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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第三章 七夜月の暗躍

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23/32

23:噂と錬金術同好会と、ルルカとエルウィンの約束 1/2

 今日、学園のグランドにて、臨時の学園集会があった。


「世間では、治安の悪化傾向が危ぶまれています」


 たっぷりの白い髭を蓄えた、校長のそんな言葉から始まる――。


「最近、ある噂を耳にした者も多いはずです。それは一部の者が、暴利を貪っているというありふれた噂です。


 大きな休み前には、貴族に向っての敵意の話しをし、君たちに裏街を歩く事や、祭りや、市場などを一人で、歩かない様にと指導してまいりましたが。


 今回の標的は生活に関わりのある錬金術の工房が、一部の冒険者によって焼かれる事態となりました。


 彼らは戦うすべを持たず、街中に住んでいる。そんな彼らは恰好の標的となりえ、なすすべさえありません。


 そんな暴力に巻き込まれないよう、しばらく生徒の少人数だけで不用意に歩かない様にしてください」


 そして話は終わる。


 首都ルーフェンの周りの森や山や川には、魔物が出る。


 それは大雑把な言い方をしてしまえば、この街に魔物が出るということ。


 彼らは魔物と同等以上の力を振るう。


 しかし彼らの様な魔物と対を成す者が、人を襲う魔物を払いのけられないなら、この街はとっくに滅んでしまっている。  


 街に居る魔物の彼らは、冒険者と言われたり、騎士と言われたり、時として勇者と言われる。

 倫理、家族との絆、そして仲間との友情……そして愛。

 それらの鎖につながれ、街に住み、魔物以上の力で街を守っている。


 それが切れれば、彼らはやはり魔物と同等な悪辣なものへと堕ちてしまう……。


 話しは少し変わるが、ここに【正義】があるとする。

 正義は、ピカピカで、とても綺麗。


 そして今回掲げられた正義は、コレ!


 【街の錬金術師は薬を高い値段で売って、暴利を貪っている。】


 【対比にあげられたのは、安い輸入された薬草と、薬品素材、そこからその材料で、この国で作られたポーションなどだった】


 だから、酔っぱらった冒険者によって、ルーフェンの錬金術師の工房が焼かれてしまったのが、今回の事件。


 しかし、その間違った正義の芽を、王室は摘む事は出来ない。


 今、無理やり、ピカピカの正義が取り上げられたら、彼らはどうする?


 彼らは、その命を擦り切らせ、高い薬品を使い、この街を守っているのかもしてない。


 しかし、決して街の錬金術師は、暴利を貪っているのではない。

 いや、中にはいるかも?


 それをわかっている者もいる。

 それがわからない者が、ダメで愚かなのか?


 しかし、誰も彼も、数々の人々が、剣を持った理由を知る事はない。


 今は、汚い酒飲みの爺になろうとも、彼は家族を、魔物たちの放った、紅蓮の炎の中で亡くした者かもしれない。


 じゃ……何が悪いのか……?

 いや、悪くないかも? 順番であり、ただの運なだけかも?


 それほど、毎日いっぱいいっぱいに生きるのが、この時代なのだから……。


 ◇◇◇


 校長の話を受け、狙われる立場に居る事の多い、生徒たちの心に動揺が起こる。


 しかし、カサブランカには多くの目があり、父母でなければ容易く侵入する事ができないようになっていた。


 自分の貴族の称号を掛けて、学園内へ侵入する事は現実的に馬鹿げており、多くの生徒がそのまま寮で生活を続ける事になった。


 学校側も、ひび割れ、孵化寸前の騎士の卵、魔術師の卵が多くいる事を考慮し、寮は閉鎖もされなければ、授業は平常通り行われ、部活もいつも通り行われる事となった。


 ただ――。


 授業後の今、錬金術同好会にて、ルルカは紅茶を淹れるためのお湯を沸かしていた。


 白くあがる湯気の向こうではエルウィン様が、フロート様と薬草栽培について、熱く話を交わしている。


 彼女はお湯から立ち昇る湯気の後ろで、今度こそ視線を悟られないように見ていると……、必ず彼と視線が交わってしまっていた。


 ――彼の強さの秘訣は向けられた視線を全て、把握できているからかしら? とさえ思えるほどに。


「ねールルカ様、彼氏様に出すお茶は、何がいいんでしょうねー? わかりますか?」


「彼氏様……? え……あ……っと、エルウィン様なら、結構、その時の気分でお茶の種類をお決めになるようです。こちらからお出しすれば、きっと何でも喜ばれると思いますよ」


「でも、同じ会員としてルルカ様の、彼氏様を歓迎したいので、聞いて来まーす!」


 そう言って、ミルティーは行ってしまった。

 けれど、彼氏さんに、様に付ければいいというものでは、ないと思うのですけど……。


 ――彼女からなら、臨機応変に対応できる。そんな気がしますわ。


「ただいまー!」

「ありがとうございます。ミルティー様」


「いえいえ、彼氏様はお任せでいいそうです。いやー、言ってみるもんですね。彼氏様って言っても、笑って許されました!」


 そう元気いっぱいな彼女は、紅茶の葉っぱの瓶を次々と取り出していく。


 ルルカは目を丸くしながら見ていたが、そこへ……部長が居て気まずいのか、同じ剣術部部員のホログラスが歩いて来て、高い位置にある瓶を取ってあげているようだ。


 そんな彼女たちの、テキパキと体を動かす姿を見て、ルルカはふたたび、ティーセットの用意を始めた。


「いや、あれは……ルルカ様がいるから許されてるだけでしょう? 家柄については、公爵ならなおのこと、侮られるわけにもいかない。なら、優しい方でも普通は、怒られるものだと思うよ」


 エルウィン様の隣りで話をしていた、フロート様がこちらへやって来て彼女に声を掛けた。、


「なら彼氏さん、凄く優しいですねー。それなら、ちょっと危なっかしい、ルルカ先輩のことをお任せできます!」


 フロートは、その言葉に苦笑いしつつ、彼女たちの近くにある、セロッティー部長の作った書類の山の前に座る。

 

 そして、机に置かれている、ノートを手に取りつつ見ていたが、ふと、視線を上げルルカを見た。


「ルルカ様……、ミルティーの話しはあの……」

 彼は無意識か、ペラペラと目も向けず、ノートのページを次々と進めている。


「あの……私は、危なっかしいでしょうか?」


 恐る恐る彼女が聞くと、彼らは何とも言えない表情で、顔を見合わせた。


 ――えっ……、否定がありません。


 エルウィンをルルカが見るが、彼はまるで保護者の様に温かな笑みを浮かべるだけ。


「私はそう思うだけですがー、彼氏さんと毎朝、会うためにここに入るのはいいんですよー。


 でも、ふと、ルルカ先輩みたいな有能な人が、それでここを選んじゃっていいのかなって? 


 私は化粧品関係の精製などの、加工をしたい。


 けーどー、基礎に忠実な錬金術部は難しい―て言うかー、顧問と反りが合わないというか、敵ですよ。


 三年からしか、個人の研究を任せて貰えないなんて、授業はなんのためにあるんですかね? ってわけで、パス、パスですよ! 


 そんなんで、見学中にぐぬぬぬぅーって、なってたところで、ゼロス先生にここを紹介して貰いました。


『君にあった場所がある』ってー、結局、選択肢はここのみで、ここへ来るしかなかったんですよー。


 フロート先輩は、薬草の栽培が自由にできるって事で、ここだしー。でも、ルルカ先輩は違うでしょう?」


「あ……」

 そう言われると……。


 けれど、あの時、効果的に錬金術を勉強するという事だけを考えていたら、授業でも、錬金術は学べるからと、きっと剣術部の様子が安心して見られるようになるまで、きっと後回しにしていた様に思う……。


「ミルティー!? 先輩は、同好会を解散する危機を救ってくれる救世主なんだから、余計な事言うなって。ルルカ様、エルウィンのお隣りで、接客をお願いできませんか? 失礼があったらいけませんので」


「はい、ありがとうございます。ミルクと砂糖持って行きますね」

「「お願いします」」


 そう言うと、ルルカは彼らのテーブルに行き、砂糖とミルクを置いた。

  

   続く


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