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異世界の神々が全員副業だったので、現場責任者を押し付けられました  作者: フルツ好き男


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3/3

1-3. スコッチ飲みたい

 大聖堂から出ると少なくない村人たちが集まっていた。

 怒声こそ収まっていたが、空気は労働組合の春闘のようにピリついている。

 代表っぽいのは、太った農夫、白髪の老婆、腕組みした若い衛兵か。明らかに不機嫌そうに腕を組みながらこの三人が前に出てくる。

 

「おいおい、なんだぁこのちんちくりんな若造はぁ? もしかして、お前がクロノス神の御遣いってやつか?」


「えっはい。……あ、いいえ、ただの現場責任者です」


「あぁん? 何言ってんだお前?」


 ですよね。ホント何を言ってるんだろう俺は。


「……あの。ところで皆さん、本日はどういったご用件で……?」


「どういった、だと?」


 太ったイカつい農夫が一歩前に出る。

 ……いや、この人、よく見ると太ってるんじゃない。めちゃくちゃマッチョだ。二の腕なんて、俺の腰ぐらいの太さがある。

 何が有ったのかは知らないけど、この人ならおおよその脅威は自分で対処出来るんじゃないかな。


「こちとら一週間以上スコルヴァの群れに畑を荒らされてまくってんだ! 早くヤツらが消えるようにどれだけ祈っても、いまだに何も改善しない! それで神の御遣いが来たって聞いたから、てっきり加護の一つでも寄越してくれるのかと思ってなぁ!」


 そう叫ぶや否や、マッチョ農夫さんが近くに有った酒樽を思い切り殴りつける。


 ――ババゴオオオオォオンッ!!!


 ほぉら、俺の目に狂いはない。恐ろしく速い拳打だ、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 破裂音と共に消し飛ぶ、かつては樽だった哀れな破片たち。あんな怪力が人体に向けて放たれたら、なんて考えるだけで恐ろしい。

 その可能性(最悪の結末)だけは、何とか避けなくてはならない。


「そ、そうですか……でも、こう言うのって普通、冒険者ギルドとか傭兵、街の自警団の方々が対応されるものなんじゃないですかね? 何もわざわざこんな寂れた教会に駆け込まなくても良いのでは……? へ、へへ……」


 俺はここで、秘技 : たらい回しを発動した。

 社会人――特に日本企業では、業務処理能力と残業時間が比例する魔境が存在する。早く仕事が終わる=余力があると判断され、青天井で追加業務がアサインされるからである。

 それでも、せめてストリーム配信で映画やアニメを鑑賞する時間ぐらいは欲しいと、効率化を図ろうものなら「おっ、やる気あるな! キャリアの為、このタスクもやってみるか?」と意味不明な供述と共に、雪だるま方式で業務量が膨れ上がることになる。

 

 従い、殆どの社会人が習得に至る必須スキルがこれ――即ち、「他者への転嫁能力」である。

 転嫁先は、会った事もない第三者が一番好ましい。顔見知りは関係性を拗らせるので御法度なのだ。

 

「はぁ? お前正気か? 『格安でもお布施をすれば、神がその加護を持って害獣を静粛するだろう』っつって、冒険者ギルドに駆け込もうとした俺たちを引き留めたのが、この教会の神父だろうがよ」


 ……ん?


「あ、ああ! そうでしたね。うっかり忘れてまして! アハ、アハハハハ!」


 んおおおおおお?! い、いったいどう言う事おおおお?!

 俺は声を落として横にいたミーナにぽそぽそと耳打ちをする。


「み、ミーナ、この人たちの言ってることは本当なの……? 何か知ってる……?」


「わ、私も自信はないのですが、おそらく本当の事だと思います。この教会の神父さんは、それはもう、村一番の守銭奴で有名ですから」


「えっ、じゃあもう神父本人に対応させようよ。いまその人どこにいんの?」


「……有給休暇です」


「えっ?」


「だから、有給休暇です。ちょうど昨日から二週間の。どうやらご兄弟の結婚式のようで」


 本当の話しならおめでたいんだが。


「ちなみに神父様ご親族の結婚式は、私が知る限りでもこれで三十四回目です」


「身内多すぎるだろ。王族かな? 普通は『バレるかも』ってところで止めるんだけど、もうとっくにタガが外れてちゃってるんだろうね」


 詐病レベルのズル休みに呆れつつ、俺は村人たちに頭を下げる。

 

「す、すみません。いまは責任者が休暇で不在のようでして。戻りしだい至急対応をさせますので、もう暫くお待ち頂けないでしょうか……?」


「あぁ? 問題ないだろ。責任者ならここに居るんだからよ」


 そう言うと筋肉達磨ファーマーが俺の後方に向かって指差してくる。何? デスビーム?

 思わず後ろを振り向くが、そこには当然誰もいない。


「……あの、すみません。仰っている意味が……」


「だ・か・ら。アンタは神の御使いなんだろ? ならアンタがクロノス神の代理って事じゃないか。この廃れた教会の神父なんかよりよっぽど偉いだろ」


 ――あっ! あっあっあっ、マズイ! この流れは非常にマズイ!


「あ、あぁー!! いやいや、それは勘違いですよ! 俺は文字通りただの派遣社員でして! そんな、神の使者だとか、大それた者では決してないんですよ!」


「おい、コイツ何でこんな嬉しそうなんだ……?」


「やべぇ奴かもな……いよいよ教会も頭おかしくなってきてんじゃねえのか」


 その時、ミーナが必死に割って入る。


「ま、待ってください皆さん! この方こそ、クロノス神が私たちに遣わせて下さった御遣い様、その方なのです!!!」


 ……ん?

 

「……ミーナさん?」


「加えてこの方はつい先ほど、神の御言葉を直接受け取った方でもあるのです! その御神託に、必ずやこの件を解決する糸口があるに違いありません!」

 

「あれミーナさん? 聞こえてないのかな」


「おっ、そうか。よし、じゃあその"御神託"とやらを早速試してもらおうか」

 

 如何にも「歴戦の猛者」を感じさせる鎧帷子を身に纏った衛兵が口を開く。

 いやアンタが戦えよ。


「おうよ。コイツが神の御力を預かってるってんなら、さっさとスコルヴァ退治に行ってきて貰おうじゃねぇか」


 マッチョ農夫マンも青筋を立てながら吠えてきた。

 何処から取り出したのか変わらないリンゴを片手で握りつぶし威嚇してくる。

 いやだからアンタが戦えよ!!


「あの……そもそもそのスコルヴァって一体何なんですか? ドギツいリキュールみたいな名前してますけど」


「なんだ、神の使いはそんなことも知らねぇのかよ……牙のデカいイノシシ系の魔物だよ。作物という作物を食い荒らす厄介者でな。デカいやつだと優に三メートルは超えてくる」


「へ、へぇー……それはすごいですね」


「オマケに奴らは基本十〜二十匹の群れで行動するんだ。非常に凶暴な魔物だから一匹でも十分手を焼くんだが……あんたが神の代理ってなら、駆除は余裕だろ?」


「い、いやぁどうですかね? 俺クロノス神に会った事あるんですけど、ホントただのやさぐれOLでしたからね。神の力言うてもきっと大した事ないですよ。だからいっそ冒険者ギルドに駆け込まれた方が――」


 俺の言葉をかき消すようにミーナが力強く叫ぶ。


「ク、クロノス神様は万物を司る偉大なお方ですから!! それはもう、スコルヴァなんて一瞬で一掃して下さるに違いありませんっ!!」


「あ、分かった。この子たぶん敵だ。俺の逃げ道全部的確に潰してくるもん。もう信じらんない」


 万事休す、と言う言葉がここまで当て嵌まる状況もないだろう。俺が頭を抱えたその時――。

 

 ――ピロンッ。


 足元に転がっていた例の水晶玉が愉快な電子音を響かせた。

 

『やほやほ☆ 現担っぴ、調子アゲてる〜?? リプないから優しいエイミィが心配してあげたよ〜ん♫」


 相変わらずのテンションでギャル神エイミィが現れた……そうだ、まだコイツがいるじゃん!!!


「うおおおお、ナイス濃縮還元ギャル!! 今ほどギャルが尊く見えたことはない!!」


『ちょ、どしたどした〜? めっちゃアゲてんじゃんウケるんだけどw 現担っぴ、マジであーしのこと好きすぎじゃね? こわぁ♡』


「ごめんなさいエイミィパイセン、次から節度弁えますんで! だからお願いです、今度は通信切らないで! なんかその、スコッチ?みたいな名前の魔物と戦う流れになっちゃって……神の力でどうにか、何とか、ぜひお願いできないでしょうか!!」


『スコッチwww それバチくそEARTH1399の酒じゃんwww ってかスコルヴァな? 初歩的な魔物の名前すらウロとかマジないわ〜……信頼度ガタ落ちよ〜現担っぴ〜』


「ほおおぉぉぉ、なんか実力査定されてるゥゥ……!!」


『唸り声きもっ♡』


 ……泣きたい。


『でもまぁ教えといたげる☆ あのね〜? 神界以外で神力使うときって、稟議書りんぎしょってゆ〜申請文書を上に回して承認とらなきゃなんだわ〜。』


「……え? り、稟議すか……?」


『そゆことそゆこと〜♫ 流れ的には、あーしの上司に提出 → 上司が「内容ヨシ!」→ 部署内で神様たちがワチャワチャ回覧 → 最終的にうちの大ボス・オルディナっちがハンコ押して承認って感じ〜』


 稟議……! その文化神界にもあるんかい……! 


『ちなみにこの書類〜、あーしが代わりに書いたげてもいいんだけどぉ、“現場のヒアリング不足”とか言ってめっちゃ差し戻されるからマジだるいのよね〜。書いて、戻されて、直して、また出して、ハネられて〜〜……ぴえん通り越してぱおんだよマジで』


 エイミィパイセンがユル巻きにした真っピンクの髪をイジイジし始める。ううむ、ちょっとイジけるギャル可愛い。

 

『そんだけじゃないからねー? 最後の関門・オルディナっちのハンコスタンプがまたクセ強でさ〜。あの人、ガチでテンションの波がエグくてて。上機嫌な日は♡で押してくれるんだけど、寝不足だと普通にハンコの位置間違えるのww で、押す場所ズレると――はい無効〜☆ 再提出よろしくぅ〜って感じ?』


「え、神界いまだに紙で回してんすか……? 地球《元の世界》ですらもうちょい電子化進んでたのに。なんかめっちゃ非効率すね」


『だしょ?! 現担っぴもそう思うっしょ?! でもこれがね〜、"神たる者、伝統を重んずべし☆"とかドヤ顔で言われてさ〜、全部強要されんの。えぐくないww? 合理性とかマジ知らんがな!ってノリで神界はまわってっからww』


 だから世界管理も手が回らなくなるんだろ……なんか頭が痛くなってきた。


『だもんで、普通に申請したら承認まで3〜5営業日くらい? ただしオルディナっちのご機嫌がフルバッドだと2ヶ月待ちもワンチャンありえっから、そのつもりで〜☆』


「に、2ヶ月?! その間に村が消滅するか俺の心がぐちゃぐちゃに砕けちゃいますよ!?」


『まぁまぁまぁ☆ でもでも〜、現担っぴのお土産次第では……エイミィちゃん、ちょ〜っとだけ本気出してあげちゃうかもしんないな〜?♡』


「え……み、土産すか? いわゆる、社内ワイロ的なやつ……?」


『そうそう! ELDULYA6952のベルンタットって街のクロワッサン、マジサクサクでさ〜♡ GODAZON配送で買うと輸送料だけでエイミィちゃんの月収飛んじゃうからさww 今度帰ってくるとき、可愛い先輩に買ってきて欲しいな〜♡』


「ええ……めっちゃストレートに要求してくる……しかも俺がのっぴきならない状況なの分かってて……」


 しかし、これはとんでもない真実が発覚してしまった。

 つまりこの世界では、神の奇跡一つ起こすのですらオルディナ(あのやさぐれOL)の承認がなければ出来ないという事だ。

 そろそろ俺がこの苦境に立たされているもの全てあの堕神のせいだと言うのに、なんか仮を作るようで余り気が進まない……が、マッチョ農夫の刺し殺さんとふる視線を浴び続けているこの状況だ。背に腹は変えられないだろう。

 

 ――ピロンッ♪


 やがて軽快すぎる効果音が空気を裂いた。


『申請フォーマット送っといたよ〜ん♪ あーしが代行提出してあげるから、必要事項ぜ〜んぶ埋めてからまた言ってちょ。なる早でよろしくねん〜☆』

 

 ――ピッ。

 

 通信はぶち上げハイテンションな笑顔のまま切れた。

 俺は水晶球を抱えたまま、ゆっくりと村人たちを見回す。


「……えー。皆さん」


 全員が、固唾を呑んで俺を見つめている。


「スコッチ討」

 

「スコルヴァな」


「……スコルヴァ討伐には、どうやら先ず申請が必要みたいです……」


 重たい沈黙が、その場を這うように流れた。

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