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二人の転生者

 今、私の眼には情熱的に唇を重ねている二人が映っている。お互いを求め合い、離れていくことを嫌っていた。蕩けあって、二人が重ねた唇から一つに交ざるのではないかとも思う程だ。


 片方は、小料理屋の看板娘であるシンディーで、もう片方はこの村で一番機織りが上手なマリー。


 脳が弾け飛んだ。そして一瞬で治ったと思ったら、頭の中の液体が猛烈な速度で循環して脳の再構成を始めていく。グルグルと回る頭の中で、記憶の輪郭は鮮明になる。思い出すというよりは、もともとそこに存在していたこととして捉えることができるようになった。


 私、岸本愛美だ。

 


 私が何か物語の主人公のように、他の女の子と違う点を挙げるのならば、猛烈な女の子好きということだろう。東に良い娘有りと聞けば飛んでいって玉砕、西に美しい人影見えれば舞い戻り、南に大輪有りと噂を聞けば、喜び勇んで花束を抱えて馳せ参じ、北に麗しい笑顔の主有りと知れば、迷わず風のごとく駆けつける。そんな女の子だった。だから、女の子はいればいるだけいいし、女の子に囲まれて死にたいと思ったこともある。


 そんな私の終わり方は呆気のないもので、DVを受けて離婚したいという友達の女の子を庇って殺された。まぁ後悔はない。不幸な子を一人救えたのだと思えば。


 ただ、やりたいことはできた。


 私は、悲しい顔をした女の子を全員笑顔にするんだ! 


 薄れていく意識の中で、そんな感情があったことを覚えている。


 そうか……。


 今まで何してたんだ私は!


 私というかセレンは先月で十歳を迎えた。


 女の子と付き合うには財力は必須! なんでまだお小遣いでやりくりしてるんだ。


 一度情報を整理しよう。


 私が住んでいるケイト村の人口規模は三百人ほどで、周りの森の恵みを加工することで金銭を得ている。男の人は農業や狩り、女の人はアクセサリーや木製の食器などの加工で生計を立てている。


 となると、私が携われるのは加工とかの方か。ただなー、お金が欲しいんだったら人とは違うことをしないといけないし、リスクを取らないといけないんだよねー。


「セレン? どうかしたの?」


 二人は私がいる事に気づき、その上で私が考え込んでいるせいで心ここにあらずなことを気にして声をかけてきた。マリーは本当にキョトンとしていて、シンディーは少し恥じらいを含んだような笑顔を向けながら人差し指を唇に当て、マリーの服を引いて森の方へと消えて行った。森で何をするのかを聞くのは野暮だろう。


 この世界初百合、眼福でした。


「お金お金」


 何人でもお嫁さんにできるくらい稼がないといけないのだ、そんじょそこらの小金持ち程度では満足させてあげられない。それこそ、貴族のお嬢様でもお嫁さんにしたいと思ったなら、国でも指折りのお金持ちにならないといけないだろう。


 布団で横たわりながら金策を考えるが、さっきまで十歳だった私の頭の中には村のことも世界のことも全然入ってない。本当に今まで何をしてたんだ。ただ、自分の十歳の頃を思い出してみたが、多分セレンより何もしてない。セレンには水汲みという仕事が与えられているのだ。ごめんセレン。


「取り敢えず外に出るか、何か発見があるかもしれないし」


 外に出てみると嫌でも山が目に入ってくる。青々と茂る木々が遠目からでもわかる。村は本当にその緑の流れの中にぽっかりとあるのだろう。建物は木造建築で、殆どが同じデザインのものだった。唯一、村長の家にだけガラス窓がついている。吹いてくる風は軽やかで、日本と比べると湿度が低いのがわかる。戦ぐ木々が、この世界にもう一度生まれた私を迎えてくれるみたいだ。


「なんかいいかも」


 腕をめいいっぱい広げて風を感じると気持ち良くて、童心に帰った気になる。もしかしたら十歳の体に引っ張られているのかもしれない。


 この安らかな風景がとても尊いものであり、その風景の一部に私自身がなっていることもまた、尊いことに感じた。


 もういいかもしれない。このまま村娘としてこの自然の中で身を任せてみるのも幸せだろう。


 違う!


 私はお金を稼いで、いっぱい女の子と会うんだ! それが私のやり方なんだ!


 やるぞー!



クララ


 私が転生していることに気がついたのは、生まれてから直ぐのことだった。


 母親の名前も、父親の名前も、弟の名前も、何もかも聞いたことのある名前だった。


 生まれてから今までの殆どは、どこか知識にあることで、経験してきたことをもう一度やると時間の流れが早く感じると聞いたことがあるが、その言葉通りにあっと言う間に十歳を迎えることとなった。


 この世界は、乙女ゲーの世界だ。タイトルは『祈りが届く時』だったと思う。


 王道、王道とは結局何なのか、そしてそのメタ、そのメタのさらにメタあたりが発売されだし、何がよくわからなくなってくるというコンテンツの栄枯盛衰を一通りやりきった後に、王道! と銘打たれて出てきたこのゲームはオタク達の心を浄化してくれたのだと、これなんだよ、これ、と友達がずっと説明してくるものだからストーリーは大体覚えた。


 平民のヒロインがひょんなことから貴族の令息令嬢が通うような学校に行くことになり、そこでいろんな人達に気に入られてハーレム的なものになるとかならないとか。


 こんなことになるのなら、もっと詳しく聞いておくべきだった。乙女ゲーってことは選択によって結末が変わるということなのだろう。


 ストーリーだけ知ってても何もできない。


 結局ガチプレイするしかないってことか。


 やるしかない、なるようになれ。

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