15:変わり者の同好会員たち 2/2
「入会届は、紅茶を飲んだからにしましょうか。この紅茶の葉も、ここで作れた物で、年々、学生が作ったと思えない味わいに近づいているわよ」
「はい、いただきます」
「部長、ルルカ様にビーカーは……、(部長も一応、ヘイゼル領の工房を、就職希望先の一つに入れているんでしょう?)」
二年の彼は、ルルカがいるからだろう。セロッティーへの言葉を、途中から小声で囁いた。
「うーん、ルルカ、自己紹介がまだだったわね。こっちが栽培を担当してる二年のフロート」
「「宜しくお願いします」」
「この子が一年のミルティー、美容関係について研究するらしいわ」
「よろしくー」
「宜しくお願いします」
「そして私が、王国錬金術師に受からなきゃ世界がおかしい。セロッティー! 改めて、宜しく。だから、フロート、私は王国錬金術師にしかなる気がないのよ?」
「落ちたらどうするんですか?」
「仮説として考えるなら、個人の工房を借りようかしら? って思っているわ。 うちの実家は太いからね」
「あの……私はエルウィン様の代理で、品物を届けに来た三年のルルカです。えっと……改めて宜しくお願いします」
自己紹介も終わり、やっとルルカは落ち着く事ができた。
ビーカーを手に取り、その深みのあるオレンジに近い、紅茶の色を眺めた。
「紅茶が無くなれば遠慮せずに、どうぞ」
ミルティーは、少しぶっきらぼうな言い方をしたが、笑う彼女は、猫のような魅力がある。
「ありがとうございます。ミルティー様」
「すみません。化粧品のモデルとかきょ……」
「ミルティー、それについてはまだ、早いわ」
「はぁーい……」
セロッティー部長は静かな口調で、彼女の言葉を遮った。
そんな二人の様子を眺めているルルカの前に、フロートによって、寮で貸し出されるのティーカップが運ばれてくる。
そして彼は、私の対面の席に座って居た、セロッティーの後ろへと立った。
――えっ?
驚くルルカは、先ほどまでフロートが座っていた、セロッティーの隣りの席と、今のフロートを交互で見比べる。
耳にかけるタイプの眼鏡を付けた二人の、怪しい行動に目を疑う。
「先輩たち、何やってるんですか? 紅茶が冷めますよ」
ミルティーが目をぱちくりさせながら、ルルカの隣りへと座る。
そんな彼女の顔を見て、少しだけ肩の力を抜くことができた。
「今から、新しい会員の貴女たちに説明するわ。よく聞いて……くださいね。カサブランカ、この学園では裕福層からの寄付を募っているの。うちの同好会では、国で最大の農園を持つ、ノア家、つまり……エルウィンの実家から種なり、肥料なりを寄付されているわ」
「あー、それなのにここに居る、ルルカ先輩から、先輩たちの悪行をバレる事を恐れていると……そういう事ですね!」
「それについてや、フロートの就職活動面で、ノア家のスカウトを期待してる部分があるらしいわ! 追加としてお茶会を忙しいと言って、絶対断るエルウィンを呼び寄せ、私たちのこの研究意欲を伝えるチャンスをものにしたいのよ!」
セロッティーはこぶしを握り、熱弁を振るうその後ろで、「うっ、僕の事は今はいいんで」「言い方! 言い方あるでしょう?」と、フロートは慌てふためいていた。
「はぁーなるほどー。さすが部長! ……悪だくみでも、それは素晴らしい方の悪だくみです! 発色の為に染料になる植物の種や、苗も欲しいですよねー」
錬金術師同好会のメンバーはちょっとした、お祭り状態だった。
「いえ、いえ、私は届けものを頼まれただけで、そんな……」
「そうなのー? 良かったー」
冷静にルルカは、部長の話を否定しようとする。
それに対し、セロッティーはやや平坦な口調でそう答えた。
「って事は無いのよ! そう思っているのはルルカ、貴方だけよ。あの、浮いた噂の一つも無かった公爵令息の彼が、親戚でもない女生徒を使い寄越せば、口が重い人物でもない限りどうしても、人の噂に登ってしまう。そうね……私は秘密は話さないわ。交渉材料にするけど」
「部長、無闇に、ノア家を敵に回そうとするのは辞めて下さい……、それに危険な薬品を扱う錬金術師に不適切と、ルルカ様から報告されたら、夢も希望もなくなりますよ!?」
「それにあたしと、ホログラスさんは、話しちゃう系なので秘密になりせんよ?」
「……就職した時、企業秘密は漏らさないようにね」
「もちろんです。夢のためには我慢します」
ルルカは下に置いていた、エルウィンから預かった袋を持ちテーブルをまわると、部長たちの前にさしだす。
「これ、預かってきた。苗と種です」
「今の少しの話しだけで、僕らは無害で、影響は無いって判断されちゃいましたね……」
フロートはセロッティーに呟くと、彼女の前へと進み出てくる。
「ルルカ様、うちの部長がすみません……。活動自体はちゃんとしてるので、入会についてはお決めになってないなら、どうぞよろしくお願いします。では、こちらの中身を確認させてください」
フロートは頭を下げ、袋を受け取ると隣の机で、袋の中を確認していく。
種の袋を机の上に出し、種の種類がわかるように置いて、控えの紙で確認しているようだ。
「はい。確かに。ありがとうございます。こちら、受け取りのお礼書は、前年度の活動報告書ともに、後日、エルウィン様にお届けということで大丈夫ですか?」
「それについては聞いていないので、必要であれば私が取りにまいります。そして同好会の入会届についてはまだしばらく考えたいので……」
「そうね。この年に彼と関わる事になるなら、やることは多そうね。でも……急ぎなさい! 急がないと、人数不足で、うちが解散する事になるわよ!」
「はぁ……」
「部長、強引な勧誘は……。ルルカ様、お気になさらないでくださいね」
今、いる人数が三人、ホログラスは剣術部の彼だろうか?
人数確保の為にいたとしても、同好会の存続の為には後、一名足りなかった。
幽霊部員については、今どれくらいの頻度で通えば認められるのか……。
それにしてもクレセントオーブ、きっとフロート様が育てているのだろうけど、彼の腕を腐らせてしまうのはとても勿体ないと思える。
「でも、やはり……すぐには難しい事のなので……」
「なら、たまには遊びいらっしゃい、お茶を飲むだけでもいいわ」
「それなら、お邪魔させてください」
「ふふふ、来るなら学校と寮の間の門が、開いた朝早い時間がオススメよ!」
「部長……」
フロートは、セロッティーを咎める様に言葉を漏らす。
「何かあるんですか?」
「それは秘密、欲しいものは自分の足で、掴みにいかなくっちゃね!」
「そうですね……。目が覚めるのは早いので、今度来てみます」
ルルカは静かに、セロッティーに言葉を返したのだった。
続く




