ものづくりをする理由
小説を書くときにいつも意識しているテーマは、「同一人物の中に存在する矛盾した二面性と第三者によるその受容」です。
まず、「同一人物の中に存在する矛盾した二面性」について。
誰しも、自分の中で矛盾する感情に苛まれたことがあるでしょう。
例えば、美味しいものが食べたい。だけど太りたくない、とか。
例えば、朝、もう少し寝ていたい。だけど遅刻して怒られたくない、とか。
例を挙げれば枚挙にいとまがないわけです。人はときに理性と感情が、またあるときには二つの感情が矛盾して自分の中で対立して葛藤します。
ではこの矛盾が極端に激しい対立となり、どちらを選ぼうとも選ばれなかった自分が常に自分を苛み続けたらどうでしょう。
矛盾する自分が、真逆の感情や性質を持っていようとも、水と油のように混ざり合うことなく、その両方が本当の自分として心の中に内在し続けたならば。
多くの人にとって人生の主体は自分であり、その自分は一人であることを当たり前に受け入れているものと推察します。
ですが、ごく稀にそうではない人がいるのです。
心の中に存在する矛盾した自己それぞれが常に葛藤し、悲鳴を上げているのです。ですが、僕はそれを直接言葉にする術を持ちません。
この苦痛が僕のものづくりの原点にあります。直接的な言葉では表現できないから、別の方法で伝える形を模索しているのだと思います。
今のところ、それが小説という形に落ち着いています。