出会いの夏
この物語『夏の月明かりに輝く琉』は、切なくも美しい夏の一瞬を描きました。
主人公の輝琉と明音は、音楽という共通の想いを通して出会い、短い時間の中で互いに影響を与え合います。
人生には終わりがあることを知りながらも、誰かと過ごす時間の尊さや、心の輝きを忘れずに生きることの大切さを伝えたくて書きました。
どうか、この物語が読んでくださる皆さまの心に、ひとすじの光として届きますように。
真夏の午後。田舎町の蝉しぐれが耳を刺すように鳴り響いている。
月島輝琉は、都会の喧騒から離れ、久しぶりに帰省した故郷の小さな商店街を歩いていた。
歩道に積もった熱気が足元からじわじわと伝わり、汗が背中を伝う。
「懐かしい……」
木造の古びた家屋、色あせた看板、隅っこに置かれた自転車。
変わらない景色に胸がぎゅっと締めつけられた。
輝琉は、ふと目を止めた小さなCDショップの前で立ち止まる。
店の扉は木製で、色あせたポスターや手書きの告知が貼られていた。
店の中からは、かすかに懐かしい音楽が漏れてくる。
彼はゆっくりと扉を押し開け、ひんやりとした空気に包まれた店内に足を踏み入れた。
棚に並ぶ無数のCDジャケットの色褪せた背表紙が、まるで時間の層を重ねるかのように並んでいた。
輝琉は指先でひとつずつ触れながら、懐かしい曲を探していた。
音楽は彼の幼少期を支え、都会に出てからも心の支えだった。
だけど、この故郷の空気の中で聴く音はまた格別だ。
その時、隣の棚から伸びてきた細い指先が、彼の手と同じCDに触れた。
「すみません!」
慌てた声が店内に響く。
振り返ると、茶髪の長い髪を揺らす明音が、大きな瞳を輝かせてこちらを見ていた。
「その曲、好きなんですか?」
彼女の瞳には強い輝きが宿っていた。
「ええ、昔からずっと好きで…」
輝琉は少し照れながら答えた。
「私もなんです。辛い時、何度も救われた曲で…」
明音の声には揺るぎない熱があった。
二人の間に、言葉では説明しきれない何かが流れた。
それはまるで、夏の熱気の中に見つけた一瞬の涼やかな風のようだった。
「この夏、よかったら一緒に過ごさない?」
明音は思い切って言った。
輝琉は驚きながらも、その明るさに心を惹かれていった。
この物語を書き終えて、心の中にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
短い夏のひとときに詰め込んだ、輝琉と明音の出会いと別れ。
切なさと温かさが入り混じるこの物語が、読んでくださった皆さまの心にも何かを残せていたら嬉しいです。
音楽は言葉以上に人の心を動かし、つながりを作る力があると信じています。
だからこそ、主人公たちが音に輝き、そして輝かされる瞬間を大切に描きました。
これからも、心に響く物語を紡いでいけたらと思っています。
読んでくださり、本当にありがとうございました。