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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第二章 早苗月のはじめまして

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17/29

17:朝、君と出会いて

 やはり錬金術同好会への入部については、まだ先の話だった。


 その日にそこへ向かったのは、気になったから、彼女の言葉が。


 久しぶりに歩く、早朝、薄闇の中にあるカサブランカの校舎。


 街にはない不思議な空気を纏った景色を横切り、秘密基地の様な錬金術同好会へとルルカは向かった。


 そして校舎の角が間近に迫った時、水音を聞いた。


 ――誰かいる。


 そこまでは、予想と想像はできていたし、それくらいしか想像ができなかった。

 動物、植物の異変、セロッティーはそんなことで、ルルカを呼び出しはしない。


 きっと、彼女ならそれらの事で呼び出したなら、声はをあげて怒るはずだ。


 貴族らしからぬ、そんなわかりやすさが、彼女は信用できる。


 だから、きた。



 校舎を曲がり、花壇のある風景が広がると、エルウィンが見えた。


 ――エルウィン様!?


 花壇に植わっている植物たちに、彼はホースで水を撒いていた。


 常時いるメンバーが三人、たぶん剣術部と掛け持ちのホログラス、そしてエルウィン――。


 それだけの人数がいれば、同好会の活動人数としてはやや不安であるが、活動実績としては薬草のクレセントオーブの育成だけで、十分に価値がある。必要ならその事を証明するための、書類をルルカ自身が作ってもいいとさえ思えた。


 そんな事を彼女が考えている僅かな間に、エルウィンは視線をあげ、立ち尽くすルルカに視線を向ける。


「ルルカ……、どうしたの? こんな時間に」


 彼ははな唄と、ホースの水を止めて、制服の上に黒いコートを着込んでいるルルカのもとへとやって来る。


「あっ……おはようございます。エルウィン様……」

「ああ、そうだね。おはよう、ルルカ」


 今日のエルウィンは、少しだけ感じが違い、いつもより親しげに、首を傾けて瞳を覗き込んでくる。


 彼の瞳は薄い青、やはり瞳さえ優しさを帯びているように感じられるのと、不意に出会ったことで胸の高鳴りを押さえられる事ができない。


 ルルカはその緊張からか、コートの袖から少しだけのぞく彼女の手は、太ももの前に重ねておかれ、始めるの舞台に立ち緊張する子どものように立っていた。


 その緊張は彼に伝わったか、エルウィンは一度、ルルカから距離をとったのちに、彼の持っていたホースを彼女の手の少し上へと差し出す。


「やってみる?」

 彼女の視線は、ホースと彼の表情を見るために、往復した。


「はい」

 そして少しだけ、元気よくそう答えた。


 彼女はホースを受け取ると、手元のレバーを操作する。


 それは子どもの頃、遊んだ水鉄砲の様な作りであると理解したようだ。


「後は、あの二つの花壇だけなんだ。頼む」


 エルウィンは彼女の後ろを指差し、彼女の耳元でそう言うと「はい」と返事が返ってきた。


 普段なら、きっと逃げてしまうだろうに、彼の力なりたいその思いが、彼女の中でエルウィンの存在を空白にしていた。


 新しい仕組みのホースを持つ手に力が入り、目標となる花壇を真剣にみつめている。


 剣術部の白いコート姿のエルウィンは、彼女の後ろ側に立っていた。

 彼は片手を腰、そしてもう片方の手を口元へとやり、少しだけクスクスと静かに笑う。


 彼女は振り返り、エルウィンを少しだけ見た。


「ごめん、あまりにも初々しくって」


 しかしそれを聞いても、彼女は真剣な顔のまま、すぐに顔を前へと戻した。


 そして彼女は目標の花壇へ水を撒くと、嬉しいのだろう普段見せない笑顔で、振り返った。


 そこには手で顔を覆い指の隙間から、彼女を見つめている彼の顔が近くにあり、言葉は彼女の奥へと落ちていく。


「うん。可愛らしくて、とても上手だった」

「はい……、ありがとう、ございます……」



 赤く照れている顔が、徐々に視線を下に向けていく。

 彼の手が出され、彼女はホースを手渡した。


「片づけながら話していい?」

「はい、もちろんです」


「では、あちらに行こう」

「はい」


 彼女は、彼の後に付いていく。

 そして水道のところまで行くと、ホースはミシンの糸巻きの様な形状のものへと、巻き取られている。レバーがついて、それで動かすようだ。


「このレバーを回して見る?」

「いえ……」


 興味はあったが、そうするとすべてが、エルウィンのペースになってしまう気がした。

 けれど、巻きとる彼の横に座った。


 彼の視線には気付いたが、知らない振りをしていた。


「こうやって毎日、畑の植物に水をやっているんだ」

「なぜか、聞いていいですか?」

「答えると、見かねてて、やつだろう。魔力の回復と睡眠は密接に関係しているが、水やりは毎日で……」


「見るにみかねて、行っているのですね。エルウィン様……」


 彼女は、それ以上言わなかった。

 彼女は、エルウィンに今は怒っていい立場に居ないため、そして彼にならそれだけで伝わる事だった。


「その時は、部長をセロッティーが引き継いでいたが、錬金術同好会でありながら、いや、同好会であるため、彼女は薬草の栽培を捨てなかった。俺も栽培については錬金術部同様に薬草を寄付すると言ったんだが……」


「諦めなかったんですね」

「ああ、口を出すなら、入会届をだしなさい。今でも大丈夫よ! と言われ手渡されたが、そこは同情で動きたくはなかった」


 彼はその時、ルルカに顔を向けた。


 ルルカは、その顔を眺めながら彼の(こころざ)しの高さをみていた。


「けれど、彼ら魔法に重きが置かれた授業が続くと、目に見えて披露が溜まり、目の下にくまができる」


「魔法薬の規定量を、超えてしまっているのでしょうか?」


「そうかもしれない。魔力、体力の飲料水の学校規定は案外厳しい。己の限界を知るためとはいえ、もう少し量が多くていいのではないか? と、うちの部員を見ても思う。そして自分で回復飲料を飲めば、回復の実感がわかない事に疑問しかわかない」


 彼は落ち着いて答えを出すが、学校規定の魔法薬は仮眠一、二時間程の回復はできるはず。

 基礎能力が高すぎて、実感がわかないのかもしれない。


「エルウィン様、事情はわかりましたわ。けれど、それでも疲れ時は休んでくださいね」


「ああ、わかっている。だから、早朝の水やりの助けはいらないよ。俺は魔力切れは起こさないし、細かい調整は苦手だが、地面に大穴を開けるのにはなれているからね」


「けれど……」

「ねぇ、ルルカ、今日はカフェテリアで待っていればいい? それとも違う場所がいいだろうか?」


 ルルカの心配は絶ちきられ、エルウィンによって楽しい話題へと切り替えられる。


「カフェテリアがいいです。食べていないもの多くありますし、できたら同好会の話しもしたいと思っています」


「今日は授業の関係で、少し遅れるかもしれない。待たずに、お腹いっぱい食べるといいよ」


 そういうと彼は手を拭いていたハンカチをズボンへとしまう。


 そしてルルカの一筋の髪を手に取り、彼女の耳へとかける。


「ごめん、朝……ルルカといると、理性が上手く働かない……」 


 珍しく恥ずかしそうに視線を外し笑う彼を、彼女は耳が火照ってるのも忘れ見つめてしまう。


 その時ーー。


 突然、彼の視線がこちらへ向く。


 なぜかわからない。彼の形の良い唇ばかり、目で追ってしまって絶ちきる為に、目をつぶった。


 トン


 目を開けると、エルウィンは彼女の細い手首を、それぞれの手で掴まえて、彼女の黒髪のかかる右肩に顔を埋めている。


「こんなに……」


「はい」


「理性がきかないとは、思わなかった……」


「エルウィン様……」

「なんだいルルカ?」


「いや、ではないですわ。エルウィン様はいままでの家同士のつながりから、それ以外のつながりを私に示してくださいました。私はそれについて向き合いたいと思っています。後……、剣術部の事、お手伝いが必要なら言ってください。 私も貴方の役に立つ事は、とてもよろこばしことですわ」


「それは認めらられない」


 彼は真剣な顔でそう言うと、後ろへ一歩下がる。

 温かみは彼と一緒に、行ってしまうと、寂しさ、冷たさが忍び込んでくる。


「詳しくは、昼食の時に話すよ。じゃー部活へ行って来る」


 そう言うと彼はまた一歩下がり、校庭への道を駆け足で進んでいく。


「いってらっしゃいませ」


 その声が消える前に彼は振り返り、「昼食、楽しみにしてる」と、言って校舎の角を曲がって行った。


 ルルカは彼の言った先を見つめ、顔を少しだけ傾け、口もとを押さえている。

 穏やかな朝の光の中で、彼女の黒く長い髪が、風に揺れ光っていた。


 続く


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