ウィルフレド その2
逃げられた。
いや、正確にはまだ逃げられていない。
寝かせていた寝台の近くにある小窓に頭から飛び込んで、ワタワタと足掻いている。
腰か尻がつっかえているのかな?
バタバタと暴れている足が何度か地面を蹴り、外に転がり出てしまった。
どこに逃げるつもりだろうか。
向かう先だけでも確認しようと小窓から外を見ると、転がり落ちたその場で尻もちをついたまま動かない。
痛みに打ちひしがれているという様子ではない。
ただ、呆然としている。
動かないなら慌てる必要はないか。
入口に向かい、小屋をぐるりと回る。
変わらずその場でへたり込んでいる。
景色に見入るように、その視線は遠くに向けられている。
魔族の住む環境と比べて、その違いに驚いているのだろうか。
正直、魔族がどのような環境で暮らしているのかは分からない。
しかし初めて魔族が現れた時、その要求は土地の明け渡しだったという。
もちろん今まで住んでいた土地を無条件で明け渡す要求など吞めるはずもなく、人族は突っ撥ねた。
その要求から考えれば、単に領土を増やそうとしているか、より良い土地を探していると想像はつく。
この子の様子を見る限り、おそらくは後者なのだろう。
よほど元の環境と景色が違うのか、近付く私にまるで気づいていない。
横に立ち、立ち上がらせるために差し出した手で、ようやく私に気付いたようだ。
私の顔を見て怯えているが、腰が抜けているのか、立ち上がれない。
私はそんなに怖い顔をしているだろうか。
とはいえ、このままにはできない。
差し伸べた手は恐る恐る取られたので、どうにか立ち上がらせる。
手も体も震わせているが、それでもしっかりと私の手を握って離さない。
もう逃げることはなさそうだ。