愛人の息子 視点
「一緒に住んでくれないか」
なんで?と思ったが口には出さなかった。
この人は母と仲がよかった。
母と仲がよかったから母と俺の生活費を出してくれた。
母と仲がよかったから母と旅行に行った。
俺は家で留守番だった。
母と仲がよかったから俺の学費を出してくれた。
俺がどこの中学、高校、大学に行ったのかはよくわかっていないようだった。
俺の名前もはっきりと覚えていないだろうな。なんてたって俺は母の息子、というだけだったし、名前を呼ばれた覚えもない。
「血のつながったお子さんと一緒に暮らした方がいいのではないのでしょうか?」
そう言うと母と仲がよかったあの人は去っていった。その去っていく背中を見て覚えたのは恐怖だった。あの人はまたここにくるかもしれない。その時に誰かがあの人と俺の母との仲を知っていたら、それが広まってしまったら。そうなってしまった時に後ろ指をさされることを考えて寒気がした。妻と子供に自分と同じつらさを知ってほしくなかった。
あの人がきた後すぐに転勤が決まり、ここから引っ越すことになってよかった。
あの人は母と仲がよかっただけの他人なのだから。
俺に関わらないでほしい。
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