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子どもの頃から好きなあなたと  作者: もち雪
第二章 早苗月のはじめまして

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13/23

13:カフェテリアでのふたりの約束

  一階のあるカフェテリア『緑葉樹』、昼食時の今、硝子の窓から春の暖かな光が降り注いでいる。


 カウンターに並ぶルルカからは、今は見えないが、ショーケースには、野菜サラダやサンドイッチ、ハンバーガーなどが並んでいる。


 その他にケーキやパスタ、フィッシュアンドチップスまで色とりどりで、レストランへ行く事の多い、フレットと出会う事もないので、最近のルルカはここへばかり来ていた。


「ミックスサンドイッチ、アイスティーお願いします」


「はーい、ミックスサンドイッチとアイスティー1つずつですね。850ライクになります」

「はい、お願いします」


 ルルカは、商人の為のギルドカードを手渡し、会計を待つ。


「ローストビーフサンドとホットティーと、それとプリンを1つ」


 ――この声は……?


 聞きなれた落ち着いた声に驚き、隣りのカウンターを見れば、そこにはエルウィン様がいて、彼はたぶん、冒険者のギルドカードを定員の学生に差し出していた。


 ――エルウィン様は、プリンがお好きなのですね……。


「あの……、お客様?」

「あっ、はい」


 彼女は慌てて、定員の学生からカードを両手で受け取ると、頭を下げてその場から離れる。


 騎士となるための教育を受けている彼と、王室の錬金術師を目指しているルルカとは当然クラスも校舎自体も違う。あちらの校舎には、ボリューム満点の肉料理のレストランが、2つもあり、軽食を取る場所もある。


 それなら何故、ここへ? そう考えると、都合の良い考えばかり浮かび、ときめく気持ちを受け入れざる負えなくなる。


 ――けれど、多くの女性がそう考える筈ですわ。そしてお相手が居ないのなら、結婚を受け入れるはず。


 ――……でも、でも、それでいいのかしら? つい先日、恋の終わりとともに、多くのものを手の打ちようもなく失くしたばかりなのに……。


 彼女は頭を抱え、悶絶していた。

 けれども、それはルルカの頭の中の彼女であって、実際は優雅に、出来上がったサンドイッチを受け取っている。


「待っててくれたんだ」

「はい。サンドイッチは今、受け取ったところですが、お話したい事もありますし」


 ルルカは、普段どんな調子でしゃべっているのか、忘れるぐらいに緊張していた。

 ――きっと、普通に話す事はできたわ。


 しかし、冷静になれば今度は、珍しく学園の制服のエルウィンの姿に目のやり場が困る事態になっていた。


有名なデザイナーがデザインした制服を、彼はモデルの様に着こなしていた。

十分についているはずの彼の筋肉は、細身のシルエットに素晴らしい塩梅でおさまっている。


 サンドイッチをのせたトレーを手に持って歩き出す、エルウィン様の後で、憧れと、うっとりする気持ちが混ざり合い、それを彼の背中を見つめながら、歩く事で隠すことができて『良かった』と安心しながらついていく。


 カフェテリアの室内に、長く並ぶ白いテーブルには、白いクロスがひかれている。

 机に飾られた花に、心地よく陽の光が当たっていた。


 そして柔らかなクッションに覆われた、椅子の前で彼は足を止めて、振り向く。


「ここでいい?」

「あっ、はい……」


 ――不意打ちの、彼の笑顔は駄目ですわ……。

 春の陽を浴びた、エルウィン様が急にこちらを向いて、にっこりなんて……。


 ルルカはそれでも、澄ました顔を続けたが、彼が引いた椅子へと腰掛ける時、彼に向ける笑顔にぎこちなさを認めざるおえなかった。


 その時、彼は複雑な笑顔をした。


 ――戸惑い? 恥ずかしさ? たぶん一番近いのが、以前見た練習風景。

 行き詰まった後輩へ向ける笑顔、微笑ましく見守る気持ちが、彼れの今の気持ちに近い様な気がする。


 そう思いながら、彼女は、彼に向け不器用に笑った。 


 ◇◇


「実は、俺は最近忙しいのです」

 改まったその言葉に、胸がチクリと痛む。


「部活の雑用がですか? この時間になら、何かサポートできることがあれば、おしゃっていただけば……」


 彼はおしぼりで手を拭き、パンのみみの付いた、サンドイッチを手に持ちっている。

 そして彼は、言いにくそうに話を切り出した。


「錬金術の同好会への、届けものを頼みたい。ルルカの都合のつくときでいいのだが……。 もちろん断ってくれても、大丈夫。でも、できたらお願いできないだろうか?」


「いいですよ。引き受けましょう。場所もこの間、行ったところですし、心得ていますわ」


 ルルカは胸を叩かんばかりの、張り切りようだった。


「どうして、彼らと知り合ったか気になるが、今は君が用事を引き受けてくれた事が嬉しいよ。ありがとう、助かるよ」


 彼は安心したように笑うと、魔力の根源のオドが、ワクワクという思いをルルカに伝えてくる。

 一つ一つの体の変化は、不思議だが、今はその思いを楽しむように、ルルカの表情からは、ぎこちなさが消え自然に笑えるようになっていた。


「でも、すこしだけ心配になったんだが……。無理な頼みは、ちゃんと断るんだよ。これは俺に限らず、言っている事だらね」


 彼は持ち前の面倒見の良さから、そんな言葉をルルカに投げかける。


 ――あっ。

 彼女の心の中に、親友の笑顔が浮かぶ。


 ――似ているのかも知れない……。

 そう思うと、少しだけ心が軽くなった。


「それについては、お互い様の様なのでお互い、注意いたしましょうか」


「まぁ……、それもそうだね。では、昼食を食べ終わったら、君の教室へと届け物を持っていくから」


 そう話すとともに、ルルカのトレーの隣りへ、器に入れられた小さなサイズのプリンが置かれた。

 クリーム色のプリンに、キャラメルが少し流れ落ちている。


「いいんですか?」

「お礼だから……。プリンは好きなの?」

「甘いものは全部好きです。けれど、太ってしまうので、あまり食べないようにしています」


「君はもっと、食べた方がいい。それでも気になると言うなら、一緒に走る事もできるよ」


「走る……。そうですね。習慣でついつい目が覚めてしまいますので、おやつは関係なしに、校内を走るのはいいかもしれませんわね……」


 彼女はサンドイッチを手に持ったまま、朝のジョギングの計画について、深く考えこんでしまったようだ。


 ◇◇


 ルルカの言葉を聞いて、エルウィンが少しだけ声をうわずらせ声を掛ける。

 そんな彼を見て、彼女の碧い瞳が何度も、パチパチと見栄隠れする事になる。


「一緒に走ると言っておいてすまないが、新入生が部活へと入ってくる時期は本当に忙しく、もう少し遅い時期をお願いできないか? それなのに……無理ばかり言ってすまないが、ルルカと一緒にこれからも食事をしたいんだ……」


(わたくし)とですか?」

「できるなら」


 ――あっ、そう思ったが、気づけば、口から出てしまっていた。


「ルルカと食べれば、幸せな気持ちになるからね。だから、一緒に食べてほしい。口説いているんだ」


 エルウィンは宝箱を見つけて喜ぶ青年のようで、裏に隠された気持ちは見えない。


 今の彼の横顔は、満足げに手に持ったサンドイッチをぱくっと食べ、しっかり噛んでいる事がわかるように頬張っている。


 ――確かに、一緒に食べる事は楽しい。けれど……、エルウィン様と、一緒に食べて楽しくない女の子なんて……。


 彼女は下を向き、思い詰めた様に、サンドイッチの皿の横に、ナイフと、フォークを置いていく。


「そうでよね……。|()()わたくしは》、エルウィン様と、食事をご一緒するのは楽しいです」

「そうなるよる様に、努力はする」


 彼女は手に胸を置いて、ひたむきな眼差しで彼を見つめた。

 それに心から答える様に、彼の言葉が響く。


「うふふ、食事を摂るだけなのに、熱くなり過ぎましたわ」

「俺にとっては、思いの人との一生を決める行為の一つだ。熱くならせてもらうよ」


「受けてたちますわ」


 エルウィンも、ルルカもそう言うと、朗らかに笑っていたが……。


 ――後悔はしたくない。重いかしら? 引かれるかしら?

 けれど、彼となら例え無様に転んでも、きっと後悔はないだろう。


 そんな確信が、ルルカにはあった。


 ルルカの、止まっていた時が動き出した様に、その手はナイフとフォークでサンドイッチをスマートに切り分け、唇は彼の言葉に誠実にあろうと言葉を紡いでいた。


 ◇◇


「紅茶は友だちが淹れてたんだ。俺はそれを見て、淹れ始めたのはこの学園に入ってからになる」


「この学園では、紅茶を嗜むにしても間口を広くして、手軽に楽しめる様になってますものね。そしてこのプリンは、とても美味しそうですわ。いただきます」 


「生クリームなどはついてないが、このプリン、例えが下手なのかもしれないが、蒸してるって味わいがあり、オススメなんだ。まぁ、プリンは蒸すものだが……、妹が必死で作ったプリンを思い出すというか……好きなんだ……」


 その時、どこからか「キャーッ」と歓喜の悲鳴が上がったが、鍛えられていたルルカは一心に、プリンのプルプルした姿を眺めていた。


 そしてルルカは我慢できないというように、ひとさじ分だけ、プリンをすくう。

 プルン、プルンと、それはスプーンの中で揺れ、ルルカの食欲を誘っている。


 プリンは、卵と、牛乳の味わいと甘さが、口の中で広がり、溶けていく。


「美味しいです……」


 ルルカの言葉に、彼はふっと微笑みをこぼし、息を漏らす。


「それは良かった。休みの日には、街へ行かないか? 良かったらだが……。美味しいものなら、妹の護衛をしているので、随分知っているよ」


「美味しいものですか、行きたいですわ。ふたりだけで……」

「じゃー予定が立ったら、連絡をするから」

「はい」


 なんでも揃えられる学園でもなく、誰かのための付き合いでもない。

 忙しい中で、アイシアとの買い物にも遠慮していた彼女に、それは心踊る誘いだった。


 そんな彼女の隣りで、エルウィン様は静かに、ルルカの食べる早さに合わせるように、ゆっくりと紅茶を飲んでいた。


 そして時々プリンに対し、満足げに見下ろす彼女を見ては、穏やかに笑っている。


 続く


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