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月明かりに隠した想い

明音の秘密が明らかになり、物語は大きく動き出します。

彼女の残された時間、そして輝琉の決意。

短い夏の中で、二人が本当に伝えたい気持ちを見つける第3話です。



夏祭りが終わり、夜風が少しひんやりと感じられるようになった頃。

輝琉と明音は川沿いのベンチに腰かけ、並んで夜空を見上げていた。

月はまるで二人を照らすように、柔らかく輝いていた。


「今日はありがとう。最高に楽しかった」

明音は少し疲れた声で笑った。

「でも……少し休みたいな」


「大丈夫?」

輝琉が心配そうに顔を覗き込むと、明音は笑顔のままゆっくり目を閉じ、そのまま意識を失った。


「明音!」

輝琉は慌てて明音を抱き上げると、近くに住む彼女の祖母の家まで走った。

祖母の慌てた様子で、明音が普段から病院に通っていることを知った。



---


明音はその夜、町の小さな病院に運ばれた。

病室で見守る輝琉の手を、弱々しく握る明音。

「ごめんね……黙ってて」

彼女の声は、いつもの明るさとは裏腹に震えていた。


「なんで……もっと早く教えてくれなかったんだ」

抑えきれない感情が、声を震わせた。


「だって……もう時間がないって知ったら、楽しい気持ちでいられなくなるでしょ?私、夏の間だけでも普通の女の子でいたかったの」


明音の瞳から、一筋の涙がこぼれた。

輝琉は彼女の手を強く握り返し、心の中で決意した。

(だったら……残りの時間を、最高に輝く夏にしてやる)


その晩、病院の窓から月明かりが差し込み、白く照らされた病室はどこか幻想的だった。

明音は静かに目を覚まし、輝琉が眠らずに寄り添っているのに気づくと、小さな声で呟いた。


「ねえ、輝琉さん……」

「何?」

「わたし……子どもの頃からあなたの歌に救われてきたんだよ」

「……」

「あなたの歌には、不思議な力がある。寂しい夜も、泣きたい日も、聴くだけで笑顔になれた」


明音は力を振り絞って言葉を続けた。

「今度は……生で、あなたの歌を聴きたい。夢みたいなお願い、かな」


輝琉は迷わず首を横に振った。

「夢なんかじゃない。必ず叶える」


彼はポケットから、夏祭りの夜に撮った二人の写真を取り出した。

楽しそうに笑う明音の姿に、涙がにじんだ。

「東京に来てくれないか。俺のライブに……必ず招待する。約束するよ」


「……ほんとに?」

「ほんとだ」

輝琉は彼女の髪を優しく撫でた。


明音は疲れ切った顔を崩し、安心したように微笑んだ。

「じゃあ……もう少しだけ頑張るね」



---


翌朝、退院の準備をする明音の後ろ姿を見ながら、輝琉は強く思った。

(俺にできるのは、音楽だ。残された時間で、彼女に最高のステージを見せたい。心から歌を届けたい……)


そして彼は、東京へ戻ることを決めた。

明音の祖母に深く頭を下げ、再び必ず迎えに来ると約束し、上京の電車に乗った。


窓の外を流れていく夏の田園風景。

その景色は、これから訪れる切なくも大切な時間を、輝琉に覚悟させるように輝いていた。


病院の月明かりの下で交わした約束。

短い命を前にしても、音楽が心を繋ぐ力を信じる二人の姿を描きました。

明音の願いを叶えるために走り出す輝琉の想いが、少しでも心に響いていたら嬉しいです!


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