第12章 村田京子の場合①
わたしの名前は村田京子。お父様、お母様、お姉さまの4人家族。お父様が最近名東区に新しく家を建てたので、一宮市から引っ越してきました。
それで、地下鉄上社駅から長い坂道を登った突き当りにある公立小学校に、四年生から転入することになりました。
最初は知らない子たちばかりで不安だったけど、すぐに隣の席の男の子とよく話せるようになりました。
実は、その子は声のトーンも高く、ショートカットで色白で、わたしよりも小柄だったので、はじめは女の子だと思っていました。
ところが話をしているうちに、話題が仮面ライダーとかウルトラマンとか、好きな女子のことになっていったので、あわてて態度を改めました。
でも、せっかくできたお友だちなので、時々自宅に招待して、わたしの好きな英文対訳のスヌーピーの本や、和田慎二先生のマンガを貸したりして、共通の話題を作りました。
「超少女明日香」や「スケバン刑事」は名作ですよね。
彼は永井豪先生の「マジンガーZ」や「デビルマン」を紹介してくれたけど、正直、チョットついていけなかったです。
それでも、ウチは男兄弟が居ないから新鮮で、彼が遊びに来ると、お母様もお姉さまも喜んでいました。
特に彼が、お母様の趣味の「木目込み人形づくり」に興味を持ったので、お母様とそれについて熱心に語り合っていました。
なんでも彼は、NHKで放送されている「新八犬伝」と「真田十勇士」という人形劇を熱心に見ていて、いつか自分も人形を作ってみたいと考えているらしいのでした。
私もその番組を見ましたが、辻村ジュサブロー先生の人形には、確かに妖しい美しさがありました。
彼とはその後も六年生までずっと同じクラスで、友だちとしての絆を深めていきました。
小学校卒業後は、すぐ北隣にある公立中学校に入学しました。1クラスに45名所属する1学年13学級のマンモス校だったので、3年間一度も彼と同じクラスになることはありませんでした。
余談ですけど、中学校の西隣に公立幼稚園もあり、そこの女の先生と、ウチの技術家庭科の男の先生が、柵越しに愛を育んで結婚まで行ったことは、有名な話です。
「結婚かあ。」
その話を聞いて、わたしも少し将来のことを想像しました。
彼も私も、お互いに好きと言ったことは一度もありません。
むしろ、今までに何人か、彼の好きな女子の話を聞いたことがあるぐらいです。
「わたしが一度も好きな男子の話をしていないことに気づいてるのかな。」
時々そう思ったりしますが、鈍感な彼は、それがどういうことなのかきっと解らないのでしょう。
彼とは中学校ではずっと違うクラスだったけど、正課クラブの「デッサンクラブ」では2年間一緒でした。
クラブの顧問の先生に「キミたちお似合いだよね。もう結婚しちゃえばいいのに。結婚したら先生に知らせてよ。」なんて茶化されたりして。
彼もまんざらでもない顔をしていたように見えました。
毎日がそんな感じで、相変わらず定期的に遊びに来てくれる彼に、少しずつ好意をつのらせていく自分が居たのでした。
彼の名前は真田雪村君といいます。
わたしは彼のことが大好きです。
彼のことを、これからも支えて行きたいと思っています。
私は、いつまでもいつまでも彼の味方です。




