報告-11の月、7日、4枚目
アドソンからゴッセへ
二店舗目は紅茶店。
様々な茶葉にフレーバーティー、茶器にカップ、贈答用のお菓子と茶葉のセットなど、所狭しと並んでいるはずが優雅に感じるのは、ひとえに店長さんのセンスの良さなのだろう。
こちらの世界にはカフェオレはあるが、アドソンの言うようにミルクティはないそうだ。なぜだ。
茶葉はティーバッグがあるようで、あっさりとしたもの、ふくよかな味わいのもの、フレーバーティーはレモンのものを選んだ。
包んでもらいながら、店内を見回し、紅茶を包んで次に買いに来るときにはぜひとも自分専用のティーカップが欲しいとサクラは鼻息を荒くする。
さくっとお会計を済ませてくれたアドソンにお礼を言っているところに、ゴッセが戻ってくる。
「お嬢様、次のお店は私とご一緒に行きませんか?」
慇懃に礼をして、手を差し伸べてくれるゴッセに対して、差し出された手を取るなんてお作法に疎いサクラが固まる。
「なーんてね、さっさと行くよー」
ニヤリと笑いながら、舌を出して悪い顔をし、身を翻すゴッセ。
呆然とするサクラを見ながら、クスりと笑うアドソンがサクラの背中を押す。
「俺も他の店を見てくるから、ゴッセの財布を空っぽにしてやってよー」
「・・・分かりました。そうします!」
驚かせたことを後悔させてやろうと黒いやる気をみなぎらせた。
「さて、どのお店から行く?」
サクラが追いついたのを見て、ゴッセさんが質問する。
「・・・肌着を買います」
「へ?」
「肌着と普段着と靴下を買います!」
「俺様と行くのかよ・・・」
眉間に皺が寄っているゴッセさんを見て、してやったりとサクラはほくそ笑む。
「メッツェン様が言ったのですよ。嫌なら、お店の前で待っていてください」
「・・・それ、嫌じゃなければ一緒に入るってことだからね?」
小さな溜息混じりに答えるゴッセさんは、飽きれ気味だ。
それでも進行方向が変わり、二階に向かっている。
「それがどうしたというんですか。お財布様に一緒に来てほしくないなんて考えはありませんよ」
サクラはニヤリと笑いながら、ゴッセを見上げる。
「お財布様・・・ほら、異性としての矜持というものがあってね」
「ゴッセさんはお財布です!あと、普段着で少し相談に乗ってくれればいいです」
「分かったよ。もぅ・・・サクラは潔いなぁ」
小さく息を吐きだし、ゴッセは笑う。
人生諦めが肝心だ、とサクラは一人頷く。
「まぁ長く生きていれば色々ありますから」
「ふふ、長く生きたからって異世界には来ないけどね」
「私のいた国ではありふれた物語でしたよ?」
「えっ、何それ、怖い」
思わずゴッセは立ち止まってしまう。
何と説明して良いのか分からないが、サクラにとっては、異世界転生は見慣れたエピソードであった。
目を見開いて驚くゴッセに、サクラはフォローを入れる。
「あの国の人々は昔から想像力が豊かでしたから・・・」
「その話、いつか教えて!」
「えぇ、質問してくだされば、基本的には何でも答えますよ。・・・あら、今日はなんだか沢山答えてしまった気がします」
「いや、あと一つ残っていたはずだっ!」
「んーまぁ良いです。あと一つの特別な質問と、お店や商品に関しての質問は分けて考えますね」
今日の三つの質問は既に二つ答えていたが、サクラとしてはアドソンが三つ、ゴッセが三つとしても良いのだ。
誰からも言われないため、黙っている。
生殺与奪権も雇用主とのしての権利もメッツェンにあるのだから、質問項目を増やせと言われれば、拒否する気はない。
まだこの世界に来て三日目だが、メッツェンたちは信用しても良いのだろうと、サクラは感じた。
もちろん、城の使用人たちの中には、メッツェンの我儘に振り回されている者もいるため、そこはそこで受け止めている。
綺麗事ばかりでは済まないのはどの世界も同じで、ある程度人の醜さも知っている年齢のサクラは、それでもサクラを雑に扱わないメッツェンたちを評価している。
処変われば常識も変わるってやつですね。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。