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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第二章 早苗月のはじめまして

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19/31

19:フィッシュアンドチップスと幼馴染みの悩み

 エルウィンと昼食の約束をしたルルカは、一人でうきうきとした気持ちで、カフェテリアのメニューをうっとりと見つめていた。


 彼とは先ほどすれ違い、「制服へ着替えるから遅くなる」と言われたばかりだった。


 それを聞いたルルカは、有名なのに男性といると、ちょっと食べずらいそれを、メニューの中に見つけてにんまりとした。


「フィッシュアンドチップスと、アイスティーお願いします」

 そう笑顔で注文をした。


 今日も昼食時には、点々と空席が目立つカフェテリアの中でも、一番奥まった、日陰のテーブルへと座る。


 テーブルに置かれた白いサラの上には、揚げたてのタラのフライと、長細くカットされたフライドポテトが溢れそうな程のせられている。


 どちらからもうっすらと、白い湯気が上がっていた。


 ケチャップと、ゆで卵がざっくりと混ぜられたタルタルソースは、玉ねぎの量の加減も丁度良い。半月の様に切られたレモンも、味の変化に必要に思われた。


 ――これですわ。見たことはあっても、食べた事はなかったフィッシュアンドチップス。


 ルルカは思わず、お皿を前にして、ただ眺める事に夢中になっていた。


 トレーの右側に置かれたフォークと、ナイフを握りしめ、タラのフライを切り分けると、身の厚い白い断面が顔を出す。


 口に入れると、はうはうと程よい熱さで、さくりと身はほぐれ、タラの味わいが口の中に広がる。油も新しいのか、しつこさもない。


 学園に入って、初めて見た時から一人の時は、是非食べてみたいと思っていたものが、目の前にある。


 ここにあるのだから、伯爵令嬢が食べてもおかしくない。


 そんなこじつけじみた考えが、今日の勇気をくれていた。


 フォークでさし、ポテトを口の中に入れると柔らかくて、こちらもアツアツで、塩味が効いている。料理の付け合わせの時より、振られている量は多いように思えた。


「はぁ……美味しいですわ……」


 皮つきで、もっと荒く切ったポテトが、つけられている時もあるらしい。いつかそちらも食べてみたい。そんな未来の楽しみも胸に描いて、食べて行く。


 ケチャップでも、タルタルソースでも、それぞれ味が楽しめる。

 知っている料理の中でも、珍しい。ギルドの酒場で好まれるのもわかる気がした。


「ふふふ、美味しい」


「ルルカお姉様! ここにいらしたのですね!」


 驚き、心臓が飛び出るかと思った!


 ルルカは、手に持っていたものを、皿に投げ出す様に置くと、ゴホコホッと、涙が出る程の大きな咳を繰り返した。


 そんな間も、リスレイは話し続ける。

「どうぞ、(わたくし)の相談にのっていただけませんか? フレット様が大変なのです」


 ルルカの咳が落ち着き、涙を拭う。

 そんな彼女の前には、目の前で涙を潤ませ、祈る様な姿のリスレイがいた。


 縋るものがなく、懸命に見つめる彼女の視線から、ルルカは逃げたかった。

 彼女との絆はまだそんなに、深いものだろうか? 


 困惑しながらも、諦めずリスレイの話だけでも聞く事にする。


「落ちついて……、フレット様がどうかされたの? 話せるかしら?」

「はい、話せます……」


 そう言う彼女の目から、大粒の涙がこぼれ頬を伝った。


「大丈夫? ハンカチは先程使ってしまったけれど、使っていないおしぼりならあるから使って」


「ありがとうございます……、家同士の取り決めで、あんな事がありましたのに……。やはりお姉様お優しいですわ」


 彼女は受け取ったおしぼりで、涙を拭うと、押さえられない気持ちを込める様に、片手でそれを握りしめる。


 フレット、彼はある意味完璧ではあるが、家の事など問題は山積みである……、未練がましい事かもしれないが心配だった。


「そんな事はないわ。問題というのはアルセル伯爵との事?」


「それもありますわ……。ご家庭の事情のおありな、彼に代わり、剣術部での仕事をお手伝いしましたの。そしたら……」


「部内で、何かありましたの?」


(わたくし)は必要ないって……。このままではフレット様は、倒れてしまいます!」


 そう言って、彼女は机に、顔をうつ伏せて、うっぐ、うっぐと泣き出してしまった。


 フレットと剣術部について、ルルカとつながりのある人物と言えば、エルウィン様……。


 しかし、彼は話してくれるだろうが、剣術部の問題として立ち入る事を拒むだろう。


「あれ、見て……」

「わぁ……」


 その時、他の席から、声が聞こえた。

 ため息の出そうな気持を抑えて、できるだけ優しくフレットの真似をして声を掛けてみる。


「可哀そうにリスレイ様、お悩みなのですね。すべては叶えられないかもしれない。けれど、一生懸命考えさせていただきますわ」


 そう、ルルカが言うと、彼女は輝かしい表情で、顔をあげた。


「ありがとう……お姉様……」


 そしてその時、一筋の涙が流れた。


 可愛らしいお顔に、グリーンの瞳が輝いている。

 何て可愛らしいの……。そう思うと、少しだけゆうつな気持ちになった。


「それでリスレイ様は、どうされたいの?」

(わたくし)の事は……」

「けれど……、まずはリスレイ様の希望をお聞きしないと」


 そういうと、ルルカはリスレイに笑って見せる。


(わたくし)は……、皆様のお手伝いがしたいのですわ。フレット様に限らず、頑張る皆様の応援をしたいのです。ルルカお姉様が来れなくなった分、エルウィン様のお力にもなりたいのです」


 彼女の言葉は、素晴らしい言葉の様に見える。


 その事がルルカは頭を悩ませ、彼女はお皿の上の、タラのフライを見つめていた。


 そして考えをまとめると、口から出すが、少しずつ子どもに言い聞かせるように話しだした。


「リスレイ……、剣術部へ来る方、全ての方のお手伝いはできないわ。勘違いしないでね。リスレイの問題ではなくて、皆様、婚約者のいる方もいらっしゃるの。いらっしゃらない方も、リスレイの健気さに、貴方の事が好きになってしまったら……」


「はい……」

 彼女は下を向き、そうとだけ答えた。


「では、次はフレット様は何ておっしゃったの?」

「それが……、今は隣り居てくれればいいと……、他の方の手伝いをしょうとすると、止められてしまいます」


「まぁ、フレット様は、リスレイ様にお優しいのですね。おふたりとも、同じ事を思い合ってらっしゃるのですね。相手に負担になりませんように……。そう思ってらしゃるんですわ」


 ルルカは一生懸命考え、彼女の気持ちに沿う様に努めた。

 我慢、真っ向からの抗議はダメだった。


 そして、次は――。


 まだ考えられない。



「それなら、なぜあんなに冷たいのですの!? そんな事、今までありませんでしたのに! お姉様何か、おっしゃったのですか? エルウィン様も、(わたくし)にはとても冷たい!!」


 そう言って、彼女は泣き出した。


 ――もう……。


 リスレイとは、相性が合わない。

 考えがまとまらない……。


 まだ、幼馴染みという名の、暗闇の中にいる事に気付いた。


「ルルカ、遅くなってすまない!?」


 振り向くと、エルウィン様。

 彼が光りと共に、訪れた様に見えた。


「リスレイ……」


 エルウィン様の後ろに、フレット様が現れ、彼女に声をかける。

 やっと落ち着き、彼らを見ると、二人とも走って来たようで、肩で息をしていた。


「大丈夫ですか? おふたりとも?」

「いや、君の方こそ」


 そう言うと、エルウィンは(わたくし)の食べかけのトレーを持ち、(わたくし)の手をとり、その場を離れようとする。


「ありがとうございます。でも、あ二人の事はいいのですか?」


 彼の近くにより、コッソリと耳もとで、エルウィンへ声をかけた。


「俺にとっては、今までの状態の方が良くないからね」


 彼がそう言った時、リスレイの泣く声がもっと大きくなり、エルウィンは(わたくし)を連れてその場を離れ、遠く離れた窓辺の席へと座る。


「ふりむかないで」

 二人の様子が、気になった彼女は彼に、少しだけ強い口調でそう言われた。


「君はいい子だけど、困ったな……」


 そう言うと、落ち込んでいた気分が、さらに泥の中に埋もれるよう。

 それでもと顔を上げると、彼は頬杖をつき(わたくし)を見ていた。


「ありがとうございます。なんて答えていいのか、困っていました」


「俺はそういう場合、聞かない事にしている。空返事をして、頭に入れない。俺が助けられる人数は、とても少ないから……」


 ルルカは彼を見た。


 そんな彼は見たことがないからだ。

 部員にも面倒、見の良い姿しか見せた事のない様に思う。


「まあ、ダメな時はダメだろうけど、こんな時の様に。ルルカ、フレットと関係す事については、エルウィンが嫉妬すると、言うといい。」


「エルウィン様が、嫉妬ですか?」

「実は俺は嫉妬深い所がある。実は今回の事で、彼を、君の前に立たせた事について、後悔と嫉妬を少しある」


 彼は顔を赤くして、親指と人差し指で少し空間をつくった。

 目を見開いた後に、彼女は頬を赤くして下を向く。


「行ったみたいだから、何か買って来る」

 そう言うと、トレーを指先で、トントンと優しく音をたててーー。


「早く食べないと、冷めてしまうよ」

 そう言って、彼は席を立った。


 顔をトマトの様に赤くしていたルルカは、彼を赤い顔のまま「いってらっしゃい」と見送った。


 それから、赤い顔をしたふたりは、しばらくギクシャクとしながら昼食をとったのだった。


 続く


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