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手の皮は割とすぐ剥ける

 手がボロボロだ。さっきっから何回か、血で斧が滑って遠くへ飛んでいった。ジャックのものよりは小さいし軽いとはいえ、持った時にはずっしりとした重さを感じた。そんなものをブンブンブンブン振り回しているのだ。そりゃ、手もボロボロになる。


 正直、手に力が入ってない。それでも速く振る。そうするとなんだか、ジャックが降る時に死んだように思った理由がわかる。力を入れるよりも抜いている時の方が速く振れる。より全身のバネを使うしかないような。一番楽に振れる方法を試していくうちに辿り着いていく。


「すまん、遅くなった」


 本当に申し訳なさそうにしているジャックの手が私の斧を取り上げた。息を切らし、血がついた服も着替えずにここまで来てくれたようだ。


「忘れてるんじゃないかと思った」

「いや、俺も申し訳ないとは思ってる。それと同時にひいてる、お前に」

「ひいてるって何!」

「いやお前ヤバいって、ナチュラルにその血だらけの手をズボンで拭くな! 戦闘民族かなんかか? 木に恨みでもあんのか!」


 ヤバいやつだと! 日本って国にはなぁ、二徹の人間に倉庫の管理させる会社ってのがあんだ。この程度でヤバい扱いしてたらその人たちはもう……。


「お金」

「欲望は底知れないってやつか、一回振ってみろ。最後」


 ヤバいやつ扱いされたことは腹が立つけど、今日の成果をジャックに見て欲しい。


 脱力。もう力が入らないだけだけど。そして踏み込む。自分がキツイって思う場所より少し遠めに足を持っていく。力を脱いでいるとバランスがとりやすい。そして踏み込んだ足に向かって体重を移動させ、遅れて出てくる斧の重さを利用して、ここだというポイントで力を入れる。


「やるじゃねぇか、俺が始めて5日目と同じくらいの形ができてる。なんとか冒険者始めるまでに形になりそうだ」

「本当?」

「あぁ、このペースでいけりゃあな」


 お金のために自分が傷つくのはしょうがない。なんとかなるならなんとかして見せるのが私のやり方でございやす。


「そう言えばジャック、なんでこんなに遅れたの?」


 私の服にも拭いた血がついてるけど、ジャックの服はそれ以上に中々の量の血がついていた。


「いやな、ギルドの予想したモンスターと、実際に出たやつが違いすぎてな。ドンチャンあったんだ」

「どんなの出たの?」

「最初は害獣指定だったんだ。狼くらいの予想だった。現場に行ってしばらく探してたらよ、とんでもない速さの狼だったんだ。モンスターだな、体毛が針みたいになってたし」


 セレンの記憶によると、普通の動物の突然変異体のことをモンスターと呼んでいるらしい。何かやたらめったら角が鋭くなってるとか、ずば抜けて知性が高いとかそんなの。母親から聞いただけなのだけど。


「そんで当たんねーんだよ攻撃が。だからよ、カウンターしかねぇっつって、突っ込んできたタイミングで思っきし斧をぶち込んだら前足だけ切れた。そしたらあいつ急に二足歩行になるは前足また治るは訳わかんない事し出したから今度は脳天から真っ二つにしたら流石に終わった。後は事情把握だな、死体持ってったらギルドのやつが聞きたいことがあるとかなんとかで今だ。ちゃんとギルドのやつにもちょっと巻きで頼んだからな、そんな顔で見るな」


 何か楽しそうに喋るジャックを微笑ましく見ていただけなのだが怒っていると勘違いされたらしい。


「それでどの程貰ったの? これは」


 親指と人差し指を合わせて作ったOKマークをひっくり返す。


「それでな、二万シードだ。まぁ? 村に? 五割くらい入れるからな。一万だとはいえな、フフ」


 ゴツゴツした顔が綻び笑いが漏れ出ている。ビブラートしてる。声が。何とかおこぼれを貰えないかと手を出してみたが、無視された。


 因みに二万シードはそこまでの大金ではない。そこまでと言ったら語弊があるが、感覚で言えばそこそこの焼肉屋で一人で好き勝手食べたら無くなるくらいの額だ。円と同じくらい。


「明日はどうすれば良いの?」

「同じに決まってんだろ。素振りだ。良いか? 木こりは一日にしてならず、だ」


 いやこれ多分明日も手の皮治ってないと思うんですけどねー。


 やらせていただきます。


「セレンちゃん、やってる?」


 多分木こりなんだろう。ジャックと比べてガタイが良いわけではないが、何というか歩き方に軸がある。その軸が中心よりも少し右側に寄っている。四十代くらいなのだろうが、なんか元気そうってのがストレートな印象。


「こんな感じ」


 やっているか? と聞かれたから取り敢えず手のひらを見せてみる。


「ねぇジャック、セレンちゃんってこんなガンギマリなの? もうなんか皮の奥みたいなの見えてんじゃん。あれめっちゃ痛いでしょ」

「あ? ガンギマってるに決まってるだろ」


 木こりの中で、私はガンギマってるに決まってるらしい。十歳の女児に対してなんたる言い草か。


「あぁ、自己紹介が遅れた。僕はジョン。一応木こり衆の頭領をさせてもらってるよ」

「セレンです。よろしくお願いします。ボス」

「ボス、ボスねぇ、ジャック、僕のこと明日からそう呼んでよ」

「転がされやがって。そうだな、やっぱりお前明日はボスのとこにいろ、極まってるから、ボスは」


 もしかして、ジャックってめちゃくちゃ素直な男なのか、ジョンが信じられないくらい裏で怖いのか。

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