第33章 京子と雪村
「コレでめでたく、私も雪村君の守護役として、二代目を襲名できたわけだから…」
物陰からボクを引っ張り出しながら、村田さんは言った。
「…雪子さんと同じように、私のことをこれからは、京子さんって呼んでもらおうかな。」
少しワルイ笑顔で彼女はそう言った。
「京子…さん?」
「もう一度」
「京子さん。」
「もっと。」
「京子さん、ありがとう!」
「うん。よくできました。」
彼女は満足そうな笑顔を見せた。
「ところで、京子さん。」
二人で門に向かって歩きながらボクは訊いた。
「なにかな、雪村クン。」
ナニゲにボクのことを真田君というのをやめたらしい。
「いったい、どうして、この場所、この時間が解ったのかな?」
ボクは当然の疑問を投げかけてみた。
まあ、どうせ、チートな返答がかえってくるのだろうけど…。
「それは、まあ…一種のイヤな予感かなあ。」
「そんな漠然としたものなの!?」
「ほら、私たち、中学校では一度も同じクラスにならなかったじゃない?」
「うん。」
「それで毎日、今ごろ雪村君はどうしてるのかなあって、考えるようになって…」
「うん、うん。」
「…気がついたら、どこで何してるか解るようになっちゃった。」
「え~。」
「でね、ある日、いつものように感じた場所に行ってみたの。」
「ほう、ほう。」
「そしたらそこに、あの雪子って人が一緒に居たってわけ。」
「それは、いつの話かな?」
「ついこの間よ。3学期の始業式の日の下校時間。我が愛知県立朝日ヶ丘高校の美術科とは、日程がずれていたから可能だったの。」
「で、雪村君と途中で別れたところで、彼女に近づいて問い詰めたのよ。」
「なんて?」
「アナタは雪村のなんなのって。」
「そしたらね…すごく正直に答えてくれたの。」
「何を?」
「何もかもよ!」
「彼女が、別の並行世界からやって来た、雪村君の姉にあたる人物で、この時間軸で、雪村君に降りかかる災いから、その身を守ってるんだって。」
そんな荒唐無稽なヤヤコシイ話を、一発で理解できた京子さんは、やっぱりすごいや。
こりゃ、敵わないな。ボクはそう思った。
それ以外の事も、自転車を片手に駅に向かって歩きながら、二人で色々と話した。
いつの間にか、空が白み始めていた。
氷雪系のチカラはボクに出会う前からあったらしい。
ヤバ過ぎてボクには秘密にしていたんだそうな。当然だよね。
初めて自覚したのは幼稚園のころだったという。
悲しくて自分の部屋で泣いていたら、目の前のグラスのジュースが凍りついたらしい。
成長するに従って、だんだんチカラも増大していき、細かいコントロールも可能になったんだそうだ。
それから、今日の深夜徘徊は、「友だちのウチにお泊り」ってことにしてあるとも言っていたな。まだ春休み中で良かったよ。ホントに。
地下鉄荒羽田駅に到着した。
今日のところは、ひとまずここで京子さんとはお別れだ。
朝日はすっかり明るくなり、間もなく地下鉄の始発もやって来るころだ。
ふと、昔、酒井さんを、駅まで送ったことを思い出した。
さしずめ、今日のナイトは京子さんだったな。
ボクは一人で笑ってしまった。
この日を境に、彼女とボクの絆が、さらに深まっていったことは、今さら言うまでもないことである。