23:噂と錬金術同好会と、ルルカとエルウィンの約束 1/2
今日、学園のグランドにて、臨時の学園集会があった。
「世間では、治安の悪化傾向が危ぶまれています」
たっぷりの白い髭を蓄えた、校長のそんな言葉から始まる――。
「最近、ある噂を耳にした者も多いはずです。それは一部の者が、暴利を貪っているというありふれた噂です。
大きな休み前には、貴族に向っての敵意の話しをし、君たちに裏街を歩く事や、祭りや、市場などを一人で、歩かない様にと指導してまいりましたが。
今回の標的は生活に関わりのある錬金術の工房が、一部の冒険者によって焼かれる事態となりました。
彼らは戦うすべを持たず、街中に住んでいる。そんな彼らは恰好の標的となりえ、なすすべさえありません。
そんな暴力に巻き込まれないよう、しばらく生徒の少人数だけで不用意に歩かない様にしてください」
そして話は終わる。
首都ルーフェンの周りの森や山や川には、魔物が出る。
それは大雑把な言い方をしてしまえば、この街に魔物が出るということ。
彼らは魔物と同等以上の力を振るう。
しかし彼らの様な魔物と対を成す者が、人を襲う魔物を払いのけられないなら、この街はとっくに滅んでしまっている。
街に居る魔物の彼らは、冒険者と言われたり、騎士と言われたり、時として勇者と言われる。
倫理、家族との絆、そして仲間との友情……そして愛。
それらの鎖につながれ、街に住み、魔物以上の力で街を守っている。
それが切れれば、彼らはやはり魔物と同等な悪辣なものへと堕ちてしまう……。
話しは少し変わるが、ここに【正義】があるとする。
正義は、ピカピカで、とても綺麗。
そして今回掲げられた正義は、コレ!
【街の錬金術師は薬を高い値段で売って、暴利を貪っている。】
【対比にあげられたのは、安い輸入された薬草と、薬品素材、そこからその材料で、この国で作られたポーションなどだった】
だから、酔っぱらった冒険者によって、ルーフェンの錬金術師の工房が焼かれてしまったのが、今回の事件。
しかし、その間違った正義の芽を、王室は摘む事は出来ない。
今、無理やり、ピカピカの正義が取り上げられたら、彼らはどうする?
彼らは、その命を擦り切らせ、高い薬品を使い、この街を守っているのかもしてない。
しかし、決して街の錬金術師は、暴利を貪っているのではない。
いや、中にはいるかも?
それをわかっている者もいる。
それがわからない者が、ダメで愚かなのか?
しかし、誰も彼も、数々の人々が、剣を持った理由を知る事はない。
今は、汚い酒飲みの爺になろうとも、彼は家族を、魔物たちの放った、紅蓮の炎の中で亡くした者かもしれない。
じゃ……何が悪いのか……?
いや、悪くないかも? 順番であり、ただの運なだけかも?
それほど、毎日いっぱいいっぱいに生きるのが、この時代なのだから……。
◇◇◇
校長の話を受け、狙われる立場に居る事の多い、生徒たちの心に動揺が起こる。
しかし、カサブランカには多くの目があり、父母でなければ容易く侵入する事ができないようになっていた。
自分の貴族の称号を掛けて、学園内へ侵入する事は現実的に馬鹿げており、多くの生徒がそのまま寮で生活を続ける事になった。
学校側も、ひび割れ、孵化寸前の騎士の卵、魔術師の卵が多くいる事を考慮し、寮は閉鎖もされなければ、授業は平常通り行われ、部活もいつも通り行われる事となった。
ただ――。
授業後の今、錬金術同好会にて、ルルカは紅茶を淹れるためのお湯を沸かしていた。
白くあがる湯気の向こうではエルウィン様が、フロート様と薬草栽培について、熱く話を交わしている。
彼女はお湯から立ち昇る湯気の後ろで、今度こそ視線を悟られないように見ていると……、必ず彼と視線が交わってしまっていた。
――彼の強さの秘訣は向けられた視線を全て、把握できているからかしら? とさえ思えるほどに。
「ねールルカ様、彼氏様に出すお茶は、何がいいんでしょうねー? わかりますか?」
「彼氏様……? え……あ……っと、エルウィン様なら、結構、その時の気分でお茶の種類をお決めになるようです。こちらからお出しすれば、きっと何でも喜ばれると思いますよ」
「でも、同じ会員としてルルカ様の、彼氏様を歓迎したいので、聞いて来まーす!」
そう言って、ミルティーは行ってしまった。
けれど、彼氏さんに、様に付ければいいというものでは、ないと思うのですけど……。
――彼女からなら、臨機応変に対応できる。そんな気がしますわ。
「ただいまー!」
「ありがとうございます。ミルティー様」
「いえいえ、彼氏様はお任せでいいそうです。いやー、言ってみるもんですね。彼氏様って言っても、笑って許されました!」
そう元気いっぱいな彼女は、紅茶の葉っぱの瓶を次々と取り出していく。
ルルカは目を丸くしながら見ていたが、そこへ……部長が居て気まずいのか、同じ剣術部部員のホログラスが歩いて来て、高い位置にある瓶を取ってあげているようだ。
そんな彼女たちの、テキパキと体を動かす姿を見て、ルルカはふたたび、ティーセットの用意を始めた。
「いや、あれは……ルルカ様がいるから許されてるだけでしょう? 家柄については、公爵ならなおのこと、侮られるわけにもいかない。なら、優しい方でも普通は、怒られるものだと思うよ」
エルウィン様の隣りで話をしていた、フロート様がこちらへやって来て彼女に声を掛けた。、
「なら彼氏さん、凄く優しいですねー。それなら、ちょっと危なっかしい、ルルカ先輩のことをお任せできます!」
フロートは、その言葉に苦笑いしつつ、彼女たちの近くにある、セロッティー部長の作った書類の山の前に座る。
そして、机に置かれている、ノートを手に取りつつ見ていたが、ふと、視線を上げルルカを見た。
「ルルカ様……、ミルティーの話しはあの……」
彼は無意識か、ペラペラと目も向けず、ノートのページを次々と進めている。
「あの……私は、危なっかしいでしょうか?」
恐る恐る彼女が聞くと、彼らは何とも言えない表情で、顔を見合わせた。
――えっ……、否定がありません。
エルウィンをルルカが見るが、彼はまるで保護者の様に温かな笑みを浮かべるだけ。
「私はそう思うだけですがー、彼氏さんと毎朝、会うためにここに入るのはいいんですよー。
でも、ふと、ルルカ先輩みたいな有能な人が、それでここを選んじゃっていいのかなって?
私は化粧品関係の精製などの、加工をしたい。
けーどー、基礎に忠実な錬金術部は難しい―て言うかー、顧問と反りが合わないというか、敵ですよ。
三年からしか、個人の研究を任せて貰えないなんて、授業はなんのためにあるんですかね? ってわけで、パス、パスですよ!
そんなんで、見学中にぐぬぬぬぅーって、なってたところで、ゼロス先生にここを紹介して貰いました。
『君にあった場所がある』ってー、結局、選択肢はここのみで、ここへ来るしかなかったんですよー。
フロート先輩は、薬草の栽培が自由にできるって事で、ここだしー。でも、ルルカ先輩は違うでしょう?」
「あ……」
そう言われると……。
けれど、あの時、効果的に錬金術を勉強するという事だけを考えていたら、授業でも、錬金術は学べるからと、きっと剣術部の様子が安心して見られるようになるまで、きっと後回しにしていた様に思う……。
「ミルティー!? 先輩は、同好会を解散する危機を救ってくれる救世主なんだから、余計な事言うなって。ルルカ様、エルウィンのお隣りで、接客をお願いできませんか? 失礼があったらいけませんので」
「はい、ありがとうございます。ミルクと砂糖持って行きますね」
「「お願いします」」
そう言うと、ルルカは彼らのテーブルに行き、砂糖とミルクを置いた。
続く




