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木こり界の風雲児

 水汲みを速攻で終わらせて、(と言っても普通に疲れるんだけどこんな軽い感じに言いたくはないんだけど。井戸水引き上げる時、ロープがズル剥けの手に擦れて信じられないくらい痛かったんだけど)ボスのところに向かった。


「セレン、良く来たね」

「よろしくお願いします! ボス!」

「とは言え、僕が教えられるのは本当に基礎だけなんだ。冒険者に役立つかは良くわかんない。ジャックは素振り大好きだからね。今日はいいよ、やんなくて」

「本当ですか? 素振りやんないと不安で寝れないかもです」

「一日しかやってないのに……」

「ボスとの特訓終わりやっときます!」

「あ、うん」


 引かれた。明確に引かれた。二歩下がられた。身体ごと引かれた。私の何がおかしいと言うんだ。子供の戯言に付き合ってあげるのが大人でしょう? 可愛らしいもんじゃないですか、女の子を幸せにしたいからお金を稼ぎたいんだーって。


「じゃあ、本当に木こりの基礎を教えてあげる。ジャックも通った道だから」

「お願いします」

「まずね、木こりの役割は、森を活かすことなんだ。もちろん、僕たちが何もしなくても健康であってくれると嬉しいんだけど、そうはいかない。人間は心配性だしね。生活に関わる森が心配なんだよ。だから、健康を害する木は切るし。逆にこちら側の傲慢で切られた木は植えたりして繋いでいかないといけない」

「成る程」

「じゃあ、木を切る方に入ろうか。まず、木を倒す方向を決める。先に木があったりすると一緒に倒れちゃうこともあるから。ジャックは例外なんだけど、木こりは基本的に何度も斧を叩きつけて削ってくんだよ。そしたらある程度行ったところでぐらついてくるから、楔を入れてちょっと倒れやすくする。あとは悲しいことにこの作業の繰り返しだよ。一本切って見せようか」


 ジョンの木の切り方は、ジャックとは別方向に凄かった。全くブレない。同じところを同じ角度からずっと叩いている。精密機械みたいだ。


「で、これくらい切れたら楔入れて、またこうやって」


 ずんずん切れ目が大きくなって木が折れた。


「ジャックに比べたらあれだけど、僕も中々やるでしょ? ベテランの技術ってやつだね」

「ヤバいっすボス。パナイっす」


 ホントに技を見たというか、洗練された技術って美しい。


「嬉しいねぇ、僕の娘にもそんな時期があったなぁ。もう村を出たけど」

「娘さんがいるんですか」

「そうだね、帰ってくるたびに幸せそうに話してくれるから、僕としては良いんだけどね。少し妬いちゃうな。ごめんね、こんな話して、やろうか」

「いえいえ」


 幸せならば良し。私の出る幕ではない。これからも幸あれと送らせてもらおう。


「同じとこに当て続けると、疲れなくて済むってのが一番の理由だね、ズレたりすると回数叩かないといけないし」

「何がコツですか?」

「コツねぇ、とにかく形を守ることだと思うよ、再現し続けてズレたと思ったら自分で調整してを繰り返していくと大分固まってくるはず。年齢を馬鹿にしない方が良いってことだね、身体もそれに適応してくる訳だし。もう斧を持ってる時が一番安定してる気さえするんだ」


 カッコいい。特に最後、「斧を持ってる時が一番安定してる気さえする」。言ってみたい。だって道具が身体の一部になるってのをまさに体現してるってことでしょ?  


「これがボス……」

「そんな目で見ないでよ、セレン、ジャックに妬かれちゃう」

「妬かねぇよ」


 私の頭に軽くチョップを入れて、ジャックが私たちの会話に入ってきた。


「ボス、終わったぞ」

「ありがとうね」


 早くない? と思ったがあの木の切り方を見るとまぁそりゃそうか。私も早く木切れるようになれないかなー。


「じゃあちょっくら行ってくる」

「今日は何の依頼を受けるんだい?」

「熊だとよ。セレン、お前ボスの言うことは全部聞けよ」


 従順さと粗暴さを併せ持つ男、ジャックはでかい身体をゆらゆらさせながら去っていった。というか、私もいつかあんな身体になるのだろうか。まぁいっか、モテたい訳じゃないしね。


「じゃあ訓練に戻ろうか」

「イエス、ボス」

「一回切ってみよう。そしたら少しずつアドバイスするよ」

「いいんですか? ちょっとやってみたかったんですよね」


 ジャックのフォームとボスの技を頭の中で思い浮かべる。何だか力が湧いてきた気がした。やることはシンプルなのだ。斧を木に当てる。しかし、その単純さの中に奥深さがあるのだ。まだ一日しか学んでないけど!


 私の斧は山に響く音を鳴らして木の中心まであと一歩と言うところまで刺さっている。


 私はボスと目を合わせてみた。


 多分、これってすごいと思う。


 あっ、うん、そうだよね、すごいことだよね。確かにジャックのあの肉体から放たれているのはなんかなってくできるけど、私の十歳ボディーかとんでもない力を出したらなんかギャグみたいだよ? だけどボス、そんなに驚かないで、何か言って、この気まずい空気を掻き消してよ、柔らかい言動で。


「ボス! どうですか!」

「セレン、多分もう僕超えてるよ」


クララ


 別にどうと言ったこともない。現代の感覚から言えば、平民の暮らしは不満を持つべきなのだろうが十年も過ごせば慣れていく。もちろん、自分ができる範囲で少々の発明をしてみようとしたが、作れたのは殆どない。竹とんぼくらいだ。大抵はコストの面で実験することができなかったし、私が一番求めたスマホやインターネットなんて難しすぎて作れなかった。ゲーム内のクララがどんな人間かはいまいちよくわかっていない。友達によると、魔法は使えるらしい。私にそんな感覚はなかった。薄暗いランプは私の心細さを何だか表しているみたいだった。


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