第3話 俺が料理しないと死ぬパーティ
ダンジョンの奥へ進む途中、廊下の向こうから響く足音が聞こえた。
現れたのは、全身から「俺たち強いです」オーラを放つ冒険者たち。
「おい、カイリじゃないか」
リーダー格の金髪の男――ロイが、薄ら笑いを浮かべて近づいてくる。
「問題児パーティの噂は聞いてるよ、そんなの任される奴も大概さ」
俺の中で怒りがこみ上げるが、深呼吸してこらえた。
相手にしても時間の無駄だ。
だが、ロイはわざとらしい声で続ける。
「君たちみたいな寄せ集めが、こんなダンジョンで生き延びられるとは思えないけど……ま、健闘を祈るよ」
その言葉に、バルクが拳を握りしめて前に出る。
「筋肉で黙らせてやる!」
「やめろ、バルク」
俺はその腕を掴んで止めた。
「こんな奴らに時間を割くな。進むぞ」
ロイのパーティは笑い声を上げながら去っていった。
俺たちの空気は最悪だったが、それ以上に全員が疲れ果てているのがわかる。
「……とりあえず休憩だ。座れ。飯を出せ」
全員がバッグを漁るが、出てくるものは予想を超える残念っぷりだった。
バルクが自信満々に取り出したのはプロテインシェイカーだ。
「これで十分だ!」
「……はぁ、そんなの飲むだけで体力回復すると思うか?」
「プロテインは筋肉に直撃する。筋肉全開だ!」
「もう意味わかんねえよ!」
リリーは大量のキャンディーを取り出して笑顔を見せる。
「これ、占いで『糖分を摂ると運気アップ』って言われたんです!」
「運気が上がる前に血糖値で倒れるぞ!」
アルトがバッグから出したのは……カラッカラに乾燥した物体。
「それ、化石か?」
「いや、干し肉」
俺は頭を抱えるしかない。
ジークはバッグの奥から、まさかのキャンドルスタンドを取り出した。
「……お前、何してんだ?」
「優雅に食事を取るには雰囲気が必要だ。ワインもあるぞ」
全員の悲惨な「食事」を見て、俺は立ち上がる。
「お前ら、全員アホだ。飯もまともに用意できねえ奴らが、ダンジョン攻略できるわけねえだろ!」
鍋を用意し、保存食や拾ったキノコを放り込みながら説教する。
「プロテインやお菓子じゃ体力は保てねえ。狙撃や魔法も力が出なきゃ意味がないだろ?」
「だが筋肉は裏切らない!」
「裏切らない筋肉に燃料が必要なんだよ! お前は脳みそを入れ替えろ!」
「つまり、どういうことだ……?」
筋肉を無視してリリーに向き直る。
「じゃあ次から何か……考えます!」
「考えるだけじゃなく実行しろ! 栄養のいい食事占いとかあるだろ」
「目からウロコ!」
「……まぁ、干し肉だけはキツイか」
「たりめーだ!」
「仕方ない。我もスープに興味が湧いてきた」
「おめえ普通に腹減ってんだろ!」
スープを平らげた全員が、満足そうに顔を上げる。
しばらく無言だったリリーが、小さな声で呟いた。
「カイリさん……やっぱりすごいです。私、ダンジョンって遊びみたいなものだと思ってました」
「やっぱりそうだよなぁ!? 次からちゃんと準備しとけ!」
その横で、バルクがスプーンをぎゅっと握りしめる。
「筋肉だけじゃ駄目なんだな……」
「ようやくわかったか。でも鍛えるのは続けろよ」
その瞬間――バキィッ!
バルクの手の中で、スプーンが真っ二つに折れた。
「スプーンで鍛えようとすんな! それ弁償な!?」
俺は呆れながら通知のきたスマホを取り出し、確認する。
《スプーン破損補填:+50ルース》
《現在の借金:170,400ルース》
「よくわかんねえけど、借金減った……!?」
俺は驚きつつも、思わず顔をほころばせる。
それを見たアルトがニヤリとしながら呟いた。
「借金が減るなら、他の皿も割ってみるか?」
「やめろ!」
ジークがため息をつきながら杖を掲げる。
「ふむ、リーダーを少し見直した。我も、少しは協力してやろう」
「言っとくけど、お前は最低評価だからな!」
リリーが微笑みながら言う。
「カイリさんがいるから、私たちちゃんと生き延びられるんですね」
「ホント、マジで、そう!」
全員が一斉に頷き、ほんの少しだけ頼れる顔つきになった気がした。
俺は鍋を片付けながら、ふと思う。
こいつらでも、うまく使ってやれば……。
そう思いながら、次の部屋への扉を開ける。
地獄は続く――だが、少しだけ光が見えた。