第31章 邂逅②
「あなたはだあれ?なんて今さら訊くのも無粋なことよね。」
漆黒の制服の雪子さんは言った。
「最初から解っていたわ。あんなに私の心に響く、素敵なお手紙を書ける人物なんて、私自身しか居ないものね。」
すると白い制服の雪子さんが口を開いた。
「ワタシはアナタ。アナタはワタシ。ワタシたちは表裏一体。」
まるで洞窟の中で聞くような、ヘンな響き方をする声だった。
「そうよね。」
黒い制服の雪子さんが応じた。
「いつかこうなることは、充分予測できたはずだったわ。私としたことが、うかつだった。」
「ワタシは陰、アナタは陽。」
「ワタシは虚、アナタは実。」
「ワタシは影、アナタは光。」
「ワタシはマイナス、アナタはプラス。」
虚ろな目をした白い制服の雪子さんが喋り続ける。
「ワタシはタマゴ、アナタはニワトリ。」
「いいえ。その意見には、異議あり、よ。」
黒い制服の雪子さんが口をはさむ。
「私とあなたは、どちらも同時に生まれた。だからどちらも同じニワトリよ。」
「この時空での、私の数々の行いが、あなたを実体化させた。」
「もともとは、私もあなたも一つの精神体。そうよね?」
「私と同じ能力を持つあなたにとっては、私と同じように、この時空の過去も未来も、並列に扱える。」
「だから、あなたは赤ん坊の雪村に手を下せた。」
「でもあなたが私なら、なぜ雪村の命を執拗に狙うの?」
白い制服が答える。
「ブツリ的ボディの寿命を全うさせなければ、アカシック・レコードに手が届く高次のセイシン体にはなれない。」
「自殺はダメだが、ジコ死やビョウ死なら良い。」
「だからワタシが、早くユキムラのブツリ的ボディを壊して、その精神体をジユウにする。」
「なるほど。マッド・サイエンティストの私らしい見解だわ。」
黒い制服の雪子さんは鼻で笑った。
「でもだめ。私は雪村に、物理的ボディの限界まで生きてもらうって決めたの。」
「ナゼ?」
白い制服の雪子さんが尋ねる。
「それが雪村の幸せだからに決まっているじゃないの。」
答える黒い制服の雪子さん。
「ブツリ的ボディは年齢とともにレッカする。」
「ゆえにブツリ的ボディは不自由。」
「ワカラナイ。その意見にはサンドウできない。」
「どうやら平行線ね?」
「あなたの希望どおり、決着を着けるしかないようね。」
「まったく、とんだ deus ex machina だわ。」
そう言うと、おもむろに黒い制服の雪子さんはチカラを溜め始めた。
彼女の周りの、たくさんの瓦礫や小石が、ゆっくりと浮いていく。
それらが、彼女を中心にしてグルグル回りながら、宙を舞い始めた。
そして彼女自身も、二つのお下げ髪を揺らしながら、ゆっくりと空中に浮かび始めた。
すると、まったく同じことを、白い制服の彼女も始めるのだった。
二人のチカラと意地のぶつかり合いが、今、まさに始まろうとしていた。
気がつくと、春の深夜だというのに、大気が熱くなっていた。
一触即発のその瞬間、ボクの居る場所から見て正面の暗がりから、突然、強い冷気を感じた。
「お姉さま方。茶番は、そこまでにしていただけるかしら?」
冷気の主が言った。
目の前の闇の中から姿を現した第三の人物は、スレンダーな身体に黄色いワンピースを身に着けた、髪型は前下がりのボブカットの…。
…ボクが良く知っているあの少女だった。
そう、彼女は村田京子だ。