第14章 二人の妹
「ボクの妹」 一年十組 十番 真田雪村
ボクには妹が二人居ます。一人は小学四年生の香子。もう一人は小学一年生の由理子です。
香子は読書好きで思慮深く、時々難しい理屈を言うので、よくボクとケンカになります。多分、同じ理由で父とも母ともよくケンカしてます。
でもそれは、早くから自立心を持っている証拠なのかもしれません。
由理子はいつも朗らかでマイペースです。だから誰ともケンカしません
「他の人と話を合わせるのが上手いなあ」といつも思います。
二人を比べると、香子が損をしているような気がしてなりません。
でも、ボクは兄として、彼女に良いアドバイスをしてあげられる自信がありません。彼女以上の理屈を考える力を持っていないからです。
でも、先生、人生は理屈だけでは解らないものですよね?
ボクは時々、理屈では理解できない体験をしてきたので、そう思うようになりました。
今度、香子にもそう言ってやろうと思います。
「もっと頭を柔らかくして、素直な気持ちで、色々な経験を楽しんだらいいよ」ってね。
「ねえ、お兄ちゃん。」
ボクが中学一年生になったある日、ふいに妹のカコがボクの部屋のドアを開けて、声をかけてきた。
「ノックをしろよ。」とボク。
「時々お兄ちゃんに逢いに来るあのお姉さんは誰?」
どうやら見られていたようだ。
「ああ、同級生のお友だちだよ。」とボク。
「でもあの人、お兄ちゃんの学校と違う制服だよね?」
なかなか鋭い着眼点だ。
「そうかなあ。」
なんとか誤魔化せないものか。
「それに、いつも、コソコソと内緒話ししているし…なんかアヤシイ。」
「…実はボクの彼女なんだよ。」
もうこうなったらコレでしのごう。
「彼女は村田さんでしょ。」
「違うよ。」
「違うの?」
「…ええっと、うーん…。」
「ねえ、誰なの?名前は?」
「誰だっていいだろ。お友だちだよ。カコには関係ない。」
「ワタシも気になるなあ。」
カコの後ろから小さなユッコも現れた。
二人のコンビプレイは珍しい。それだけに、ボクはかつて無い窮地に立たされていると言っていい。
「そのうちちゃんと紹介するから。今はそっとしておいてくれないかな?頼むよ。」
ボクは白旗を上げることにした。
「そのうちっていつ?」とユッコ。
「まあ、近いうちに。」
「絶対だよ。約束する?」とカコ。
「ああ、必ず。」
「もしも約束を破ったら、村田さんに言いつけてやるからね。」とカコ。
コイツはホントにボクの弱点をよく解っているな。
「とにかく、勉強の邪魔だから出てってくれ。母さんに言うぞ。」
ボクがそう言うと、二人はドアを閉めて渋々去って行った。
「そろそろ自己紹介しなきゃだね?」
背後で雪子さんが囁いた。
「!?」
ボクは声が出そうになるのを、必死に飲み込んだ。
「安心して。さりげなく上手にやっておくから。」
「…お任せします。ボクは自信が無い。特にカコは手強いんだ。」
「まかせて。」と雪子さん。
「それより勉強の方は順調に進んでる?」
「まるで自己暗示にかかったようにすこぶる順調…いや、ひょっとして雪子さんがボクに暗示をかけたのかな?」
「私は幼いキミに約束をさせただけよ。真面目なキミは、それを忠実に守っているだけでしょ。」
「…確かに。」
「それにこのまま色々な勉強を続けて、知識を深めれば、近いうちに私が何者か理解できるようになるわ。」
「うん。それは知りたい。」
「じゃあ、引き続き、中間テストの勉強、がんばってね。」
「ありがとう。」
ボクがそう言うと、雪子さんはいつものように煙のごとく消えてしまったのだった。




