ウィルフレド その5
相変わらず布を頭から被っているが、私を睨まなくなった。
私が食べてみせた後のものでなくても、出したものを全部食べるようになった。
これは嬉しい成長、いや快気だ。
とはいえ、私が声をかければびくっと震え、近づこうとすると布に隠れてしまう。
…………
まぁ食べるようになっただけ良かったと思おう。
さらにしばらくすると、布を被らなくなった。
観察するように私をじっと見てくる。
私の行動が気になるのだろうか。
それとも人族として観察されているのか?
それは視察のためか、それとも興味か。
ふむ。
確かに私も興味はある。
人族と魔族に外見的な差異は見られない。
隣国に住むエルフ族やドワーフ族、獣人族などは、人族とは明確に異なる特徴を備えているというのに、魔族は人族と同じ姿をしている。
違いがあるとすれば、魔力、身体能力、生命力と言ったところだろうか。
……もしかすると見えないところに違いがあったのだろうか?
着替えさせた時には気が付かなかった。
この子も私からその差異を探そうとしているのかもしれない。
あ……
ぐいっと顔を背けられてしまった。
考え込みすぎて、見過ぎてしまっていただろうか。
私の一挙手一投足に怯えなくなった。
声をかけても返事はないが、口を開きそうな素振りはある。
話してもいいのか悩むような様子だ。
魔族として、人族との接触に思うところがあるのかもしれない。
それでも、この子が自分から反応しようとしてくれているのは嬉しい前進だ。
もう少し慣れてくれれば、いずれは言葉を交わすことができるかもしれない。
また魘されている。
眠っているのに辛そうに顔を顰めて、息も荒い。
怯えるように口から零れてくるうわ言は、謝罪と助けを求めるもの。
謝罪はおそらく同じ魔族に対するものなのだろう。
しかし助けは、どこか違うように思えた。
魔族に対するものではない。
では誰に……――
覗き込んでいた私の袖が、伸ばされた手に掴まれる。
しがみつくように、縋りつくように、私の服を握り締めてきた。
…………
私は魘されるこの子の頭を撫でる。
先日も同じように撫でてやると落ち着いたように穏やかな寝息に変わっていた。
今回も同じように悪夢が去ってくれるよう願いながら、この子の頭を撫でる。
しばらくすると落ち着いたように寝息をたて始めた。
しかし、私の袖を掴んだまま放してくれない。
寝顔も寝息も穏やかであるにも関わらず、手だけが頑として緩まない。
どうしたものか。
これでは私は自分の寝床に戻れない。
とはいえ、安心した様に眠る顔を見ていると、仕方ない気になってくる。
私は解放を諦めて、その場で横になって寝た。
朝起きると、いつもより遅い時間になっていた。
あの子は……?
また布を頭から被っていた。
また振り出しか。