第6話 ドラゴン!?借金返済の前に死ぬって
ダンジョンの最深部にたどり着いた俺たちは、巨大な扉を前に立ち尽くしていた。
その向こうには、このダンジョンの支配者であるボスが待ち受けている。
「ここが最後の戦いだ。全員、準備はいいか?」
「筋肉はいつでも準備万端だ!」
「占いもバッチリです!」
「魔法も完璧だ!」
「……まあ、やるだけやるさ」
全員の様子を見て、俺は小さく息を吐いた。
問題児だらけだが、能力は折り紙付き。
ここまで来られたのは確かにこのメンバーのおかげだ。
胃痛が悪化する前にダンジョンを攻略しよう。
「よし、行くぞ!」
扉を開け放つと、そこには巨大な魔物――ドラゴンが鎮座していた。
全身を覆う黒い鱗、爪痕が刻まれた地面、そして壁際に散らばる装備の数々。
「あれ……あの鎧、どこかで見たことがある……?」
リリーが震える声で呟いた。
壁の隅には、無残に砕かれた剣と盾、血に染まったマント――そして、倒れたまま動かないロイたち『サンライト』のメンバーがいた。
「奴らが……全滅?」
言葉を失う俺たちをよそに、ドラゴンが咆哮を上げた。
「後で考えろ! まずはこの化け物を倒す!」
ドラゴンの咆哮が響き渡り、激しい風圧で足元の石畳が吹き飛ぶ。
「バルク、前に出て敵の攻撃を受け止めろ!」
「筋肉の本領を見せてやる!」
バルクが盾を構え、ドラゴンのブレスを正面から受け止める――と思ったら、盾を放り投げて突進。
「筋肉で勝負だ!」
「盾はどうしたぁ!?」
次々と指示を出すが、ドラゴンの圧倒的な力に押され、俺の胃はギュッと締め付けられる。
(くそ……エリクサーが手に入る前に俺が胃痛で死ぬ!)
ジークの魔法が反射され、アルトの矢が外れる中、リリーのバフと回復だけがパーティを支えていた。
「みんな、立て直せ! ドラゴンの動きを止めるんだ!」
俺の叫びを受け、メンバーたちは徐々に動きを合わせ始める。
戦闘は激化し、ついにドラゴンの全体攻撃が炸裂。
俺たちは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「くそ……こんなところで終わるのか……?」
視界がぼやける中、メンバーたちの声が耳に届く。
「リーダーを守れ!」
「筋肉は決して負けない!」
「癒します!」
「我の魔法を見せてやる!」
バルクが盾を拾い直してドラゴンの突進を受け止め、アルトが矢を急所に放つ。
ジークの火球が再び炸裂し、リリーの回復魔法が俺たちを支える。
「……お前ら……最初からそうしろよ……」
意識が朦朧とする中、俺はトロールどもの成長した姿を見ていた。
そしてついには……。
ドラゴンを討伐した俺たちは、ダンジョンの奥に隠されていた秘宝――エリクサーを手にした。
だが、俺は胃痛の限界によって地面に倒れ込む。
「リーダー!?」
バルクが俺を背負いながら叫ぶ。
「……すまねえ、エリクサー使え……。それでロイたちも……」
半分消費して何とか、ギルドへ戻った俺たち。
そこで待っていたのは、ギルドマスターのじいさんだった。
「おう、カイリ。お前ならやれると思ってたよ」
「……これで借金が返せるな」
エリクサーを差し出す俺に、じいさんは満足げに笑いながら答える。
「足りねえなぁ。半分使っちまった分を差し引くと、まだ借金は残ってる」
「……いや、そんな気はしてたけど、なんとかなんねえの!?」
「お前が助けた連中の治療費とか、装備の補充費とか、いろいろ差っ引いたらこんなもんだ。まあ、冒険者らしい経費だから、なんともならん。そんなお前に……」
じいさんは突きつけるように一枚の紙を取り出した。
そこには、新たな問題児たちのリストがびっしりと書かれていた。
「次の依頼、楽しみにしてるぞ」
「……勘弁してくれぇぇぇえ!!!」
ギルドホール中に響き渡る俺の絶叫をよそに、じいさんはニヤリと笑った。
「いい顔だ、カイリ。それが冒険者の顔だよ」
ストレスは、これからも続く――完。
あとがき。挿絵もあります。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093091008635830