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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
花残月のさよなら

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2/14

2:私は許婚のお手伝いを頼まれ、未来の弟嫁へはそんな彼を追いかけているようです

 久しぶりに見るフレットは、一年生の頃と比べて、身長が伸び、鍛練で体つきもかわっている。

 逞しい体、落ち着いた表情も美しい、彼の人気はとても高い。


「悪い待たせた」

「ごきげんよう」

「ごきげんよう。お久しぶりね」


 ルルカは久しぶりに会う彼に戸惑い、そしてやはり少しだけ棘のある声で返事をしていた。


「今日は彼女を、連れていないのね」

「ああ、舞踏会ではどうも」


 アイシアの言葉を気にも留めない様に、フレットはルルカはを見た。


「舞踏会の話しを(わたくし)も聞きたいところだけれど、急ぐのでしょう? 要件は何?」


「ルルカ……、舞踏会には父について行くかたちで、行っただけだ。そこにリスレイが居た。それだけだよ」


「そのわりには、何曲も踊っているようだったけど」

 ルルカの腕へ掴まり、なおもアイシアはフレットに攻撃を続けた。


「それは……、ルルカがお兄さんと舞踏会へ行くようなものだ。弟と許婚のリスレイとは将来家族になる。だから、俺はやましい事はしてないし、そこは女神に誓える」


 フレットは白い手袋を身につけた手を前に出し、話しを制する様に、収める様にポーズをとった。ルルカはそれを黙って見ていた。


「アイシアありがとう。けれど、フレットも急いでいるみたいだから、先にそっちを片付けないと」


 そう、アイシアの方へ顔を向けた。

 ルルカは行為、言葉の一つ一つが事務的にならない様に気をつけていたが、それは彼女自身には、見分けのつかないものへとなっているようにさえ思えた。


 ……どう行動すればいいのかさえ、最近はわからなくなってきていた。


「すまない。リスレイとの事についての話しは、明日の昼食の時にするから、本題の話しを先にする。春休み前に頼んでいた、副部長の仕事の一部の代理の件なんだが、引き続き頼まれてくれないか? 父が、今度は卒業前の暇な内に、各の方面に顔を出させたいと言い出して……」


「暇ではないでしょう……」


 ルルカはあきれた顔で、フレットを見る。

 

 しかしフレットは子どもの頃からの、王国騎士団へと入る夢のために、反対する父の注文に必死に答えているだけ、それもルルカは知っていた。


 ルルカ自身も彼なら叶える事のできる夢と、一年の時から応援している。

 もし、その事について彼の母から「だから、お願いね」と、頼まれなくてもやるつもりではあった。


「頼めるだろうか?」


「やらなければ、部の皆さんが困るのだから、やらなければ駄目なのでしょう?」

「ありがとうルルカ!」


 両肩を掴まれ、歓喜に揺れる彼の金色の瞳はとても美しかった。


 しかし、彼女はすぐに視線をそらした。子どもの頃は、彼が喜んでくれる事がとても嬉しかった。


 けれど……、今はこう思ってしまう。


 ここで「うん」と言わなかったら、リスレイがしている様に、ただそばに居るだけという行為を、彼は許してくれるだろうか? と――。


「急がないでいいの?」

「急ぐ。では、練習行ってくる」

「いってらっしゃいませ」


 そう言うが早いか、彼は長く並ぶ馬車の横を、学園の方へと走っていく。

 緩いカーブのある場所で、馬車に隠れて見えなくなってしまった。


 ルルカは、先に座っていたアイシアの隣りに座り直し、彼女の肩にもたれかかる。


「やっぱダメか」

「アイシア?」


「ルルカが『浮気者!』って言って、フレットとリスレイの事を怒ってくれるのを期待してた……。なんか、勝手な事してるなーと思ってる。でも、やっちゃうんだよー。ごめんね」


 アイシアはそう言うと、雲の浮いている空を見上げ、顔を覆った。

 彼女のルルカを思う温かい気持ちと、心を痛めるくれている気持ちが、手に取るようにわかる。

 

――ありがとうアイシア……。やはり(わたくし)は駄目ね。大事な親友に、そんな言葉を言わせてしまうなんて……。


「ありがとう、(わたくし)のために、けど……(わたくし)達の関係は口約束だけだけれど、心ままに行動するのは、貴族同士の関係的に難しいというか、聞いた話しによると、うちもフレットの家も、派閥の強化って名目に、屈した側だから……」


 悲しいとも、でも嬉しいとも思える、現状の最大の原因をアイシアに話した時、急にベンチの後ろから、声をかけられた。


「ごきげんようお姉様方」


 振り向くと、制服に黄色のネクタイを締めている、リスレイが立っていた。


 ――本当に、場を見計らった様に現れる子だわ……。


 頭を抱えるが、もう注意しようとは思わない。


 ルルカたちも、ベンチから腰をあげ、立ち上がった。


 大きな緑の瞳は愛らしく、とても構いたくなる容姿のリスレイは、春休みの舞踏会で何度もワルツをフレットと踊った事など、頭にないのか、普段通りにルルカへ笑いかける。


 その後ろから、彼女といつも一緒にいるご学友の方々が、早足でやって来て、彼女の後ろへ並んだ。


「「リスレイ様、皆様ごきげんよう」」

「「ネリアス様、ヘイゼル様ごきげんよう」」


「リスレイ、さっきはありがとう。ちゃんとフレットに会えたわ」


「そんな……ありがとうだなんて、一緒の馬車に乗せていただいたので、フレット様にお礼がしたかっただけですわ。気になさらないで」


 彼女がそう言うと、彼女の後ろでクスクスっと笑い声が聞こえた。


「そうなの? でも、助かったわ」


「一歳も年上のお姉様にそう言われると、恐縮してしまいわすわ。どうぞ、お姉様も、フレッドに言葉をお伝えする時は、(わたくし)を使ってくださいませね。あっ、(わたくし)としたことを話しをし過ぎてしまいましたわね。では、お姉様方失礼します」


「「ごきげんよう」」


 そう言うと、彼女たちは身を翻し、フレットに追い付こうとするように、馬車の列に逆らい歩いて行ってしまった。


「何故、駄目なの!?」


 静かに、リスレイを見つめていたルルカの肩が、ビクッと一瞬はねあがる。

 そして隣りに立つ、アイシアの顔を穏やかな顔で見た。


「リスレイに文句を言うと、泣いちゃうからよ。アイシアには、悪者にはなって貰いたくないの……」


「ルルカ……」

「ごめんね。ほら、お土産あるから食べましょう」

「凄い羽根が付いている帽子は、食べたくないわ」

「それは残念。美味しいのにしましょうか」

「うふふ、そうね」


 ルルカのために今にも、涙を流してしまいそうなアイシアが笑ってくれた。

 そして彼女たちはやっと、暖かな室内へと戻る事ができる。


 ――それにしてもリスレイとそのお友達は、アイシアがいる時でも敵意を隠さないようになってしまった。良くない兆しだわ。


 ルルカの両親は穏やかな性格で、貴族の駆け引きは苦手なのに、この事実を言ったら、今度こそ親戚のツテを総動員して、婚約を解消しようとするかも知れない。

 

 その思いが、里帰りの合間でも彼女の口を重くしていた。


 今、お兄様はふたたび、この国には居なくなってしまった。


 ――お兄様が正式に、この国へ帰って来る事になれば、きっとすべてが上手く行くのに。


「それにしても、みんなどこかしらで見てたのかしら?」

「えっ?」

「凄くタイミング良く出て来すぎて。『ルルカとその許婚いいなずけの事を見張ってた』と、言われても驚かないわ」


「彼女の婚約者のガロット様が、今年入学されるのに……?」


「まぁ、未来の兄嫁いびりかもしれないけど、ルルカの知らないだけで、結構二人の距離近すぎるって、怒っている女の子がいるのはたしかね」


「フレットにとっては(わたくし)たち三人は同じ歳の幼馴染みで、未来の家族らしいから。その事を直接聞いても、彼は気にしないかもしれないわ」


「ルルカの気持ちに気にしないように?」

「それについては、ノーコメント」


  そう言うと彼女達は、寮の中へと入って行った。


 続く


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