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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第三章 七夜月の暗躍

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25/34

25:噂と錬金術同好会と、ルルカとエルウィンの約束 3/3

「まず、国民の感情の面ですが、戦争や未知の病の際には自国の薬の製造ルートが必須ですよね? その為に錬金術師の工房では、最低限の援助を受けてますが、その事について最近、新聞で記事なってませんでしたか?」


「ルルカ様、それについては王室の錬金術師たちから、各新聞社へと声明が出されております。しかし噂の広めているのは冒険者ギルドの冒険者の様で、新聞を読まず、薬に密接な関係であるが故に、不満が抑えられないようです」


 ルルカの問いに、フロートが答える。

 彼もカサブランカの寮生のはず、それにしては詳しい。


 同好会では、以前より学園近く工房の錬金術師を、定期的に講師に招く。

 そしてその工房に、日頃の生成した薬の検査をして貰い、置かせて貰っている。


 その調整をするのは、たぶんフロートしかいない。

 たぶん、そんな関わりの中で、得た情報なのかもしれない。


「そこまで冒険者たちの不満が吹き出しているなら、今できるだけ、身の安全に注意した方がいい。制服の着用や、工房への買い出し等は今も同じく控えるべきだ。だが、どうしても必要なら同行しょう」


「「はーい」お願いします!」


「さすが、エルウィン君、先生の言葉を代弁してくれてありがとう。そういう事だから、実家に帰る際、街へ出る際は、各担任に声をかけるようにね! 先生の話は以上です。はぁ……錬金術部へ行って来る」


 そう言って、マスクを外したまま、先生はロッカールームへと出て行った。


 海外から輸入される薬草や薬を抑えるにしろ、重い関税をかけるにしても、生徒にはどうしょうもない。


 ――例えば、ノア家、それにジョフ ハルバードの後を引き継ぐ事になる誰か、それくらいの地位の方々が先導し物事に当たらねば、きっとすぐに解決ということは難しい。


「俺も剣術部へ帰ります」


「あっ!? 彼氏様、片付けるのはこちらがやるんで、ルルカ先輩、彼氏様を送って行ってあげてください」


「いや、見送りは……」


「はい」


 ルルカは手に持っていたティーセットを置き、エルウィンが行く先のロッカールームを開け、彼を促す。


 そして彼が、部室の扉を開け「ここまで、いいよ」と、ルルカの肩に手を置くと、彼女の碧い瞳は彼を見ていた。


 少し無表情気味な彼女に負け、彼は無言で外へ出るための扉を開ける。

 そして彼女が出るのを待って、扉は閉められた。


「エルウィン様は、何かご存じなのですか? 校長の言った言葉の意味について、何故、今回の事件、街の錬金術師たちの工房や、薬草の農園ではなく、錬金術師の卵であるだけの、私たちにこうも注意を促すのか?」


「ルルカ……」


 ふたりの間に夏の風が駆け抜け、心をかき乱す。


「俺が今、知っているのは、錬金術師たちに風当たりが強くなったのは、男爵の家柄であるペイジ家が薬剤の輸入産業に参入してからだということ。


 ペイジの当主は、経済を牛耳ろうとしている新鋭の貴族派の代表格。


 もともと、我々の家業が邪魔だったのだろう……。


 ドスカレッド男爵は狙い撃ちしたように、旧貴族の商業の砦と言っていい、薬業界へ参入した……。


 そこへ俺たちの婚姻の話。それについては、すでに彼の耳に入っていると思う。


 婚姻が成立すれば、今、ペイジ家が行っているような商売のやり方でも揺らぐことのない、農家と工房をつなぐ大規模な組織ができることになる。


 もしもの話だが、それが成立する前に、強行手段として輸入により我々の家業にダメージを与える目論みなのかしもれない。


 ただ、それでは揺らぐ屋台骨ではないと、男爵も心得ているはずだ。


 そこで不気味なのが噂だ。


 今、薬に携わる人々が襲われても、驚かれる事はないだろう。なら、それに乗じて? そんな考えも、俺にはどうしても浮かんでくる……」


 手が……。


 彼の手が彼女の背に回り、彼女を優しく包む。

 心臓の音がどちらから聞こえるのかわからないほどに、早鐘を鳴らし続けている。


 それは聞いた話しを、怖れているのか、彼の手の温かさが、そうさせているかはわからない。


「だから、君は今回、誰よりも大人しくしているんだ。俺たちはやっと会えたのだから……」

「はい……」


 彼女がそう返事をすると、彼の少し硬く、冷ややかな制服の感触が彼女の背中からゆっくりと離れていく。


「何かあったら、俺に言って欲しい」


 彼の右手の指先は、彼女の左手の指へと、一本、一本と絡められていく。


 そして彼女の肩の位置ほどの高さへと、あげられていく。


 恥ずかしさで高鳴る鼓動の熱さが、彼女の頬と、耳とを赤く染め、碧い瞳は、汗ばむ彼女の左手を見つめていた。


 エルウィンのお顔を見る事はできず、鼓動はより大きく高鳴る。


 ふたりの手が、彼女と彼の間へと運ばれると、視線は勝手にエルウィンの顔へと先回りをしてしまう。


 アクアマリの瞳は今ではどんな宝石よりも素晴らしいと思え、今は彼の笑顔を見れば、何よりも安心できるとさえ思えた。


 ――……くちびる……。



 自分のものではない、その柔らかさを不意に想像し、動揺しながらも目が離せない……。


 彼の柔らかく、少しかさついた唇が、彼女の手に優しく落とされたから……。


「あ……、事後の確認で悪いのだが、俺たちは婚約者同士ではないが……恋人同士って事でいいのだろうか?」


 そう楽し気に、彼が言い――。


 ――その微笑は卑怯ですわ。 けれど……。


「よろしくってよ。関係が変わっても、いつまでもそうありましょう」


 ――はっきりと、自分の思いを声に出すのはいつぶりかしら? 笑顔は上手にできたかしら? 彼に相応しい気品は……? 


「それじゃまるで……」

 エルウィンの顔に、赤みが増していく。


「了解。俺たちの願い、きっと叶えよう」


 そう言う彼は、惜しむ様に指を一本ずつ外していくと、駆け出し、そしていつもの様に振り返り「いつまでもだ!」と、言って走って行った。


 ――素敵な、子どものような笑顔。


 彼女はしばらく、その場に留まり彼の残した温かさにふれていたが、同好会のメンバーを待たせている事を思い出し、慌てて振り返り扉を開ける。


 開けようとした。


 扉を開けようとして、手をかけたら……、扉から同好会メンバーが次々になだれ込む様に現れたのだった。


「えっと……、やっぱり心配で……」

 そうミルティーは言ったのだった。



 続く


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