第29章 雪子と雪村
数時間後、ボクと雪子さんは、仲良く並んで下校していた。
「いったい何やってんですか。サプライズが過ぎますって!」
自転車を引きながらボクは小声で雪子さんに言った。
「私ね、ずっと夢だったの…。」
「…雪村君とクラスメートになって、一緒に学校生活を送るのが。」
クネクネと腰を振りながら、うるんだ目で雪子さんは言った。
「だから、そういう悪ふざけはやめて下さいって。」
「だってこういうの、年頃の男子はみんな好きでしょ?」
「ボクは男に媚びない、クールビューティーな女性が好みなんです!」
「あら、それって、私のせい?」
くっくっく、と笑う雪子さん。
「…もういいですから、ちゃんと解るように説明して下さい。」
「それもそうね。じゃ、真面目な話をするわ。」
雪子さんは通常モードに戻った。
「私も色々と思うところがあってね。」
「直接あなたに接近するのは、当分の間やめることにしたの。」
「監察局からの報告では、この時空に悪影響が出始めているらしいし。」
「あなた自身も、自分で自分を守れるチカラがついたみたいだしね。」
やっぱり何でもお見通しなんだな、雪子さん。
「だからこの高校で、1年生の3学期の間だけ、あなたを近くで見守ってあげるわ。」
「その後は、しばらく会えなくなるでしょうね…もしかしたら永遠に。」
「えっ。今、なんて?」
「何でもないわ。」
「…そういうことだから、制服もこのセーラー服のまま。けっこう気に入ってるのよ、このスタンダードなデザイン。」
雪子さんは、その場で立ち止まってクルクル回って見せた。
「表向きは、急な転校で、制服の準備が間に合わなかったっていう設定にしてあるの。」
「でも、本当は光陽高校の制服が気に入らないの。」
我が校の制服は、男子は学校指定のボタンに付け替えただけの通常の学ラン。
女子の方はというと、上は紺色のブレザー、下は同じ色の箱ひだスカート。中は白い開襟シャツだった。
それはまるで、どこかの会社の事務員さんのようないで立ちだった。
たぶん、我が校の前身が、商業高校だったころの名残なのだろう。
確かに、身の回りの女子からの評判は、あまり良くない。
「雪子さんて、オシャレに気を遣う方だったんですねえ。」
「あたりまえでしょ。私を何だと思っているのよ。」
「マッド・サイエンティストの超能力者。」
ボクは即答した。
「…その前に、年頃の可愛い女子でもあるのよ。」
あれ?マッド・サイエンティストの方は否定しないんだ。
「加藤は当然、偽名ね。本名はもちろん、ご存じ真田雪子。」
「年齢は永遠の17才。だけど、今だけは16才!」
…また言ってる。
「とにかく、3月の下旬までは、この私が直々に見守ってあげるから安心しなさい。」
「その後は、潔くフェード・アウトしてあげるわよ。」




