第22章 雪子の告白②
「私はね…。」
雪子さんは続ける。
「…私が生まれてからすぐに死ななかった、可能性の未来からやって来たのよ。」
「???」
「それは、あなたが今居る時間軸とは別の時空。」
「因みに、そこでは照和は70年まで続くのよ。」
「あなたのところでは、64年でおしまい。」
「…。」
ボクにはちょっと難しかった。
「グウの音も出ないのね。」
「例えばね…。」
雪子さんは少し考える。
「あなたが名護屋から東京に行くとしたら、どういう手段を使う?」
「…そりゃ、新幹線に乗って行くかな。お金があれば、だけど。」
ボクは、つい最近、修学旅行で行った時のことを思い出した。
「この際、費用やスピードのことは度外視していいわ。」
「じゃあ、飛行機に乗ったり、船に乗ったり…かな。」
「そうよね。」
「交通手段を変えると、途中で見える景色も、きっと違うでしょうね。」
「その結果、たどり着くゴールも微妙に変化するのよ。」
「…なるほど。」なんだか解りかけてきたような。
「別の言い方をすると…。」
「あなたが今日まで歩んできた人生を一つの線路とするでしょ。」
「うん、うん。」
「それとは別の線路が、無数にあなたの線路の隣に並んで走っているのよ。」
「…ボクの経験した人生とは別の、過去から未来へ続く道…?」
「そうよ!さすがは私の雪村!」
「その線路一つ一つを時間軸と呼んでいるの。」
「つまり私は、あなたとは別の時空、時間軸からやって来たのよ。」
ボクには細かいことはよく解らないが、雪子さんが何を伝えたいのかは解った気がした。
「それで、ボクのところにやって来た理由っていうのは…?」
「私はね…。」
雪子さんは少し呼吸を溜めてからこう言った。
「すべての並行宇宙の神なのよ。」
「…!?、イヤイヤイヤイヤ、そんなあ。」
ボクはヘンな声を出してしまった。
「ウン、今のは言い過ぎたわ。」
雪子さんも苦笑する。
「だって、ほら、昔、兜甲児が初めてマジンガーZに乗るときに、おじいさんが言ってたじゃない?その力を使えば、神にも悪魔にもなれるって。」
「…本当は、神に等しいかもしれない力を手に入れた存在なのよ。」
「私は、並行宇宙を旅する超能力者で、その能力を使いこなせる天才物理学者でもあるのよ。」
そんなチートなキャラクターがあってたまるか!と、ボクは内心思った。
あれっ。チートなキャラクターって何だ?
「因みに、年齢は永遠の17才。」
そこは聞き流すことにした。
「もともとはね…。」
雪子さんの話は続く。
「小学生のころから、困ったことがあると、少し前の過去に遡ってやり直すことができる程度だったんだけど。」
「やがて高校生のころに、趣味で量子物理学の勉強してみたら、色々と発見することがあってね。」
「…で、ナンヤカンヤあって、あらゆる並行世界に自由に行けるようになったってわけ。」
「ナンヤカンヤってなんですか。そこ重要なところですよね。」
ボクはちょっと食い気味に訊ねる。
「そこは…まあ、企業秘密って言うか…ねえ?」
雪子さんは目をそらす。
「ねえ、例えば仮に、雪村君がタイムマシンを発明したとして、その作り方や使い方を、ホイホイ他の人に話したりするかしら?」
「解りましたよ。雪子さんにとって、ボクはその程度の存在ってことですね?」
ボクはちょっと拗ねて見せた。
「まったく。雑なライトノベルだって、もっとちゃんと説明するだろうに。」
ブツブツつぶやくボクの言葉に、雪子さんはちょっと眉をひそめたようだった。
(この子、なんでライトノベルなんて単語を知っているのかしら?)
「真面目な話…。」
雪子さんが言う。
「何もかも教えることで、あなたに危険が及ぶのも嫌なのよ。」
「へいへい。そういうことにしておきますか。」
「…説明、続けるわよ。」
「どうぞ。」
「私は趣味で、ありとあらゆる並行世界を旅してみたのだけれど、どこの時間軸にも必ず私の同位体は居たの。」
「で、無数の私の同位体に、私の精神体を憑依させて…そこから様々な知識や技術を吸収して、ますます私のチカラは高まっていったわ。」
「でも、たった一つの時間軸だけは例外だったの。」
「それが、雪村君、あなたが居るこの時間軸なのよ。」
「ここだけが、生まれて間もなく私が死んで、私が居るべきポジションに、あなたが居るセカイなの。」
「多分、アナタはあらゆる並行世界の特異点。だから、私はアナタの無事を見守ることにしたの。」




