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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第二章 早苗月のはじめまして

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20/31

20:カフェテリアの騒ぎの後のふたり

「ルルカ、錬金術師同好会はどうだった?」


 そう聞いたエルウィンは、いつもの……。


 何でもこなせて、剣を握れば、剣聖に手が届くほどの腕前と、ピリピリと周りを痺れさせるほどの真剣さで、人を圧倒し、けれど部員の洗濯物を自らたたむ不思議な方だった。


 照れている彼が、ポーカーフェイスの裏に隠れてしまったので、ルルカは少し残念な気持ちになった。

 しかし彼女自身も普段と変わらない様子で、残念と思う気持ちも、今は隠している。


「皆様、素敵な方々でした。ですが、フロート様、彼は何者ですか? 植物の管理はもとより、クレセントオーブ、あの様な貴重な植物をあんな環境で、育てられるだなんて……、(わたくし)はあの植物については温室で、それは、それは大事育てるべきものだと思っていましたわ」


 ルルカは興味のある本について語るように、身振り手振りを交えて語った。


「彼、本人は言わないが、たぶんギフト持っていると俺は思っている」


「ギフトスキルですか? 女神からの贈り物ってやつですね」


「ああ、そうだよ。でも、切り札だから誰にも言えないってやつ。こうやって話すのもマナー違反なんだろけど、それを共有するのも、また貴族だからね」


 彼はそう言うと、静かにホットコーヒーを飲む。


 公爵令息なのだから、貴族の世界でも、権力と言う名の剣を振るっていく事になるだろう彼の、その隣りに並び立つのは怖い事なのかもしれない。


 リスレイの苛立ちさえ制する事のできないのに、彼の剣へとなれるだろうか……。


「共有していただき、ありがとうございます。彼が望む道がなければ、彼が拒むことがないようなら、ノアの領地へ招かれる事を強くお勧めしますわ」


「わかっているが、ライバルが強敵だからね」


 彼は頬笑む、企みや、含みのある笑い。

 ライバル…………。


「もしかして……セロッティー様……ですか?」 


「そう、君のご明察の通り彼女だ。そしてたぶん、俺も彼女の計算の内に入っていると思う。そして君もね」


「それはそれは、きっと楽しいお誘いに、なりそうでいいのですが……」


「そして俺も、君を頼りしている」

「お任せください。期待に応えられるよう、頑張りますわ」


 彼に頼られると、背筋が伸び、誇らしい気持ちになる。 

 胸に、片手の指先を当て、自身を示した。


「あ……、そんなに肩肘を張らなくても、大丈夫だよ。今度は、錬金術部への届け物をしてほしい、それだけだから」


 そう聞いて、ルルカは首を傾けて、顔が斜めになる。

 そんな彼女に、彼は戸惑う事になる。


「どうしたの?」

「そのお届けものは、(わたくし)のため……ですよね?」

「なぜ、そう思うの?」


 どうやら、推理パートが始まってしまったようだ。

 エルウィン様が騎士として、探偵のような授業を受けているのなら、読書好きという立場から、心引かれるものがある。


「いつものエルウィン様なら、ご自分で行かれるからですわ」

「感?」

「今までのエルウィン様の、そんな場面を統計しました。遭遇場面は少ないですが、ご自分でされるの方と言う印象は強いです」


「……ハハハ、ルルカは……案外、人を見ていて判断しているよね。君を信用してなかった。って事はない……つもりだ。俺からの頼み引き受けるように、他からの引き受ける。その頼み事をきっと、簡単ではないだろうこなしまうだとう。……そしてまた新たな問題を、引き受けてしまう。違う?」


「簡単には、引き受けはしませんわ。いくらなんでも……。それに同好会の勧誘はちゃんと断ってます」


「それはなぜ?」

 ――しまった!? と、思ったが、エルウィン様、いえ、誰かを納得させる答えすら、ルルカには思い浮かばなかった。


「先約があると思ったからです。エルウィンが困っていたら、剣術部の仕事を、快く承諾しようと思っていました……」


 秘密にしていた思いは、やはり口に出すと、軽率だった事がわかる。


「困るというのは、君のそういうとこだよ。人を見て計算できている。けれど、人のために火中の栗を拾いに行ってしまう。リスレイ、そして彼女と婚約したフレット、君が一番近づいていけない場所とわかるってはいるだろうに……」


「はい……、そうですね。(わたくし)とした事が……」


 ルルカは俯き、膝に置かれた手で、スカートを掴んだ。

 折り目に沿って正しくあったスカートが、クシャッっと皺を作っていく。


「責めているのではなくて、……俺の願いと、さっき伝えた嫉妬もある。俺はそんな考えに囚われるより、君が選択して、学んでいる錬金術、それに関する部活動に所属してはどうかと思ったんだ」


「あぁ……」


「すまない。押し付けがましさや、俺の(つて)であれば、頼まれ事に関わる機会も減るのでは? という傲慢もあったが、朝の水やりについてまで話されてしまとは、あまりにも想定外過ぎて……」


 そう言い彼は、前髪をかきあげる。照れているよう……。髪が乱れてしまうような仕草は彼にとっては珍しい。ルルカも少しいつもと違い、そんな彼をまじまじと見つめてしまっていた。


「だから、錬金術部へ行かないかい? もちろん、断っていい。君なら大丈夫だろうが、三年だからね。就きたい仕事もあるだろう? 種については実は、剣術部は結構、回復薬を目当てにして加入する者も、錬金術部には多いので、彼らに頼む事もできる」


「……もしかして一年生の頃、仮入部の時の事、ご存知なのですか? 私が剣術部のみしか、見学していなかった事について」


「そりゃ……、男子生徒が夢見がちに先輩の話を聞くなかで、珍しい女生徒が部長、副部長と婚約者の女生徒に食い入る様に説明を聞いていれば、目に入るよ。彼女の婚約者は誰だ? って気持ちと共にね」


 彼は伏し目がちに、過去を語った。


 どんな思いが、そこに隠れているのかわからない。

 けれど、ルルカはそれについて触れる事が出来なかった。


 いつか、話しをして欲しい。

 そう、心の底から思い、いつか聞いてみたい。そう、弱気な彼女の心が囁いた。


「では、エルウィン様の好意に甘え、錬金術部の見学へまいります。けれど、やはり聞かせてください。剣術部の雑用はお一人でなさるのですか?」


 ルルカは答えについてはわかっていたが、どうしても気になりそう聞いてみた。『婚約者とお考えくださるのなら……』とか、『結婚を考えてくださるのなら……』とか、という言葉は、今の彼女には気が重く、付ける事はできなかった。


「二年の頃の予定では、一人でやる予定だったので平気だよ。父に聞いた話では、もともと、その程度の仕事量だったらしい。まぁ……そこら辺も、時々やって来る先輩方に聞き調整していく予定だから、そして剣術部の全員で、その仕事に取り組もうと思っている。騎士を目指す者たちだ。きっとできるよ……」


「そうですか……」


 きっと、エルウィン様ならお出来になる。

 そこに彼女自身が、いられない事に少しだけ、ルルカは寂しさを覚えた。


 続く


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