短くて長い夏
出会ったばかりの二人が、一緒に過ごす田舎の夏の日々。
何気ない景色やお祭りの賑わいが、二人の心を少しずつ近づけていきます!
その短くて儚い時間が、かけがえのない思い出になることを願いながら、この話を書きました。
真夏の空はどこまでも澄み渡り、陽射しが背中をじりじりと焼くようだった。
月島輝琉と山田明音は、朝の柔らかい光が差す田舎の細い小道を並んで歩いていた。
草の匂いと遠くの川のせせらぎが混ざり合い、どこか懐かしい空気が心を包む。
明音は嬉しそうに声を弾ませる。
「輝琉さん、見て!この川も変わらず流れてる。毎年夏になると帰ってきたくなるんだ。」
輝琉は少し照れくさそうに微笑んだ。
「そうだね。ここは……なんだかほっとする場所だ。」
彼女の笑顔を見るたび、胸の奥が温かくなる。
しかし、どこか隠しているものがあるのを感じていた。
川辺に着くと、二人は腰を下ろして靴を脱ぎ、冷たい水に足を浸した。
川面に反射する太陽の光がきらきらと踊り、時折吹く風が火照った体を撫でていく。
「気持ちいい……!」
明音は足先で水を蹴りながら、笑顔を輝かせた。
「東京は暑いだけで風もないし、こんな涼しさなんて感じられないよね。」
「確かに、向こうは風も熱風だしな」
輝琉も笑って答えた。
「こうして君といると、時間がゆっくり流れている気がする。」
「わたしも。ずっとこうしていたいって、思っちゃう。」
明音はふと真剣な表情になり、輝琉を見つめた。
大きな瞳に映る自分の姿に、輝琉の胸が少し痛んだ。
水音だけが二人を包む時間が流れ、どちらからともなく視線を外した。
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川遊びを終えて帰る道すがら、明音は道端に咲く野花を見つけてしゃがみこんだ。
「見て!この花、かわいいね。持って帰ってドライフラワーにしたいな」
「きっと似合うと思う」
輝琉の言葉に、明音は恥ずかしそうに笑った。
その笑顔が、胸にしまっておきたいほど愛おしく思えた。
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夜になると、二人は町の夏祭りへ向かった。
色とりどりの提灯が風に揺れ、浴衣姿の人々が行き交う。
屋台から漂う甘い綿菓子や焼きそばの匂いが、夏祭り独特の高揚感を生む。
「わたし、あのヨーヨー釣りやってみたい!」
明音が子供のように瞳を輝かせると、輝琉は嬉しそうに首を縦に振った。
「行こうか」
ヨーヨー釣りの紐を握る明音の手元を、輝琉はそっと支えた。
「落ち着いて。ゆっくり引っ張って」
「ありがとう……」
二人の手が重なる。
些細な接触が、胸の奥を優しく震わせた。
ヨーヨー釣りを終えた明音は、赤と青のヨーヨーを手に嬉しそうに笑った。
「二つも釣れたの、初めて!輝琉さんのおかげだね」
「俺は見てただけだよ」
そう言いながらも、明音の嬉しそうな顔を見て輝琉の胸は満たされていった。
「でも……君が笑ってくれるなら、それだけでいい」
心の中で、そっと呟いた。
夜空には次第に花火が上がり始めた。
大きな音が響き、視界いっぱいに広がる光の花。
それを見上げる明音の横顔は、花火に照らされて一瞬ごとに表情を変えていった。
「きれいだね……」
「うん」
輝琉は彼女の横顔から目が離せなかった。
夏の夜風が心地よく頬を撫でる中、二人は並んで立ち尽くした。
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帰り道、祭りの喧騒が遠ざかり、静かな小道を歩く二人。
明音はふと立ち止まり、夜空を見上げた。
「わたし、ずっと輝琉さんに会いたかったんだ。音楽で、何度も救われたから……」
輝琉は驚いて、彼女の横顔を見た。
明音の目には微かに涙が光っていた。
「会ってみたら……思った以上に優しい人で、びっくりしちゃったけど」
明音は照れ隠しのように笑った。
「そんなふうに言ってもらえるなんて……」
輝琉も微笑んだ。
「俺も……君に会えてよかった」
その夜、月明かりの下で交わした言葉が、二人の心に深く刻まれた。
二人で過ごした夏祭りや川辺でのひととき。
明るい笑顔の裏にある、明音の隠された思いを少しずつ描きながら、二人が特別な感情を育んでいく様子を大切にしました。
読んでくださった方の心にも、どこか懐かしい夏の景色が浮かんでいたら嬉しいです(*ˊ˘ˋ*)