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木こりになろう

 金策のことを考えていた私は何かに躓いて転んだ。そこで気づく。


 私を躓かせた正体は切り株だった。


 断面が綺麗に出ているから、折れたものではないだろう。かと言って、今みたいにチェーンソーがあるわけはない。どうやって切ったんだろう。


 首を振って辺りを見てみると、切り株が沢山ある。私を躓かせたような綺麗な切り株と、戦いの痕がはっきりと見えるような切り株がポツポツあった。


 斧が木を打っているのであろう音が、山に響いている。


 これが聞こえなかったって、どんだけ集中してたんだ私。


 多分、木こりの一派のお仕事かな。


 切り株の間隔がある程度空いてるし、間伐の為に切ったやつか。その木を加工してるのか、お母さん達。

 そのままフラフラと歩いていてみる。セレンの記憶にはこの場所の記憶はないから、新しい場所を自分が開拓しているようで楽しい。


 転ばないようにしないと。


 そうやって切り株に気を取られて下の方ばっか見ていたから、倒れてきた木に気がついた時にはもう逃げられなかった。


「おっと」


 筋骨隆々の男が急に視界に入ったと思ったら、間一髪のタイミングで私を抱えて倒れてくる木を躱した。


「えーっと、セレンだっけ? 何でこんなに危ないところに一人でいるんだ」


 私と目線を合わせる為に、腰を折り曲げ、顔を私に思いっきり近づけて、眉を顰めるようにしてそう言った。


 この男の人の記憶は全くない。セレンは基本的に森に入らないし、木こり達が帰ってくるのはいつも日が暮れてからだから、木こり達がこの村にいることを知っていても会ったことは殆どない。ましてや、個人を識別できるはずがない。


「お金、欲しい」


 冷静だと思っていたが、意外とドキドキしていたのかカタコトみたいになってしまった。


 なんか恥ずかしい。


「金なー、でもこの村で生活するんだったらそんなのいらないだろ」

「将来お付き合いしている人を幸せにしたいんだよ」

「まぁ、わかるぜ? 気持ちは。俺も惚れたやつには幸せになって欲しいしな。因みに、この村で一番稼いでるやつは誰だと思う?」

「え、誰だろ。やっぱり村長かな?」

「それは大間違いだぜ、あいつの家は確かに立派だが、アイツの親父が建てたもんだ。アイツの稼ぎなんてたかが知れてる」

「じゃあ誰?」

「この俺、ジャックだな」


 誇らしそうに腕を組み、顎をしゃくっているのを見て引っ叩きたくなったが、やめておいた。取り敢えず、この男の人がジャックということはわかった。


「どうやって稼いでるの?」

「冒険者だ。俺はちょいとばかし他の木こり衆よりも腕がいい。仕事を早く終わらして、他が木を切ってる間は依頼をこなしてるってわけだ。害獣の駆除とか、出現したモンスターの討伐とかな」

「どんくらい稼げるの?」

「まぁ、人によるな。ランクがAからFまであって、Aが一番上な。A、Bまで行くようなやつは殆どいない。少なくとも、この近辺のギルドにはいない。Aは貴族と同じくらい、Bで豪商、Cの奴で、都で週に一回程度なら酒池肉林を作れる。Dの奴だったら、ちょっと頑張れば都に二年で豪邸を建てれる。Eの奴で十年だな。Fは無理だ、だって誰だってなれるし」

「ジャックは何ランクなの?」

「Eランクだ……ってそんな顔すんなよ、すげぇんだぜ? 俺くらいの労働量でEランクって、依頼をちまちまこなして」


 顔が萎んだのがバレたらしい、ジャックが早口で弁明する。


「じゃあ、魔法使えるの?」


 魔法ってあったら使ってみたいよね、私の前の世界なんて科学まみれだったし。


「冒険者の上位ランクと貴族は使えるってのは聞いたことあるが、俺は見たことないな。使えるなら勿論使ってみたいが」

「ふーん、じゃあ私に魔法は無理か」

「魔法はって、お前冒険者にはなるつもりか? この細腕で?」


 腕を手のひらに置かれてポンポンとお手玉みたく軽く空にあげられる。

 ジャックの手は冷たく、硬かった。何度も何度も削られ、再生を繰り返したことがわかる。

力強い、命を感じられる手だった。


「選択肢がないんだもん! お金欲しいし!」


 ポンポンされている手を引っ込ませてジャックに凄んでみる。


「あーあー、わかったわかった。じゃあお前、今日から木こり衆に入れ。村長にも言っとく。お前の母ちゃんには自分で言っとけよ」

「何で? 私冒険者になるのに!」

「お前まだ十だろ? 冒険者登録は十二からなんだ。その二年の間、鍛えてやるって言ってんだよ。それにだ、村の仕事もしっかりやらねぇといけねぇ、冒険者になってもだ。それが村の助け合いってやつだ。お前、今十歳なんだったら水汲みと趣味程度の編み物で許されてんだろ? 今から木こりやるってなら許されるだろうよ」


 二年の準備期間でどこまで仕上げられるかが勝負になってくるってことか。


「お願いします。ジャック師匠」

「師匠、師匠ねぇ、いい響きだ」


 ジャックの顔が綻び、蓄えた髭を指でなぞる。


 そんなに嬉しかったんだ。


「おいジャック、お前そうやって何人潰してきたんだよ」


 姿は見えないが、山の中をこだまするように声がする。

「ウルセェ、こいつはなんかやる気がすんだ」

「この前もそんなこと言ってたろー」


 今度は別の人。


「こいつの目的はなぁ、なんかあんま純粋じゃねぇからいける気がすんだよ。俺に憧れてるとかじゃねぇのって初めてだろ?」


 世界に響くように大きなジャックの声は、この山を一つの家みたいに思っているみたいで、離れていてもどこか繋がっているような気がした。


 日も暮れて来たし、帰ろう。


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