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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第三章 七夜月の暗躍

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27:錬金術同好会、噂の過程で

 その日、夏の熱気と共に、フロートが部室へと入って来る。

 眼鏡を手に持ち、大量の汗を袖で拭いた。


「こんちはー」

「ごきげんよう」


 ルルカは、今日は暑いためか、黒髪をエルウィンのようにひとつに結び、彼を見た。

 その手には乳鉢があり、中の薬草を今日もごりごりと音をたてつつ、すり潰している。


 フロートは、作業机の上の書類の山を確認しつつ、辺りを見回しているようだった。


「ルルカ様、もう部長来てますか?」

「いえ、先程、準備室の中も掃除しましたが、いらしゃいませんでしたわ」


「掃除ですか!? ……ヴーン、僕は実は、掃除は得意なのでぜひ今度ご一緒に」

「まぁ、気を使わせてしまいましたね。そうですね。今度是非よろしくお願いします」


「はい。みんなも実は、掃除は得意なので是非に、でも、そうですか……部長はまだか、うーん」


 珍しく、彼の表情に影が差し、なにやら浮かない顔をしているようにも見える。

 彼女は手に持っていた乳棒を、乳鉢にたてかけ立ち上がった。


「フロート様、アイスティーなどいかがですか?」

「ルルカ様、そんな……」


 戸惑いの表情が、彼にすぐに浮かんだ。


 フロートの学年では、ルルカの事を悪役令嬢と呼んでいたらしい。

 そのせいなのか、もともと控えめなのか、彼はルルカに対して遠慮する事が多い。


(わたくし)が、飲みたいので」


 そう言って、棚から空色のコップを2つ取り出し、机の上へと置いていく。


 てきぱきとした姿は、いつもの少し気を張っている雰囲気の彼女とは、異なっているように見えた。


 そして小さな冷蔵庫の下の扉を開け、硝子の長い容器を一つ取り出した。


 彼も手伝おうとしていたが、ルルカがあまりにもてきぱきと動くので、ルルカに進行形を邪魔しない事に気持ちを傾けるばかりだった。


 その時――。


 ロッカールームへ続く扉は、突然大きく開き、部活の制服姿のセロッティーが、風を切って中へと入ってくる。


 そしてめざとく、部室の中の二人の行動をチェックした。


「ルルカ、私にもちょうだーい」

「部長、入って来た途端に、ルルカ様を使わないでくださいよー!」

「フロートは使っているのに?」

「なっ!?」


 彼は声にならない、叫び声をあげている間に、部長は彼の隣りへと座ってくつろいでしまっている。


「フロート様の紅茶は、ついでですよ。そして後はコップを出すだけですので、セロッティー様も一緒にお先にどうぞ」

 ルルカは入れたばかりのアイスティーを、二人の前に静かに置く。


「いやいや、ダメですよ。僕のお茶は後でいいので、先に飲んでください」


 そう言って立ちあがると、彼女は棚の中のコップに、もうすでに、手を伸ばしていたところだった。


 そしてコップを手に取り、胸のあたりに持っていくと、彼女はそのままこちらへ手を伸ばし彼の前に。


「では、……お茶を入れてくださますか?」


 彼は目の前の容器と、彼女の笑顔をちらっと見た。


 そして手を伸ばし、硝子の容器を手に取ると、彼女のコップへとお茶を注いでいく。


 トクトクと涼しげな音をたてて、お茶が注がれていく。

 それとともに、空色のコップはすぐに汗をかきだし、涼しさを増していく。


「どうぞ、ルルカ様……」

「ありがとうございます」


「フロート、お願いだからエルウィンを、敵にまわすことはしないでね」


 そうセロッティーが告げたのは、彼の頬が心なしか、赤みを帯びていたからかもしれない。

 だが、部長と仲の良い彼は、そんな言葉を聞いても、動じず部長を見返す。


「何を言っているんですか? 部長……この同好会の大変な時に……」


 ――大人しい雰囲気のフロート様ですが、部員として? ……ではないかもしれませんが、絆の様なものを感じます。


 フロートの能力を理解し、欲しいと思っても、彼女は手強いライバルになることでしょうね。


 ルルカは呆れた顔で、部長を見ている彼の様子を眺め、心を和ます。


 静かに着席し、彼らをニコニコと見つめている。

 ――そういえば、と慌てた様子でセロッティー様を探していたような。


「そういえば、部長に何か用事があったのではございませんか?」

「そうなの? 必要な苗等の相談? 結果から聞くわ。お願いね」


 ルルカは同好会の仕事を把握すべく、彼女の様子を真剣に見ていると、セロッティーは彼を真剣な眼差しで見た後、紅茶を一口、口に入れた。


 そして彼はその間に、紅茶を一気に飲み干し、すぐに硝子の容器に手を伸ばすと、新たな紅茶を注いでいく。


「輸入された薬が、ここぞとばかり大安売りで、うちの薬が全く売れてません!」


「どういう事……?」


 セロッティーは、机に右手の肘を付けて、頭を抱えだした。


「購買部の話では、近所にある錬金術の工房の薬の売上までが、目に見えて落ちているそうで……、と当分、こちらの商品を置くことは難しいと言われてしまったそうで……」


 近場の工房の方々はカサブランカの安全対策を聞き、購買へ配達に来るついでだからと言って、錬金術同好会の商品を置いてくれていたのだが……。


 もちろん、商品についても工房の商品と同じにならないように、湿布の香りを良い香りのものにしたり、ポーションをちょっと甘い味付けにしたりしたものを、あまり高くない目玉商品として置かせて貰っていた。


 それでこちらの利益は少なくとも、できるだけ教材費をかけずに、新しい商品開発について勉強できる。

 ウィンウィンの関係だったが、それさえも成り立たないほどに、薬草や薬品が売れていないのは、この国にとって危機的状況なのかもしれない。


「なんて事……、ペイジ家は、この国の錬金術を潰すつもりなの……?」


 部長はコップを握りしめ、口惜しそうにそう呟く。


 この日を境に、出歩く事に制限がついた錬金術部、同好会の生徒たちは、学園外の薬の販売を断念すると決めるだろう。


 工房の錬金術師が、後輩の芽を潰すのは忍びないと、購買の搬入のついでにという形で、ルルカたちの薬品を店に置いていてくれていたのに……。その絆さえ、風前の灯火なのかもしれない。


 これでは客の食い合い、こちらは薬を売らなければ、食うに困る事はない。


 だから、少なからず、工房を優先し、不利益をこちらが被る事もあるかもしれない。


 それで学園内の薬販売も控えるべきなら……、同好会では、薬の販売の儲け分の利益をほぼ、材料費や機材の補充や修理などに使っていた。


 その費用はどうするのか? やはり部費の増加になってしまう?


 新たな問題も加わり、顧問不在の錬金術同好会ではその日は、その話ばかり続いた。


「仕方ないですよ。ペイジの店でまとめ買いセールや、安売りセールやってますもん。うちの部員も連れだって買い物へ行ってるっすよ」


 幽霊部員のホログラスは、日々の野外の剣術の稽古からか、今ではすっかり日に焼けている。


 日焼けをし、日々逞しくなっている彼は、売れ残りの飲料系の薬などの様々な薬から、自分の欲しい物を手にとっている。その横でミルティーが、日焼け止めなどを熱心に勧めていた。


「しばらくは、販売を控えるしかないわね……」


 やはり、セロッティー部長はそう判断をくだす。


 仕方がない話だったが、皆……、言葉がでないようで、沈黙の中、グラウンドから聞こえる運動部の声や、文化部の楽器や合唱の声が、やけに大きく聞こえて来る……。


「透明人間になれる薬がいいわ」


「薬草を掛け合わせ、歴史に誇れるほどの薬草の発明がいいですね!」


「団体の研究も、自由研究に力を注ぐんですか?」


 ルルカがふたりに尋ねると彼らは、目を輝かせてこちらを見た。


「そうよ! 共同研究となると、毎年、どうしても大掛かりになってしまい、売れる商品、定番の商品の進化を追い、そこに独自の考察と研究をし、新しい役割を持たせたり、効果アップさせる研究がメインとなっていたわ……。でも、売れないなら仕方ないわね……。結局、何を作っても同じなら……ドカン! 記憶に残る研究をするべきよ! そして経費削減に、山奥のただの植物で作るのよ!」


「実績重視の錬金術部とは、考えが全然違い。経費削減を軸にしていた同好会も、方針を錬金術部に寄せるのですねー。ですが、山奥植物もノア家が調べ尽くしていると思いますよ。ノア家の領地近くにない植物を使ってみるのいいかもしれませんね……」


「そう、同好会は代々、実戦的って事で評価は手堅いわよ。まぁ大きな夢は追えなかったけどね。でも、売れないじゃ仕方ないわね。そろそろ同好会でも金を作り出す様な、どでかい花火を打ち上げましょうか! 錬金術部の顧問の言う『正しい錬金術』ってやつに反旗を翻し、結果を見せて顧問を取り返すわよ!」


「「はい!!」」


「そんなわけで、透明人間になれる薬がいいわ」

「薬草を掛け合わせ、歴史に誇れるほどの薬草の発明がいいですね!」

「凄い発色のいい、化粧品を作ってみたいー!」


「なんか……錬金術師のエゴのぶつけ合いっすね……。ところで、ルルカ様の夢は何ですか?」


(わたくし)はライミュー病が、完治できる薬をいつか作ろうと思っています」


「ああ、ルルカのお爺様の追い求めた、ライミューの奇跡の秘薬ってやつね」

「はい、ここではいろいろと難しいでしょうけど……。いつか……」


「なんか、それぞれみんな夢があっていいっすよねー」


 思わぬ展開で、夢を語る事になったルルカたち。

 だが、それはそれとして、冷静に錬金術師たちの置かれた、現在の状況について彼女は考える。


「それにしても、今のペイジ家の商売で、黒字になっているのでしょうか? 儲けを度外視と言いますか破産覚悟で挑んでいる様にしか、思えてなりません」


「ニュースでは西国のアンドルの魔法、科学の技術を造船技術に応用して作られた、貨物船での大幅なコストカットに成功したと取り上げられていたわ。以前は荷馬車での輸送のみだったのに、大型船による今みたいな大規模な輸入をするなんて、今までの常識覆されたら、薬以外のすべてについて、この国の技術の継承が立ち行かなくなるわ。早く規制をかけないと、国は何をしているのかしらね?」


「じゃー今は、規制をかける前の売り逃げかー、今のうちに買い占めないとっすね!」


「ホログラス先輩は、どこまでも強欲っすね! 見習うべきものがあります」


 目を輝かせる様にミルティーは言い、彼は売れ残り品をぶっしょくする手を止め、彼女を見た。


「ミルティー、お前は口癖だけではなく……。いいさ、言いたきゃ言えばいいっすよ。俺は強欲と言われても、いい装備を集めて騎士として身をたてるっす。そして貴族の三男の出世街道をいくっすよ!」


「へぇー。じゃー見守っていますから、奥様の化粧品うちで買って下さいよ」 

「うちの嫁が、気に入ったらいいっすよ!」


 ホログラス様はそう言うが、彼に決まった婚約者がいるという話しは剣術部内では、聞いた事はなかった。応援などで今年の春の対戦試合にも、こっそりと行っていたが……。


「じゃーこれだけ貰って行くけど、この箱の残りはエルウィン部長に渡せばいいっすか?」


「そうです。お願いします。消費期限はまだ間があるけど、そこも注意してくださいと、伝えてください」


 そうフロートは答えて、彼のために出口を開け、玄関まで見送ったようだ。


 続く


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