14:変わり者の同好会員たち 1/2
エルウィンの頼みを聞き入れ、錬金術師同好会へと続く道をルルカは一人歩いていた。
突然、セロッティー様に呼び止められ、彼らの手伝いをしたあの日から、日にちは多く過ぎてしまったが、貰った入会届のプリントは、今も机に置かれたままになっている……。
もちろん、ルルカは錬金術には感心があり、彼女の夢は祖父の様な人々のための研究をすること。
それがペイジの一族が、背負ってきた宿命のようにルルカには思われた。
つい今しがた、思い出す様な安い宿命、それは紙の様に軽い。
その証拠に、彼女はエルウィン様に多くの仕事を残し、中途半端な形で部を去った事にいまだに悔いを残していた。きっと、リスレイが、フルットが、もしかしたらエルウィン一人で、大丈夫なのかもしれない。
けれど、大丈夫な姿を見るまでは、錬金術同好会へ入会するか考える事さえ、彼女はためらっていた。
◇◇
白い花の、花びらが地面に散らばってはいるが、まだ開花時期はつづいている様で、中央の花壇では、今も可愛らしい花たちが咲いている。
他の花壇には種類が豊富にありそうなハーブたちが、青々としていて雑草ほどの繁殖力があるように、いろいろな形状の葉がまざりあっている。
その緑の花壇の前まで歩みより、ルルカはスカートから白い膝をのぞかせ、座って目の前の薬草たちを観察していた。
人差し指を伸ばし、数える様に指をさしていく。
そして立ち上がると、歩いたかと思えば、他の花壇を覗いては、指をさすって事をしてまわった。
「スレンドポラムと、王林花とドレスチュールは温室でこれから育てるとして、ポーションを作るための植物が、だいたい揃えてあるのね……。最近、輸入した薬草を、使う工房も多いのに……」
彼女はふたたび座り、まだ、少し肌寒い風に吹かれている。
授業でも、薬草類は市販のものを購入し、調合している。
その時、先生が輸入された植物について触れたが、「海外から薬草を輸送する事によって、時間での劣化と、輸送過程の劣化がおこる可能がありますが、個人て錬金術扱う際はそこの見極める技術を培うようにね」と、しかし少量の薬草なら、魔法の応用によって空気を触れさせない事もできる。
今、この国の薬草栽培技術や、錬金術技術も、海外から大量に輸入される素材に合わせ、改革の時を迎え来ている。
――この錬金術同好会が目指すのは、我が国オリジナルの製品か、それとも輸入素材を効果的に使うための技術革新か…。ふふふ、錬金術の未来を想像するのは、楽しいですわ。
やはりカサブランカでは、部活、同好会と違いがあっても彼女の興味を誘う居場所のようだ「うーん」と彼女は呟き、頬に手をやり花壇を改めて眺める。
しかし、こうしていても答えは出ず、膝に手を置き直し、それを支えにふたたび立ち上がった。
そしてやっと目指すべき、錬金術師同好会の部室へと歩きだす。
前回までは通り過ぎるばかりだった部室の前にも、鉢植えの薬草が並んでいる。
それは育て方の難しいと聞く、薬草のクレセントオーブだった。
ドライフラワーの状態で取り扱われる事もあまりなく、とても貴重で、実家の工房でも「この薬草を」と指定されなければ、代用品を普通に使っているのに……。
――こんな花が咲くのね。花は麦のよう……。
知識欲に刺激され、彼女の興味は尽きない。
一つ一つに足を止め、感心と観察を繰り返すと、新たなものへ興味は移っていく。
そんなルルカを、部室の中から洩れ聞こえる声が、現実へと引き戻した。
そこでやっと、エルウィンから頼まれていた用事を、彼女はふたたび思い出す。
髪を撫でつけ、制服のスカートの葉っぱを払うと、扉に付けられたドアノッカーをトントンと鳴らした。
「はーい、何?」
室内から、セロッティーの声が聞こえてくる。
扉は、人が出入り出来る必要最低限、開き、……少し間をおいて、目を輝かせたセロッティーが……、
バァーン! と、扉かを開けてルルカを出迎えた。
「ごきげんよう、あの……」
「やぁー! 入会希望だね! さぁーどうぞ、どうぞ」
ルルカは、目の前に迫るセロッティーを見あげると、彼女はにっこり、満面の微笑みを浮かべる。
そして身長のわりに華奢なセロッティーは、ルルカの腰に手をまわすと、あっさりと彼女を部屋に招き入れてしまった。
「えっ……、あ……ッ、今日はお届け物を、届けに来ただけで……!?」
「そうなの? じゃー中身の確認は大切よね?」
「あ……っ、そうですね。では、お邪魔いたしますわ」
「それがいいわ。ようこそ錬金術同好会へ、歓迎するわ」
そう言うと彼女は、ロッカールームの奥へ続く扉を開いた。
◇◇
錬金術同好会は一年の時、基礎的な研究をするために使った理科室を思い出させた。
縦にのびた長い教室の、教卓のあるべき場所と、生徒の使う机を挟んで、その反対側の場所が、薬草を煮込むスペースになっているようだ。
今は二つ並ぶ、魔法のコンロの一つには、スープ鍋の大きさの鍋が火のつけられていない状態でポツンと置いてある。
実験用の執筆スペースなのか、何も置かれていない机へと彼女は案内された。
ルルカの目の前には、今、二年生の男子生徒の淹れた紅茶が、部長のセロッティー様の手によって、ビーカーに入れられ、白い湯気を上へと漂せている。
◇◇
実はルルカの両親の働く工房にも、紅茶用のビーカーは存在する。
新人が工房に入ると、最初の休憩の時間に行われるのは、先輩が紅茶を後輩へと振舞う通過儀礼。
その際、ビーカーをちらつかせ、ビーカーに対する反応が良ければ、紅茶もしくはコーヒーをビーカーで出す。
それはある出来事を境に、今の意味のある行事、通過儀礼として行われるようになった。
長年続いてて、統計を取ったわけではないが、使用率はティーカップの方が断然多い。
最初は単純に、多くの物語で錬金術師、もしくは理科系の職業の登場人物達は、飲み物を飲む際には彼らはビーカーに飲み物を入れて少しくたびれた感じを漂わせ、紅茶やコーヒーを飲み困難を乗り越えるための何かを作り出す。
ビーカーによって、その物語の世界は塗り替えられる。
そんな夢や希望を詰め込む、ビーカーの使用はサプライズとして喜ばれてきた。
だからそんな、サプライズは続いた……。
しかし錬金術師は、異変や、因果に敏感らしく、ある錬金術師がある事に気づく。
工房のサプライズで、ビーカーを選んだ人程、離職率の傾向が高いのではないか? ということに。
物語のヒ-ロー、ヒロインたちに憧れた彼らは、平凡なポーションの材料を作る日々に、疲れ果て、夢破れてしまうのではないのかと、仮説が立ち。
次の歓迎のお茶会からは、ビーカーを使った新人の錬金術師たちの、サポートを心掛けるようになり、離職率が減ったらしい。
工房で古株の錬金術師おじさんが、最初に語ってくれた。
そんなものかーと、子どもの頃には思っていたが、最近では私が工房へ、勉強がてら、簡単なお手伝いへ行くと、話に詰まると皆、私にその話を語って聞かせる。
どうやら鉄板の話題に、なってきているようですが……。
――そして今、目の前に、紅茶の淹れられたビーカー。聞かされる側から、試される側の錬金術師へと一歩、近づけたのでしょうか?
続く




