24:噂と錬金術同好会と、ルルカとエルウィンの約束 2/3
こちらの机には剣術部部長と、錬金術同好会部長が座っている。
彼女はそこへ、トレーに三人分の紅茶をのせて、やって来た。
「ルルカ……」
うっ、眩しい。
そう思えるほどの、エルウィン様は表情を明るくして、出迎えてくださる。
「いいところに来たわ。ルルカには今後の制作目標となる、薬を選んで欲しいの」
そして次々と、私の前に、前年度までの制作過程の書かれた紙がいくつも置かれ、ミルクと砂糖の入れ物が、それぞれ紙の中へと埋もれていく。
今度はその様に戸惑った私と、エルウィン様が見つめ合う事になった。
その時、扉が突然開く。
「ゼロス先生……」
「えっ!?」
そこには、カラスを思わせる診察用マスクをつけた男性がいて、ローブのフードの上に、つばの短い帽子までかぶっている。
その全身黒い妖しい男性が、あの大人しい雰囲気のゼロス先生?
しかし、エルウィンはゼロス先生と……。
「「ゼロス先生、今回、何があったのですか?」」
……どうやら、目の前の男性は、本当にゼロス先生のようだ。
やはり錬金術師の闇は深すぎる。そう再確認する様に、ルルカは冷静に彼を見つめだした。
「みんな、元気だった? 錬金術同好会の顧問教師のはずが、錬金術部の先生が課題をどんどんだすせいで、副顧問なんだけど、監督責任とらされまいと悪戦苦闘する、毎日なんだよねー」
「錬金術師界隈も、上下関係厳しいんですか?」
「ううん、彼が変わり者なだけ。そんなわけだから、あまり来れなくてごめんね」
フロートの答えに、ゼロスは問題発言をしつつ答えた。
「先生、御託はいいわ! 毎日ちゃんと来なさい」
先生は驚いたのか、マスクをすこしだけずれる。
そこには、いつものにっこり笑った顔が出てくる。
ゼロス先生の素顔をさらしたのを皮切りに、セロティー部長とフロートは、それぞれ同好会の活動についての思う所を、先生に問いただし始めてしまった。
だが、それぞれ、話したい事を言うので話は、いっこうにまとまらない。
そして、防御を強めるためか、耳障りが悪かったあまりにか、先生は自然な動作でマスクを再びかぶり直す。
「おぉ、ルルカ君、そしてエルウィン君、君たちが入ってくれると、この部が存続が、より強固なものとなるよ」
「いや……俺は……」
「エルウィンも、毎日、来るのだから入会していると、認められるわよ」
エルウィンの否定は、同好会の存続に情熱を賭ける、ゼロス先生とセロティーの前では、あまり意味を為さないようだ。
二人合わせての熱弁を振るっていたが「俺は遠慮しておく」とエルウィンはそう告げて、腕組みをしたまま口を閉じてしまった。
エルウィンは公爵の血筋を継ぐものであり、ルルカが入学してからも幾つかの役職をこなしている。
そういう貴族社会の頂点にいる人々特有の、圧力をエルウィンからルルカは感じた。
そこで空気を変える為だろう。ゼロス先生はマスクをつけた格好のままだが、今日の本題だろう話を始めた。
「エルウィン君を含む皆さんに集まって貰ったのは、他でもないありません。校長先生もおっしゃった通りなら、錬金術師と、彼らの働く工房、そこに携わる人々に危険が迫っていると言っていいでしょう。その先に、枝、葉に君たちの存在があるかもしれません。くれぐれも注意してください」
「先日の工房が襲われた件ですか?」
「大袈裟ではないでしょうか?」
「酔っぱらいの反抗心でしょう?」
部員は、口々に自分の意見を主張しだす。
「皆さんの感想は、もっともなものです。街の外には弱い魔物が徘徊し、野盗も蔓延る世の中です。紙面での扱いも小さい。しかし……これはある王国錬金術師の方からの情報なのですが、今回の事は仕組まれた事のようです」
「仕組まれた? 誰にですか? そして何故、私たちに?」
セロッティー部長の詰問はここでも、続くようだった。
彼女も危機感を持ち、聞いているのだろうか?
「貴方がたにここまで話すのは、貴方がたに自主性があるからです。言い方を変えれば、興味次第で、右から左に聞き流し、問題事へでも突っ込むでしょう? 貴方がたは! だから、この事件の危険性を、正しく認知させなければならないと判断しました」
「「そんな事、ありません」」
「そう言ってのける生徒が一番危ないんですよ。
ですから、これは内密に。
今回の事件の起点が不可解であり、問題なのです。
国内の高い薬品に対する不満が、安い輸入薬品が入って来た事によって、冒険者たちの不満が爆発した事件と今回いわれてますが、その輸入によって入って来たとされる安い薬草や、薬品の数々。
昔からあるやり方で、海外の安い広大な土地で、人件費の安い人々によって薬草はつくられ輸入されました。
普通は輸送費がかかれば、高くなりそうですが、何故か、他国の最新の輸送技術を使い、一度に大量の薬草を輸入される事自体、予想できなかった出来事で、法による規制もままなりませんでした」
「ペイジ家の話でしょう? 他国の貿易で、そんな最新技術を貸し与えるかしら?」
「セロッティー様……」
フロートがそう咎めるように、小声で制した。
「それはもっともな話しですね。 ですが、まぁー思惑通りにか通りにか、海外からの安価の薬が出回り、民の不満はたまり最初の火が上がりました。
しかし国内の工房で作り出される、ポーションなどの薬剤の値段を抑えるのも難しい。
新しい実験、そして生活していかなくてはいけませんしねー。
そしてこのまま手をこまねいていては、我が国は安い海外の薬草や薬たちに市場を奪われる事になるでしょう」
ゼロス先生はそこまで言うと、黙り込んでしまった。
……そして今、マスクを付けて肩で息していますわ……。
「先生、マスクを付けると、息がしにくくありませんか?」
「大丈夫です。制作担当をした美術の先生が、美意識に力を入れてしまい、このマスク……結構ガバガバなんですよ」
「美意識からの料金価格を提示する美術の先生と、衛生観念からの料金価格の引き下げを求めるゼロス先生とで揉めて、校長が間に入ったらしいわ」
何故か、セロッティーは詳細を知っていた。
錬金術に打ち込み今や、怪しい身なりとなってしまったゼロス先生と、心当たり通りなら芸術に烈火のごとく心を燃やす美術の先生、ここで言い争いでもしてしまったのでしょうか?
「あぁ……マスクの形状に、注文を付けすぎていた過去を晒され負けてしまいました……がね。でも、カッコいい方が、いいじゃないですか……」
マスクによって、くぐもった声は徐々に小さく、不明確になっていく。
セロッティーは目をつぶり腕組みをして、先生の言葉に小さくうなずいた。
確かに、先生の付けるマスクはカッコいい。
不気味の象徴のようなそのマスクは、死亡率が高いある病から、それでも医師が試行錯誤の上で病気に立ち向かった証。
それなら病が入り込まない様にするのは、必須事項ですね。
続く




