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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第三章 七夜月の暗躍

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26:フレットの異変

 カサブランカから帰宅し、父の書斎へと足を向けた。

 憂鬱な時間、無意味な話し合い、今はそんな時代ではない、そんな思いだけが付いてまわる。


 ただ、今日は只ならぬ事が起こっているようで、両親の怯えた声が聞こえてきた。


 目の前にある筈のない、断崖絶壁の崖が見える。


 なら、そこへは必ず、一人では堕ちたりしない。

 誰かを巻き込まなければ、俺の人生、割が合わないだろう?


 そう心地良く思えた。

 それが目指した騎士なのか?


 今、こぼれ落ちる物ばかり多くて、その夢の始まりさえも、日常の記憶にまみれ思い出す事も叶わない。


 ◇◇◇


 ――時間を少し遡った過去、緊急集会として校長の話を聞いたあの日。

 帰宅者への制限は、思いのほか早く掛けられてしまった。


 錬金術師の工房が、燃やされた程度の事で?

 カサブランカでは要請があれば、各部員は補助としての役割であるが、戦場へ駆り出される。


 世界で、魔物や、魔族がいなくなることない。

 

 それに比べ、言っては悪いが、工房が燃やされた程度の事件は、この国という立場から見れば、ありふれた問題ように思えた。


 事件の大きさと、対応がちぐはぐだった。


 まるで、新鋭貴族派か、旧貴族派のどちらかの子どもを守っているかのようだ。

 そんな探偵ごっこに思いを馳せれば、考えなければならない事も誤魔化せる。


    ◇◇


 騎士の夢をつだらない事、道楽と言っていた父。


 そんな父は今回に事件によって、生徒の校内の出入りを制限す学園の方針によって、『これから別邸へ帰ることが、難しくなる』と告げた時、


「騎士になる夢を諦めればいい」


 そうとだけぽつりと呟いた。

 あの人は自分の望む人生を、息子が歩む事だけを望み、息子の願いを聞くことさえ頭に無いようだった。


 父が、息子に望む未来はいつも変わらない。言葉は過去のそれと同じままで。

 たぶん、父もそう言われて育ったのだろう。だから、息子にも変わらず望んでいる。


 それは人生の答え合わせなのだろう。自分の生き方はどうだったか?

 それに素直に従えば、父は満足できるのだろうか? 


 自分の人生に……。


「卒業後は領地へ戻り、私の後をついてまわれば、それでいい」


 そう……、父は何も見てくれてなかった。


 夢を守る為に、この二年間、貴方の息子が何に苦労し、何を諦めなければならなかったのかを……。


 ◇


 それからは……学園には知られないよう、細心の注意を払い、父に弱味を握られない様に、徒歩で一人登下校をしていた。


 しかしついに、面談室内に呼び出される事となった、しばらくしてから母が小さくなって、廊下から顔をだした。


 母は珍しく、父に言わずに来てくれたのだろうか?

『そら見たことか、夢を諦めろ』とこの場で言われぬ事に、胸を撫でおろした。


 そして母は、父を説き伏せたのか、どうやったのか、帰宅回数を減らし、決められた曜日と、時間を合わせ馬車にて帰宅する提案を面談室で提示してきた。


 それについて、驚きはしたけれども……、それが何と引き換えであるかを考えるばかりだった。


「フレット君、君は会話に参加せずにいて、それでいいのかい?」


「父を満足させる答えは、きっと見つけられそうにありませんから……」


 ゼロスの問いは、まるで考えれば正解があるように響くが、父が答えを決めるなら、答えは知っているし、変わることはない。


 フレッドは見目麗しく、まるで精巧につくられた人形のようで、時が止まったままでそこにいた。


 ◇◇


 帰宅した母は、父が望む様な言葉に通訳し、父へと報告していたのを隣りで聞いていた。


 そしてその後の、それでも怒鳴り散らす父の声を、母は巧みに父の怒りを避けたり、呆れたように、その気持ちを表さないように「はい、はい」と返事をしていた。


 結果として、かける時間は減る事になっても、仕事において父を満足させなければならないという、ハードルはそのままの高さで、父から学ぶ時間が減る結果になった。


 父は折れる事がないまま、結果だけ求め、そして家族を見ていない。

 父は何を、見ているのだろう。


 そんな事を思った……。


 ◇◇◇


 そして……父と母の怯える声は、今も続いていた……。


「思わぬ、泥船に乗ったのかもしれない……」

「今から手を引く事は、できないのですか?」

「ヘイゼルの娘との婚約を無視しておいて、今さらだ。そんな事もわからないのか?」


 父は、母に吐き捨てる様に言っている。


 エルウィン、ルルカ、彼らも鬼じゃない。

 うちが没落するのを虎視眈々と狙おうとするのは、どちらかと言えば、あの成り上がりどもであるのに、それさえも気付く事はできないようだ。


 父は、俺とリスレイの婚約で、手に入れた今の発言力に固執している。

 そんなものはありはしないのに……。


 成金どもを切れないのは、父も歴史の浅い貴族だからか?

 継承者の地位に据えられただけの、底の浅い人間だからなのか?


 そんな人間を一人知っている。


 毎朝、鏡を見れば会うことができ、とても哀れで、滑稽な、底の浅い人間が立っている。

 しかし、もうどうしょうもなかった……。


 沈黙と荒い息の後、地獄から這い出て来た亡者の声は続いた。


「旧貴族派には戻れない。こうなってはフレットと成金の娘との結婚を早め、あのリスレイを、こちらの手駒に置く。そして孫でもできれば……アルセス家との親族関係がどんなものかは、理解するだろう……」


 ガタン!!


 俺は、大きな音をたてて扉を開けた!

 今、履いている靴は、騎士も御用達の靴で、カツカツカツと、足音がよく響く。


 父へと近づくさなか、長く伸びた何かを掴んだ。

 模造の剣でも、国旗を掲げるために使う、木の棒で、巻かれた地図でも、どれでも良かった。


 俺はそれを剣の様に持ち、彼らを見据えてその前に立つ。

 両親にはちゃちなものを、剣のように掲げる、愚かな息子に思えただろう。


 子どもの頃はそんな俺でも、将来の見込みがあると、喜んで笑いかけてくれただろうか? 

 そんな両親に、俺も笑顔を向けていただろうか?


 もう思い出せない……。


「父さん、母さん、教えて欲しい。リスレイは成金の娘で、俺はそんなに得意な方じゃありませんでした。


 けれど、貴方がたは家のためと言ったじゃないですか? 


 けれど、俺の子どもさえもそんな風に扱うのですか?


 俺の妻は俺の足しか引っ張らず、子どもはあんたらにとって、ゲームの駒で、じゃー俺の守るべき家は何なのですか? 答えてください。父さん……」


 彼の持つ武器は、おもちゃより脆い。


 それがでも彼の手にある内は、魔力によって、稲妻を放ち、燃え上がっている。


 彼の両親は、常軌を逸している息子から離れるが、それを机が邪魔をする。


「待て、待て!! 父さんが悪かった。あんなことを言うつもりじゃなかった。許してくれ、殺さないでくれ……」


 絞り出すように声を出す父親は、自分の妻を盾にし……。


 突き飛ばす。


 そして彼の母親は「ひぃぃぃい」と声にならない声をあげ、彼の前で無様に転ぶ事となった。


「落ち着いてフレット、貴方は誰よりも聞き分けがいい子だったじゃない。ねっ、ねっ」

 母は、声をあらげて懇願する。


「ハハハ、おふたりとも落ち着て、何をそんなに声を荒げているのですか?……」

 

 そう、突然、フレットは殺気を解き、手の内にあった彼の武器だった燃えがって物の残りカスを、左の手のひらの上へと置くのであった。


 そして、小さく燃える炎を、彼の中の希望や憎悪と言わんばかりに、両親の前に差し出した。


「ここで貴方がたを殺め、牢屋へ入るのは俺の本意ではありません。


 だが……、今の様に貧乏くじを引いたままなら、牢屋にいるのと同等です。


 ですから、今度は立場を変えましょう。貴方がたが、俺のいう事を聞いてくださいお願いします。


 うんと、返事をしてくださらないなら仕方ありません。


 俺を騎士に売ると言うのも仕方ありません。それとも俺を暗殺しますか?


 どれを貴方がたが選択しても、力が残っている限り抵抗し、必ずやあなた方を仕留めるように心がけます。そうすれば……、このアルセスの家も終わりでしょうから」


 そう言ってフレットは心安らかな様に笑うが、彼のどこかが目に見えて歪んでしまったようで、両親は彼のその笑顔を見て震えあがった。


 要求についての答えを、フレッドは静かに待った。

 その間も、両親の考えは、手に取るように伝わって来る。


 フレットはカサブランカでも、剣の実力はエルウィンに続いた位置にいる。


 だが、彼は青年であり、親の意見だけでは彼を完全に拘束する事態にはならなし、フレット自身もされない様に演じ抜くだろう。


 暗殺についても、この家ではもう食事はとらないだろうし、本人を狩るのも難しい状態で、厳重に守られたカサブランカでは、暗殺を受ける者も限られる。


「わかった。お前の要求を飲もう」


 そう彼の父は告げた。


 両親は、もう連れ合いではない様に、離ればなれに座って居る。

 その様子を見て、彼は薄ら笑いを浮かべる。


 そんなフレットに彼らは問いかけるが、もう彼の心には届かなかった。


「父さん、ドスカレッドの言う事を、恐怖に打ち勝てない事を理由に、これからは何一つ固定しないでください。


 迫られた返答は持ち帰り、定期的に手の回る医者を呼び、体調不良を装ってください。


 もし、旧貴族派の不評を買う恐れのある事を行っている場合には、指揮系統にまで病であるように、不利益がでても、これ以上、旧貴族派から恨みを買うわけにはいきません。


 隠れて付け届け、得意でしょう? 母もしくは家令の判断という事で行なってください。

 

 決して、ドスカレッドにばれてはいけません。それから……リスレイ……、彼女だけには普段通りに……」


「わ、わかった」

「大丈夫です。失敗をしても、どうせ貴方がたは実の息子のせいで、棺桶に片足を突っ込んでいる状態です。冷静にやればなんとかなります」


「あぁ……わかった」


「では、お達者で……」


 そう言って、彼は書斎から出て行き、残った彼らは、もう以前の息子は居なくなってしまったのだと……喪失感を抱え座り込んでしまっていた。


 続く


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