽に街にも行ける服装で、デートに最適解。

 そんな恰好のエルウィンが寮の入口から走って来る。


 ルルカはある意味、彼らしい彼を目で追いながら、微笑まし気持ちになり、肩の力が抜けていくのを感じた。


「フレット……、誇れる(わたくし)を見つけられれば、彼に(わたくし)からプロポーズしてみるつもりです。ちゃんと(わたくし)を愛してくださいって、(わたくし)を選んでって……」


 フレットの瞳は、彼女を異質のものの様に見た。

 それを見てなんだか、正解なんだろうなと彼女は思えた。


 そしてエルウィンがやって来ると、ルルカはフレットの前に出て出迎える。

 エルウィンの顔をじっと見れば、頬に汗が流れていく


「こんなに汗が……、エルウィン様、剣術の後にちゃんと水分補給をしましたか?」

 そう言いながら、彼の額の汗を彼女はハンカチで拭いていく。


「大丈夫だよルルカ、フレットはこんな所で何してるんだ?」


 彼は少々恥ずかしそうであるが、彼女の肩を抱き、体をゆっくりと彼女とフレットの間に入れて立つ。


 そんなエルウィンの様子に、ルルカは戸惑いながら、彼の背中を見上げている。


「俺はルルカ様に、挨拶をしていただけだ」


 そう言って、元許嫁だった方は、乾いた笑いを浮かべた。


 ――二人の剣術部員で、部長と副部長、諍いなど起きないだろうが、今後、気まずいのもにならないかしら?


(わたくし)はお腹をすかせながら、待ってましたわ」


 そう言うと、優しい彼は振り返った。その顔にしまった! と書いてある。 


「ルルカ、すまない練習に熱が入ってしまって、こんな時間に……」

「それはお疲れ様でしよう……。では、午後のためにしっかりと栄養補給いたしましょうか」


 彼は彼女に仕方ないという顔で答え、気持ちを汲みとってくださったように、フレットの顔を見た。


「午後は頼んだ」

「ああ」

「じゃーまた、明日」

「じゃー」


 ルルは頭を下げるだけにとどめ、エルウィンと一緒に寮の門へと歩きだした。


 ◇◇◇


 古めかしい店の看板には、『サマンドラの衣料品』と書かれていた。


 しかしその店の扉をくぐれば格調高い装飾品と、様々な色鮮やかなドレスが、所狭しと並んでいる。


 その一番置くのフィッティングルーム、その入り口となるベルベットカーテンの中から、子猫のようなルルカの声が聞こえて来た。


「エルウィン様……、エルウィン様……本当にこれであっているでしょうか?」

「ちょっと待っていてくれ、サマンドラを呼んでくる」


 エルウィンはノア家御用達のパーティードレスを扱っている店に、今日もルルカと一緒にやって来た。


 もう制作は終わっている。エルウィンの正装と、揃いのルルカのドレスの仮縫いの試着をしている。


 しかし試着中に、店を取り仕切るサマンドラは、後は若い人同士でとばかり、試着中にふたりきりされていたところだった。


(わたくし)ならここにいるわ。見て、このアクセサリー素敵でしょう?」


 現れたマダムは、きつめのメークに、貫禄十分なグラマラスな女性で、社交界にも顔が利く存在。


 どちらかと言えば、新鋭貴族に近い方だが、商売っけが強く、どちらとも友好的に過ごしている方のように思う。


 彼女はエウィンの前を通り過ぎ、「失礼するわ」と言うと、中に入って行ったかと思うと、彼女の声と、ルルカのか細い声がフィッティングルームから漏れ聞こえてくる。


 エルウィンはその場から離れ、豪華なソファに腰掛け、二人の声を聞かない様に努めていた。


「ここの肌の露出が」

「今、これくらい普通よ!」

「背中もこんなに……」

「若いのだから見せなきやね!」


 そんな声が漏れ聞こえてくれば、騎士と言えども気になりはする。


 邪念を払う様に、手で顔は覆ったものの、彼の視線の先にはフィッティングルームがあり、悩める青年は、店の外から視線は感じてはいたが、それどころではない様に悩ましげな表情を浮かべていた。


「うーん、いろいろ心配なのね」

「はい、いつもは首もとまで、生地があったドレスを着ていたので……」


 そして彼女の、か細い声が続いていた。


 王室御用達のこの店で、エルウィンの衣装は既に作られてはいた。


 しかしルルカの衣装は春の注文になってしまっていたので、予約が立て込み、やっとこの時期、仮縫いまでたどりついたところだった。


 心待ちにしていたが、それがこんなに浮ついた気持ちになるとは……。

 彼はそんな気持ちを、すでに持て余していた。


「昼のドレスそれがマナーだけど……夜はね……、エルウィン様、来てちょうだい!」


 その声と後には、カーテンの開かれる音と、ルルカの半分、声になっていない悲鳴が聞こえてきた。


 ふかふかのソファに、心ここにあらずというように座っていた彼は、風の様に二人のもとへ駆けつける。


 エルウィンがそこへ行くと、カーテンは開かれ、ルルカは肘まである長いレースの手袋を身に付け、首もとを覆っていた。


 たが、その間から覗く白い胸元は、あまりの恥ずかしさで、淡い赤色に染まって、エルウィンは目のやり場に困ったが、理性を総動員して何気ない顔を作り出しているはずだった。


「坊っちゃん、お美しいお嬢様にお似合いでしょう? いかが?」

「あぁ……」


 多少の居心地の悪さがぶり返したが、彼は自分の瞳の色のドレスを着た、妖精の様な彼女にみとれていた。


「はい、ルルカ様、では、カーテシーをお願いいたします」


 そう言われると、彼女は今までの成果か、素直に、足を引き、膝を曲げ頭を下げた。


 アクアマリンを溶かし込んだようなドレスを着た彼女は、体をおこすと背を伸ばす。


 ドレスは華奢な彼女のボディーラインにそっていたが、胸だけいつもより膨らみを帯びていた。


 妹のいる彼は、彼女たちのドレスの着付け風景を見て、紐で締め上げた登山靴のようだと思っていたが……。


 ――美しい。そう頬を染めている彼女に伝えるのは(はばか)られたが、心はそんな言葉で埋め尽くされていた。


 けれど、マダムサマンドラの次の言葉で現実へと戻った。


「二人とも、ダンスのフォームをしてみて」


 そんな二人はマダムの言うがまま、お互いの体に手を添えた。

 店内の広いスペースで、ゆっくりだが、ワルツを少々披露する事になった。


 何度も停止を求められ、ドレスの着心地を細部まで確かめられ。


 そして最後に、「ルルカ様、胸元どうなさいます? レースの薔薇など敷き詰め、隠す方法もございますが……」


 マダムは胸元の中心を、両手の人差し指で指し示し、襟首に沿って指を肩へと上げていく。そんなマダムの首もとは、ルルカより大きくあいているのをルルカは見ていた。


「いえ……」

 そう言った時、エルウィンが大きく「お願いします」と、声をかぶせた。


「あら、エルウィン様やきもきですか?」

「マダム……」


 エルウィンも社交界で有名なマダムには、形なしの様で、まるで子どもの様に扱いされてしまっている。


「サマンドラ様、薔薇をお願いいたしますわ」

「あら、いいの? せっかく勇気を出したのでしょう?」


 さすがにマダム、全てお見通しな事に、感心したようにルルカは口角をあげる。


「薔薇はきっと綺麗なのでしょうね。だから、見てみたくなってしまいましたわ」


「わかったわ! このサマンドラに任せおいて」


 そう言い、彼女は胸を叩き、ルルカとエルウィンは見つめ合い笑顔になった。


 続く


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