第13章 真田恵の告白
昭和51年、西暦なら1976年4月。ボクは六年生になった。
担任は去年と同じ中田先生。例の人権無視野郎だ。
新学期開始早々、あろうことか、今年もボクに不名誉なあだ名をつけて喜んでいた。
彼は黒板に各クラスメートの氏名と出席番号を書き出して示す時、男子は白、女子は赤のチョークで表し、ボクだけ黄色で書いたのだ。
その上でボクに対して「黄色の13番」などというメンドクサイあだ名を命名をしたのだった。
…やっぱりコレ、訴訟してもいいレベルのイジメだよねえ?
まあ、でも、そんな変なあだ名が定着するはずもなく、ボクはマイペースでクラスメートたちとそこそこ良好な関係を築いていた。
例のガキ大将とも去年の暮れに和解したし…正直に言うと、最終的にはしつこく絡んでくる彼に対して、ボクがキレてしまって暴力に訴えたんだけどね。
剣道部で鍛えられたせいで、いつの間にか、ボクも身長が伸びて腕力もついていたのだった。
暴力で勝っても、何だかスッキリしない。自分の中の動物的な部分を引き出された感じがして、とても後味が悪かったのを覚えている。
だからこれ以降、長い間他人に対して暴力的になることはなかったのだ。
さて話は変わるけど、6月に入ったころ、そんな担任から宿題が出された。
「自分の名前のルーツを調べよう」…そんな課題だった。
このころのボクは、宿題に早め取りかかることがすっかり習慣化していたので、帰宅して早々、玄関で母さんに質問してみたのだった。
母さんは少しその場で考えていたけど、「こっちへ来て座りなさい。」とボクをリビングに連れて行った。
ソファに向かい合わせに座ると、母さんが話し始めた。
「雪村も六年生だし、そろそろ話してもいいころね。」
「いいわ。今から話すことは、信じられないこともあるけど、全部本当のことよ。だから真剣に聞いてね。」
いったい何を話すというのだろう。母さんはいつもより少し怖い顔をしていた。
「…実は昔、あなたにはお姉さんがいたの。でも、生まれてすぐに亡くなってしまったのよ。」
ああ、昔、叔母さんが怒っていたアレのことか。
幼いながらに、ボクの記憶の中でひっかかっていた、ナニかが蘇ってきた。
「彼女がちゃんと生まれていれば、空から降る雪に子どもの子と書いて、雪子という名前になるはずだったの。」
「!?」ボクはとても驚いた。と、同時にどこかで納得もした。
「次にあなたが生まれたときに、お父さんが、戦国武将の真田幸村のことが大好きだったから、それにあやかってユキムラと名付けたんだけど。ユキの字は、お姉さんの雪をもらってつけたのよ。」
…そうだったんだ。コレで宿題は提出できそうだ。
「でね。」
母さんの話はまだまだ続く。
「ここからが不思議な話なんだけど。」
「雪子が亡くなってすぐ、お母さんが病院のベッドで泣いていると、雪子がやって来たの。」
「???」
今、なんて?
「ああ、正しく言うと、自分のことを雪子と名乗るセーラー服を着た少女が、わたしの枕元に立っていたのよ。」
「そして、彼女はとても優しくわたしのことを慰めてくれたのよ。」
「彼女は、この世ではないどこかで雪子は生きているから安心して、と言っていたわ。」
「彼女がウソをついているようには見えなかった。」
母さんの目は、どこか遠くを見ているようだった。
「ただ、ここからがもっと不思議なんだけど。」
まだナニかあるのか?
「実はお母さんね、彼女にもっと昔に出会っていたのよ。」
「え?」
何だか背筋が寒くなるボク。
「お母さんがお父さんに初めて出会ったあの日。今からそう、17年くらい前かしらねえ。」
いよいよ雪子さんが何者かわからなくなってきた。
それとも、昔彼女が言っていたように、もっともっと色々な本を読んだり勉強したりすれば、理解できるようになるのだろうか。
ボクは何だか途方に暮れてしまったのだった。




